「心臓弁膜症」の症状や原因を医師が解説 初期症状の早期発見と治療で重要なことは?
高齢化に伴い、患者数が増加傾向にある「心臓弁膜症」。進行すると心不全になり、命を失うリスクにもなり得る疾患です。そのため、初期症状や原因があれば、事前に知っておきたいですよね。今回は、心臓弁膜症を早期に発見するために知っておきたいポイントなどを、「のがたクリニック」の和久井先生に解説していただきました。
監修医師:
和久井 真司(のがたクリニック)
目次 -INDEX-
心臓弁膜症の主な症状とセルフチェック方法を医師が解説 動悸・息切れやむくみ・咳は心臓弁膜症のサイン?
編集部
心臓弁膜症について教えてください。
和久井先生
簡単に言うと、心臓の弁が何らかの原因によって、きちんと機能しなくなる疾患です。心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があり、それぞれの部屋の間で血液が逆流しないように、弁がついています。その弁に障害が生じることを、心臓弁膜症と言います。
編集部
「弁に障害」とは、どういうことですか?
和久井先生
大きく分けて2つの障害があります。1つは、弁が固くなって開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」。もう1つは、弁の閉じ方が不完全になって血液が逆流してしまう「閉鎖不全」です。心臓には大動脈弁、肺動脈弁、僧帽弁、三尖弁(さんせんべん)の4つがあり、そのいずれの弁でもこれらの障害が起きますが、海外の報告によると「大動脈弁と僧帽弁の障害が97%を占める」とされています。
編集部
具体的に、どのような症状がみられるのですか?
和久井先生
- 息切れ
- 胸痛
- 動悸がする(ドキドキする)
- 気を失う
自覚症状がなくても高齢者や喫煙者は注意! 心臓弁膜症になりやすい人の特徴や原因を医師が解説
編集部
どのような人が心臓弁膜症を発症しやすいのですか?
和久井先生
心臓弁膜症には先天性(生まれつきの異常)と後天性のものがあることに加えて、急性(急激に発症する)のものや、慢性(徐々に進行する)のものがあります。また、一次性(弁そのものが固くなったり変形したりする)や二次性(弁の周りの心臓の部屋や大血管が大きくなる)のものもあります。加齢を原因として徐々に弁が固くなったり、変形したりして心臓弁膜症を発症する人が多い一方、急性心筋梗塞や急性大動脈解離などにより急激に発症することもあります。
編集部
加齢が原因になりやすいのですか?
和久井先生
はい。心臓弁膜症の発症は、加齢とともにリスクが増加します。現在、日本では65~74歳で約150万人、75歳以上で約235万人の潜在患者がいると推測されています。
編集部
なぜ、加齢が原因になりやすいのですか?
和久井先生
加齢により弁が石灰化することで固くなって、弁の開きが悪くなってしまうのです。一方、弁や弁の周りの組織が固くなって、逆流することもあります。若い人の中でもむし歯の治療後などに菌が心臓弁に住み着いて、急激に心臓弁膜症を発症(感染性心内膜炎)することもあります。激しい運動をしているときに外傷性に突然発症することもあります。また、原因不明のケースも少なくありません。
編集部
どのような人に発症しやすいのですか?
和久井先生
一般には高齢者のほか、喫煙、脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満、運動不足、ストレスなども動脈硬化を進行させるため、これらの要因を抱えている人は要注意です。心臓弁膜症は必ずしも自覚症状があるわけではないので、気をつける必要があります。
心臓弁膜症は治せる? 保存療法・治療薬・手術治療など心臓弁膜症の段階別治療法を解説
編集部
心臓弁膜症は、どのように治療するのですか?
和久井先生
症状が比較的軽く、日常生活に支障が出ていなければ、薬で症状を緩和する保存的治療がおこなわれます。保存的治療の目的は、心臓の負担を軽減し、心不全へ進行するのを防ぐことです。なお、心臓弁膜症が自然治癒することはありません。
編集部
どのような薬を用いるのですか?
和久井先生
近年、心不全の治療薬は非常に進化しています。特にβ遮断薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、SGLT2阻害薬の4つは「ファンタスティック4」と呼ばれ、心不全治療の中心となっています。心臓弁膜症における治療でも心不全への進行を予防するため、これらの薬剤を弁膜症の形式に合わせて用いることが多くなっています。
編集部
薬物治療では治らない場合はどうするのですか?
和久井先生
主にカテーテル治療と外科的な手術の2つの方法があります。カテーテルを使うものでは、高齢者の重症大動脈弁狭窄症に対して、人工弁を固くなった大動脈弁に留置する「TAVI」という治療法や、外科的な手術が困難な重症僧帽弁逆流症に対して、僧帽弁をクリップでつまんで血流の逆流を改善する「MitraClip(マイトラクリップ)」があります。これらは開胸する必要がなく、人工心肺も使わず、心臓を止めることもないので、非常に低侵襲な治療法です。
編集部
開胸するケースもあるのでしょうか?
和久井先生
はい。開胸して人工心肺を装着して心臓を止めて、心臓を切開し、弁を直したり(弁形成)、悪くなった弁を切除して、生体弁もしくは機械弁の人工弁を縫い付けたり(弁置換)する方法があります。どの治療法を採用するかは、患者さんの年齢や進行度などによって異なります。
編集部
さまざまな術式があるのですね。
和久井先生
カテーテルの治療はここ数年で本格的に始まったもので、まだ実績が多くありません。そのため、カテーテル治療は基本的に80歳以上の高齢者や開胸手術が難しい患者さんにおこないます。70代以下の患者さんは、長年の実績がある開胸手術でしっかり治した方がいいという意見もあります。近年では開胸手術の術式も洗練され、より低侵襲で傷跡が残りにくい方法(MICS:Minimally Invasive Cardiac Surgery)もあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
和久井先生
心臓弁膜症は「症状が出てから治療をしたのでは遅い」と考えられており、自覚症状が出る前に発見して治療することが重要な疾患です。そのため、健康診断や人間ドックなどで心雑音を指摘された場合や、心拡大を指摘された場合には、なんの自覚症状がなくても必ず二次健診や精密検査を受けるようにしましょう。心雑音が軽微な場合、一般内科医の聴診では見過ごされてしまうことがあるかもしれないため、必ず循環器内科や心臓血管外科などの専門医に相談して、早期発見・早期治療に努めることが必要です。
編集部まとめ
近年では薬剤や術式も非常に進化し、心臓弁膜症の治療も非常に高度化しています。一方、心臓弁膜症を放置すると心不全に至り、死を招くこともあるとのことでした。健康診断などで心雑音が指摘された場合には、たとえ無症状でも早期に専門医を受診するようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒165-0027 東京都中野区野方1-40-1 |
アクセス | JR中央本線「高円寺駅」から徒歩12分 |
診療科目 | 循環器内科 |