介護福祉士に聞く『高齢者の一人暮らし』の7つの問題点。家族が知っておくべきこととは?
高齢化によって、一人暮らしをする高齢者は増加傾向にあります。実は、一人暮らしの高齢者はさまざまな身体的・心理的・社会的問題を抱えています。しかし、介護支援サービスを利用すると、問題を抱えながらでも生活が可能です。そこで、高齢者の一人暮らしが抱える問題や家族が知っておくべきことを介護福祉士の山下さんに解説していただきました。
監修介護福祉士:
山下 有輝(介護福祉士)
目次 -INDEX-
一人暮らしの高齢者が抱えている7つの問題点とは どのような危険が考えられる?
編集部
一人暮らしの高齢者が抱えている7つの問題とは何でしょうか?
山下さん
・社会性の低下
・自尊心の低下
・金銭的な問題
・病気や認知症といった健康問題
・孤独死
・災害時の対応ができない
・事件に巻き込まれてしまう
令和5年版高齢社会白書によると、高齢者の一人暮らし世帯は65歳以上の男性6人に1人、女性は5人に1人の割合です。一人暮らしでは家族がいないため、外に出ない限り会話は少なくなります。また、令和4年度の「高齢者の健康に関する調査」によると、同居者がいない高齢者は同居している高齢者と比較して「ほとんど毎日会話をしている」の割合が30%ほど低くなります。これは、同居していた家族だけでなくその家族の知人との交流も減ってしまうためです。また、現代は生活インフラの充実により、家から出なくても生活できる環境が整っていることも、他者との関わりが減少する一因でしょう。
会話が少なくなると、他者と会っても自分から声をかける回数が減り、交流性・社会性の低下につながります。社会性の低下により、自分は孤独である、社会に必要とされていないと感じるなど自尊心の低下につながることもあります。近年は年金の受給額も低下しており、インフレによる物価上昇もあるため金銭的に生活が難しいと感じる方も増加傾向です。
参照:令和5年版高齢社会白書
編集部
この問題によって考えられるリスクは何がありますか?
山下さん
問題を抱えたまま生活していると生活の質(QOL)の低下を招くリスクがあります。一人暮らしで病気や認知症を発症しても、気付いてくれる家族がいません。また、心筋梗塞や脳出血などの疾患を発症した場合、発見が遅れると孤独死の原因となる可能性もあります。認知症になると、火をつけたことを忘れて火災が発生する、自宅から出て徘徊するなど事件が発生するリスクも高まります。ほかにも、台風や地震などの自然災害発生時には、対応が遅れて逃げ遅れるリスクも抱えています。
編集部
一人暮らしの高齢者の生活の質が低下するとどのようなリスクが想定されますか?
山下さん
生活の質を低下させないためには、定期的に友人や家族と交流し、地域の行事に参加するなど人と関わることが重要です。
一人暮らしの高齢者を支えるため、家族にできることはある? 家族が知っておくべきことを解説
編集部
一人暮らしの高齢者を支えるために家族ができることはありますか?
山下さん
家族ができることは、定期的に訪ねる、電話をかけるなど一人暮らしの高齢者と関わりを持つことです。定期的な関わりがあると、社会性の維持や孤独死のリスク軽減につながります。また、家族が訪ねてくる予定ができれば高齢者の生活に楽しみができるでしょう。忙しい場合は、電話やメール、チャットでも構いません。ほかには、今後の本人の希望を確認しておく必要があります。家族は一緒に住みたいと考えていても、本人は「今の家を離れたくない」と思っている可能性もあるからです。
編集部
高齢者を支えるために家族が知っておくべきサービスはありますか?
山下さん
・介護保険で受けられるサービス
・要介護認定を受けられるのか
・自宅近くに施設があるか
・家族の介護力
を知っておきましょう。
また、介護保険で受けられるサービスには
・訪問介護
・訪問入浴
・訪問看護
・デイサービス・デイケア
・住宅改修(手すりの設置やバリアフリーなど)
・小規模多機能型居宅介護
・特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院への入所
などがあります。 これらのサービスを組み合わせて利用すれば、最期まで一人暮らしを続けることも可能です。サービスを受けるには、要介護認定で「要支援」もしくは「要介護」の認定を受ける必要があり、要介護度によって受けられるサービスや限度額が変わるので事前に確認しておきましょう。
要介護認定を受けるためには、お住まいの市町村窓口に要介護認定の申請をします。申請後、調査員が高齢者を訪問して認定調査が実施されます。認定調査と合わせて主治医から「主治医意見書」の作成が必要です。自宅近くの施設があるか調べておくと、今後家族で介護ができなかった場合に施設を探す手間が省略できます。また、事前に施設の有無を知っておくと、施設の雰囲気を確認することもできます。施設の探し方は、自宅近くの地域包括支援センターを訪ねて相談しましょう。
編集部
高齢者への支援が家族では困難となり施設へ入所する場合、重視するポイントはありますか?
