近年増えている「逆流性食道炎」 原因と治療法を消化器内科専門医が解説
生活習慣の変化によって近年増加傾向にある「逆流性食道炎」ですが、時に食道腺がんの発症に関わることもあるといいます。普段どのようなことに気をつけたらよいか、予防や治療法について、消化器内科専門医の石岡先生に解説してもらいました。
監修医師:
石岡 充彬(日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック)
逆流性食道炎の患者さんは増えている
編集部
まずは逆流性食道炎について教えてください。
石岡先生
逆流性食道炎は、胃酸を含む胃の内容物が食道へ逆流することによって、胸焼けや呑酸症状(酸っぱいものや苦いものが込み上げてくるような症状)などを引き起こす疾患で、患者数は増加の一途を辿っています。「逆流性食道炎」という言葉を一度は聞いたことがある、という人も以前と比べてとても増えたように感じています。
編集部
なぜ逆流性食道炎の患者数は増えているのですか?
石岡先生
1. 日本消化器病学会. 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021. 南江堂
編集部
逆流性食道炎を放っておくと、どうなりますか?
石岡先生
※2. Koizumi S, et al. Is the incidence of esophageal adenocarcinoma increasing in Japan? Trends from the data of a hospital-based registration system in Akita Prefecture, Japan. J Gastroenterol. 2018;53:827-33.
逆流性食道炎の症状と治療
編集部
逆流性食道炎の胸焼けや呑酸症状以外の症状はありますか?
石岡先生
逆流性食道炎では、典型的な胸焼け・呑酸症状のほかにも、心臓病と間違われるような胸の痛みや、呼吸器の病気と間違われるような咳症状、耳鼻咽喉科領域の病気と間違われるような喉の痛みなど、多彩な症状を呈する場合があります。これらの症状に対する一般的な検査で原因が見つからない場合には、一度消化器内科を受診してみるとよいかもしれません。
編集部
逆流性食道炎の治療はどんなものがありますか?
石岡先生
※3. Singh M, et al. Weight loss can lead to resolution of gastroesophageal reflux disease symptoms: a prospective intervention trial. Obesity (Silver Spring). 2013;21:284-90.
編集部
生活習慣に気をつけても症状が改善しない場合はどうしたらよいですか?
石岡先生
※4. Hoshino S, et al. Efficacy of Vonoprazan for Proton Pump Inhibitor-Resistant Reflux Esophagitis. Digestion. 2017;95:156-161.
症状がない逆流性食道炎もある⁉︎ 症状がない場合はどうしたらいいのか
編集部
症状はありませんが、内視鏡検査をおこなったら「逆流性食道炎」と診断されました。どうしたらよいですか?
石岡先生
内視鏡検診が普及し、無症状の「逆流性食道炎」を指摘されるケースが増えています。実は「逆流性食道炎」は食道に炎症を起こしている「状態」をあらわすもので、症状のある「胃食道逆流症」とは厳密には異なるものです。しかし、「胃食道逆流症」という言葉は一般の方にはあまり馴染みがないため、症状の有無に関わらず「逆流性食道炎」の用語を使用されているケースが多く、混乱の元となっています。症状がない場合は必ずしも薬物治療は必要ではありませんから、まずは生活習慣の改善を心掛けてください。
編集部
「バレット食道」と診断されたのですが、治すにはどうしたらよいですか?
石岡先生
残念ながら、「バレット食道」は不可逆的な変化で、元通りになることはありません。これ以上悪化しないように、日々の生活習慣の見直しをおすすめします。ただし、日本の内視鏡診断精度は非常に高いため、海外では「バレット食道」とは診断されないような、ごくわずかな粘膜変化を捉えて診断されている場合も多いため、1年に1回の内視鏡検査で適切に経過観察をおこなっていれば、過剰に心配する必要はありません。
編集部
症状はありませんが、「バレット食道」や「食道腺がん」のリスクになると聞くと、予防的に薬を飲みたいと思いますがどうですか?
石岡先生
症状がない場合の予防的な内服はおすすめしません。制酸剤は比較的安全性の高い薬ではありますが、長期間内服を続けた場合にさまざまな弊害が出る可能性が近年指摘されています。例えば将来的な認知症の発症リスクを増加させたり、消化吸収能力に変化を及ぼしたり、腸内細菌叢に変化を与えたりなどが挙げられます。これらの弊害はあくまで長期間服用を続けた場合のものですから、症状がつらい時の短期的な使用を躊躇する必要は全くありませんが、薬の使用は必要最低限にとどめて、生活習慣の改善によってよい状態を保てるようにしたいですね。
編集部まとめ
逆流性食道炎は胸焼けや呑酸症状を中心に様々な症状を呈し、食道腺がんの発生にも関わります。思い当たる症状がある場合は、消化器内科を受診し診断と治療を受けましょう。また体重管理や飲酒・喫煙などの生活習慣を見直すことも有効ですので、不摂生のない生活を心掛けましょう。