【薬剤師に聞く】糖尿病治療のための「経口血糖降下薬」 の種類・特徴・服用時の注意点は?
遺伝性のものや生活習慣が理由で発症する、糖尿病。そんな糖尿病治療薬は数が多く、どの薬が自分にあったものなのか難しいと感じる方もいるかもしれません。そこで今回は、糖尿病治療で使用される薬の種類や特徴について、薬剤師の増田さんに解説してもらいました。
監修薬剤師:
増田 衛二(薬剤師)
目次 -INDEX-
糖尿病の種類とは 1型・2型糖尿病それぞれの治療法を解説
編集部
糖尿病について改めて教えてください。
増田さん
糖尿病とは、食事などから取り入れた糖質を血液中または組織から細胞へ移動させられず、血液中の糖質量が多くなる疾患のことです。これにより、血管が傷んで動脈硬化が起こり、進行すれば血管壁に老廃物が溜まって血管を詰まらせ、破裂させる可能性があります。短期的な自覚症状としては、口の渇きや多飲・多尿の症状、長期的では糖尿病性網膜症や腎症、神経障害、壊疽が起こります。糖の吸収にはインスリンという物質が関わっています。この物質には膵臓から分泌され、糖の吸収を促し体内の様々な細胞や組織に糖を届ける役割があります。
編集部
糖尿病は種類がありますが、どのように分類されていますか?
増田さん
糖尿病は1型・2型に分けられます。まず、糖の吸収には膵臓から分泌されるインスリンという物質が関わっています。1型は主に自己免疫によってインスリンを分泌する細胞が攻撃され、インスリンが分泌されなくなる病気です。一方2型は、膵臓が疲弊してインスリンの分泌が減少、あるいは脂肪やインスリンの受容体に対する抗体によってインスリンの作用を邪魔される状態で、生活習慣が深く関係します。
編集部
1型・2型で治療方法は違いますか?
増田さん
1型糖尿病はそもそもインスリンの分泌がないため、インスリンを使って治療することになります。2型糖尿病は罹患した背景に応じて薬が選択されます。具体的には、αグルコシダーゼ阻害薬、速効型インスリン分泌促進薬、ビグアナイド、チアゾリジン、スルホニル尿素薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、アルドース還元酵素阻害薬、そしてインスリン製剤などが挙げられます。
糖尿病治療の飲み薬にはどのような種類があるのか それぞれの特徴を解説
編集部
糖尿病の治療薬にはどのようなものがありますか?
増田さん
主に2型糖尿病治療薬になりますが、以下の薬があります。
・αグルコシダーゼ阻害薬
・速効型インスリン分泌促進薬
・ビグアナイド
・チアゾリジン
・スルホニル尿素薬
・DPP-4阻害薬
・SGLT2阻害薬
・アルドース還元酵素阻害薬
・インスリン製剤
編集部
たくさん種類がありますね。それぞれの特徴を教えてください。
増田さん
まず「αグルコシダーゼ阻害薬」は、腸の周りに薬が張り付き、体の中に糖が吸収されなくなることで血糖値を下げる効果があります。ちなみにαグルコシダーゼ阻害薬はブドウ糖のみ小腸から吸収させるので、低血糖時は飴ではなくブドウ糖を摂るようにしましょう。
編集部
では次に「速効型インスリン分泌促進薬」について教えてください。
増田さん
「速効型インスリン分泌促進薬」はインスリンの分泌に関わる膵臓に即時作用して、無理やりインスリンを分泌させる薬です。類似薬に「スルホニル尿素薬」がありますが、これは食事後の血糖値上昇と薬の効果の時間差が起こりやすいので、食前または食後に服用します。一方「速攻型インスリン分泌促進薬」は、服用するとすぐにインスリンを下げる作用があるため、食事の直前に服用する必要があります。これらの薬は即効性があるものの、膵臓が疲弊することで機能しきれない場合に効果が低くなります。
編集部
「ビグアナイド系治療薬」はどんな薬でしょうか?