山下さん
・施設の料金
・家からの距離
・本人の満足感
の3つです。施設の料金は公的施設と民間施設で違います。公的施設の特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院では、毎月かかる費用は8万円~15万円です。一方で、民間施設のサービス付き高齢者住宅、有料老人ホーム、介護付き有料老人ホームなどは、毎月10万円~30万円と幅があります。要介護度によって自己負担額が変わりますが、施設によって目安となる料金を知っておくと、今後の経済的負担の予想が可能です。家からの距離はすぐ施設へ向かえるかどうかに関わります。家族と会う回数を多くしたいと考えている場合は、自宅から近い施設がよいでしょう。本人の満足感は、要介護度の低い高齢者が施設に入所する場合に重視するポイントです。行事が多い施設や、リハビリが充実している施設など、本人に合わせた施設選びをすると満足感が高くなります。
高齢者の入所できる施設には、
・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護医療院
・グループホーム
・小規模多機能居宅介護施設
・ケアハウス
・サービス付き高齢者住宅
などさまざまな種類があります。入所できる施設の中から解説した3つのポイントで比較して決めると、家族、高齢者本人ともに満足感が高くなります。
一人暮らしの高齢者が利用するべき支援サービスを紹介 高齢者のQOLをあげるための対策とは
編集部
一人暮らしの高齢者が利用するべき支援サービスはありますか?
山下さん
自治体や民間の企業が行っている安否確認サービス、見守りサービス、高齢者向けの食事配達サービスなどがおすすめです。安否確認サービスや見守りサービスは孤独死が起きてしまった場合に、長期間気付かれないリスクを低くするためです。郵便局員の配達時、電気・ガス・水道などの公共料金検診時に声をかけてもらえます。安否確認だけでなく、定期的に職員と関わりを持てる社会的な一面もあわせ持っています。支援サービスを利用する場合は、高齢者本人が申請もしくは高齢者本人の承諾を得て家族が申請することも可能です。
編集部
高齢者がQOLを上げるための対策は何でしょうか?
山下さん
高齢者がQOLを上げるためには、生きがいを見つけてもらう、他者と関わる機会を設けることが大切です。生きがいや他者と関わることでQOLを上げると、毎日がいきいきと過ごせるようになります。生きがいがない高齢者は、意欲が低下したり、無気力になってしまったりと生活に悪影響を及ぼす可能性もあります。
編集部
生きがいの見つけ方や、他者と関わるためはどうしたらよいでしょうか?
山下さん
趣味がある場合は、自治体で活動しているサークルなどに参加して他者と関わる機会を作るとよいでしょう。また、生きがいを見つけるためには、今までの人生で楽しかったことを思い出してみてください。それでも生きがいを見つけられない場合は、地域の介護予防教室やサロンに行ってみましょう。地域の介護予防教室を見つけるためには、地域の市役所や区役所に行って、教室が開かれる予定を確認したり職員に尋ねたりする方法があります。また、定期的に配布されている地域の広報誌にも介護予防教室やサロン、地域の行事などが記載されているので、読んでみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山下さん
高齢者の一人暮らしは、社会性・自尊心の低下、金銭的な問題、病気や認知症といった健康問題、孤独死などの問題を抱えています。家族が本人の問題を把握して、適切なサービスを利用すると、問題を抱えながらでも本人らしい生活を続けられます。ご家族の中に一人暮らしの高齢者がいる方で、長い間連絡を取っていない場合は連絡を取り、本人らしい生活を続けられるよう支援していきましょう。
編集部まとめ
今回は、高齢者の抱える問題と家族が知っておくべきことを解説していただきました。一人暮らしをする高齢者の7つの問題点に、自分の家族が当てはまるのかを確認してみましょう。当てはまる場合は、ご家族と本人で話し合い、問題が起きたときに対応できるように準備しておきたいですね。介護支援サービスはさまざまな種類があり、事前にサービスの内容を知っておけばどのサービスが高齢者に合っているか把握できます。要介護認定の申請方法と合わせて覚えておきましょう。