糖尿病性網膜症の人が「やってはいけない運動」を理学療法士が解説NGにあたる運動とは?
糖尿病の3大合併症の1つ「糖尿病性網膜症」は一体どのような合併症なのでしょうか? 運動が重要な治療の1つである糖尿病ですが、「糖尿病性網膜症」を合併した方が、やってはいけない運動があるという専門家の声もあります。具体的にどのような身体活動に注意すべきなのでしょうか? 反対に推奨される運動はあるのでしょうか? 理学療法士の河江さんに詳しく解説してもらいました。
監修理学療法士:
河江 敏広(理学療法士)
糖尿病性網膜症の原因・症状・治療とは?
編集部
糖尿病性網膜症の原因や症状について教えてください。
河江さん
糖尿病性網膜症は糖尿病が原因で起こる合併症の1つです。高血糖と高血圧が主たる要因と考えられています。糖尿病性網膜症は初期の段階では全く症状が現れず、重症化して硝子体出血を生じた段階で初めて気が付くことが多い合併症です。最悪の場合、失明することもあります。
編集部
糖尿病性網膜症の治療はどのように行うのですか?
河江さん
治療については重症度によって異なりますが、初期の段階では血糖コントロールと高血圧治療が優先されます。また、中等度の網膜症ではレーザーを用いた治療が実施されます。さらに病気が進み、硝子体出血を生じると硝子体手術といった大きな治療が必要になります。一方で、硝子体手術は血糖コントロールが不良であったり、適切な時期にレーザー治療を受けていないと十分な効果が得られなかったりするため、糖尿病性網膜症は早期の発見と治療が重要になってきます。
編集部
糖尿病性網膜症の分類について教えてください。
河江さん
日本において、糖尿病性網膜症は(1)単純網膜症、(2)増殖前網膜症、(3)増殖網膜症の3つ病期に分類されることが一般的です。
編集部
各分類における気をつけるべきことについて教えてください。
河江さん
どの病期においても重要なことは、『定期的に眼科受診する』ということです。単純網膜症は6ヶ月に1回、増殖前網膜症は2ヶ月に1回、増殖網膜症は1ヶ月に1回は眼科を受診することが推奨されています。また、糖尿病性網膜症を合併していなくても、年に1度は眼科を受診するようにしましょう。日常生活においては息をこらえることを伴う動作や運動などは避けるべきです。特に重量物を持ち上げる際などには息を止めがちなので、そのような労作をする場合は特に呼吸に意識が必要です。息を止めないようにして、重たいものを持ち上げるようにしましょう。
糖尿病性網膜症の人が「やってはいけない運動」
編集部
運動が糖尿病性網膜症に悪い影響を与える場合はあるのですか?
河江さん
糖尿病性網膜症に悪い影響を与える運動としては全分類において、高強度運動の実施が挙げられます。糖尿病では検証されていませんが、高強度の運動によって目の中の血流が乏しくなることが明らかにされています。特に糖尿病性網膜症が重症化している場合は、眼内の血流がすでに乏しくなっている可能性も予測されるため、高強度運動は避けるべきでしょう。
編集部
やってはいけない運動の基準や判断方法について教えてください。
河江さん
運動中に会話が出来ないくらいのきつさの運動(高強度の運動)は避けた方が良いですね。また、過度に血圧が上昇するような運動を控えることも重症化予防には重要です。「息こらえ」を伴いがちなレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動)では、息を止めて運動をしてしまうことを防ぐために、運動の回数を数えながら行うなどの工夫をしましょう。
編集部
各分類で「やってはいけない運動」はどのようなものがありますか?
河江さん
単純網膜症では高強度運動や息をこらえることを伴う運動以外、特に制限はありません。増殖前網膜症では単純網膜症での制限に加え、頭部に振動が加わる運動(格闘技など)、収縮期血圧が170mmHgになることなどは避けることが推奨されています。増殖網膜症では単純、増殖前網膜症の制限に加え、頭部を下に下げるような運動、眼圧を上昇させるような運動は避けることが望まれます。
糖尿病性網膜症の人が安全に行える運動・予防のための運動とは
編集部
では、反対にやって良い運動はありますか? またどのような良い影響があるのですか?
河江さん
すべての分類において推奨される運動・動作は、座位時間を短くする、1日の歩く量を増やすなど身体活動量を増加させるという運動手段です。これらを実施することで、インスリン感受性が高まることが明らかになっています。これらは低強度で、「息こらえ」はせず、頭部への振動も加わることが少ないため、どの病気分類の網膜症においても有用な運動手段となります。
編集部
運動をする際に注意すべき点はありますか?
河江さん
眼科受診時には目の中を診るための散瞳検査するため、瞳孔を開く薬を使用することがあります。この薬を用いることで、瞳孔の収縮が得られなくなるため、蛍光灯の光でも眩しく感じます。散瞳検査後の運動は物が見えづらくなるため、転倒や事故の危険性が高まります。また、自動車の運転も散瞳中は行ってはいけません。
編集部
ほかに糖尿病性網膜症の方が注意すべき点はありますか?
河江さん
糖尿病性網膜症は血糖値を急激に低下させることで重症化することが知られています。何らかの事故などに巻き込まれた場合は医療従事者に、「糖尿病性網膜症を有すること」を知らせた方がよいでしょう。そのため、日本糖尿病協会が発行している糖尿病連携手帳を携行することで、もしもの時に医療従事者が糖尿病性網膜症の病期に見合った血糖コントロールを行うことができるので、いつも持ち合わせていると良いと思います。
編集部
糖尿病性網膜症を予防するためにできる運動はどのようなものがありますか?
河江さん
糖尿病性網膜症の原因は血糖コントロールが悪いことであることから、有酸素運動、レジスタンス運動のいずれも糖尿病性網膜症の“発症予防には”効果的です。さらに、糖尿病性網膜症は運動量が多ければ多いほど発症リスクが低下することが明らかにされています。糖尿病性網膜症の予防においては、どの運動も継続することがとても重要になります。
編集部
最後に、Medical DOC読者にメッセージをお願いします。
河江さん
糖尿病性網膜症は初期段階なら血糖コントロールと高血圧治療が中心ですが、進行すると手術が必要になることもあります。ですから、早期の発見と治療が重要です。定期的に眼科を受診するようにしましょう。
編集部まとめ
糖尿病3大合併症の1つ「糖尿病性網膜症」は、高血糖と高血圧が主な要因で、初期段階では症状が現れないようです。糖尿病性網膜症になった場合、高強度の運動は避けるべきである一方で、座位時間を短くしたり、身体活動量を増やしたりすることは効果的であるとのことでした。