増田さん
「ビグアナイド系治療薬」は肝臓での糖の生成を抑えながら、筋肉への糖の取り込みを促進させる薬です。筋力の低下を防ぐので高齢者の転倒リスクを減らすなど、糖尿病疾患以外に対する効能も期待されています。また、投与量の幅も広く使いやすい薬で多くの方に処方されています。
編集部
では次に「チアゾリジン治療薬」について教えてください。
増田さん
「チアゾリジン治療薬」はビグアナイド系治療薬の効果に加えて、脂肪細胞のインスリンの効き目をよくする(インスリン抵抗性改善)作用があります。脂肪やインスリン受容体の抗体に邪魔されると、インスリンが効果を発揮しないので、チアゾリジン治療薬で邪魔者を取り除いてインスリンの効きをよくします。
編集部
「DPP-4阻害薬」はどのような薬ですか?
増田さん
「DPP-4阻害薬」は食後血糖値が上昇したタイミングでインスリンを作るのを助ける薬です。低血糖のリスクが少ない一方、食後に忘れず使用する必要になります。
編集部
次に「SGLT2阻害薬」について教えてください。
増田さん
「SGLT2阻害薬」は、余分な糖分を尿から出す薬です。SGLT2阻害薬を飲んで24時間でだいたい80g(約320kcal)も排泄されます。また最近では腎臓の機能を保護する作用も分かってきており、腎機能が落ちている方に処方されることも稀にあります。
編集部
最後に「アルドース還元酵素阻害薬」はどんな薬ですか?
増田さん
「アルドース還元酵素阻害薬」は糖尿病で起こる合併症を減らす効果が期待できる薬です。アルドース還元酵素とは、余分な糖を別の形に変換する酵素です。これにより体内のブドウ糖がソルビトールという糖に変換されますが、ソルビトールは神経細胞内に蓄積すると、手足のしびれや傷み、足のつりなどの神経障害が現れる原因となります。そのため、ソルビトールができる前に「アルドース還元酵素阻害薬」を服用します。
糖尿病治療薬服用時の注意点を解説 副作用の症状は?
編集部
糖尿病の薬で気を付けることはありますか?
増田さん
先ほど挙げた各薬の使い方に気を付けてもらうことと、食前と食後で飲むものがあるので、しっかり分けて使うことです。
編集部
飲むタイミングを間違えてしまうと、何か影響はありますか?
増田さん
はい。血糖値を下げる目的の薬を食前に使うと、低血糖などのリスクがあります。また、「αグルコシダーゼ阻害薬」のように糖の吸収を抑えるものは、前もって薬を飲んでおかないと糖が吸収されてしまいます。
編集部
薬を服用することによる副作用の可能性はありますか?
増田さん
例えば細胞・組織への糖の吸収を促進する作用がある薬を使うと、血糖値が下がりすぎて動悸、ふらつきなどが現れます。「αグルコシダーゼ阻害薬」のように糖の吸収を遅らせる薬の場合は、腸内細菌が糖を利用して活発になるので、おなかの張りや下痢をしやすくなります。目に見えた副作用は必ずしも起こるわけではありませんので、主作用と副作用を天秤にかけて薬の使用を考えましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
増田さん
糖尿病は生活習慣病の代表例です。また、糖尿病の合併症はなるべく避けるためにも、薬での治療と食生活の改善が必要不可欠です。まずは健康診断・血液検査で早期発見を心がけ、薬が処方されたら病気と薬の理解に努めましょう。
編集部まとめ
糖尿病は初期段階ではなかなか気づくことができず、放っておくと重度の合併症に繋がる可能性のある怖い病気です。決して甘く見ることなく、定期健診を受けることや生活習慣を見直して予防・治療していくことが大切です。罹患した場合は、糖尿病に詳しい内科を受診して医師に相談しましょう。また、受診の際には、質問などをまとめたメモを持っていくと問診がスムーズに進められるそうです。参考にしてみてください。