関節や靱帯の「PRP療法」治療後の通院や運動再開の時期を医師が解説
プロ野球選手などプロのアスリートも多く受けている「PRP療法」。自分の血液を利用した再生医療で、安全性・効果ともに高いと期待されています。今回は、PRP療法を受けた後にはどのようなケアが必要なのか、運動再開の目安はいつ頃かなどについて、「百瀬整形外科スポーツクリニック」の百瀬先生に解説していただきました。
監修医師:
百瀬 能成(百瀬整形外科スポーツクリニック)
PRP療法とは?
編集部
PRP療法とは、どのような治療なのでしょうか?
百瀬先生
再生医療の一種で、簡単に言うと「自分の血液から血小板を抽出して、それを治療に用いる方法」です。PRPはPlatelet-Rich Plasmaの略で、日本語に訳すと「多血小板血漿療法」となります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
百瀬先生
人間の血液には様々な細胞成分が含まれており、血小板はその1つです。血小板はケガをして出血したときに止血する働きを担います。そして、この血小板には成長を促進したり、組織の修復を促したりする「成長因子」という成分が含まれています。血小板は「止血の役割」と「組織を修復するときのスタートボタンを押すような役割」があると言えます。PRP療法では、血液を遠心分離機にかけて濃縮した血小板を抽出することで、その力を最大限に活用します。
編集部
PRP療法はどのような疾患に対して適応になるのですか?
百瀬先生
膝や足関節などの変形性関節症やスポーツ外傷、靭帯の損傷、関節の痛み、腰や肩などの痛み、腱の損傷など、治療対象となる疾患は非常に幅広いです。当院の場合は、PRP療法を受ける患者さんの多くが変形性関節症です。
編集部
PRP療法はどのようにおこなうのですか?
百瀬先生
まず、患者さんから血液を30~60ml採取します。その後、採取した血液を遠心分離機にかけてPRPを作り、患部に注射します。最近はPRPを抽出する際に様々な方法が用いられており、痛みの病態に応じて遠心、抽出過程を変えて投与することもあります。
編集部
PRP療法は保険適用ですか?
百瀬先生
いいえ。保険は適用されず、自費診療となります。PRP療法では、症状によって採取する血液の量が異なるため、それによって治療費も変わってきます。
PRP療法の流れと治療後の通院について
編集部
PRP療法は一度の治療で効果が期待できるのですか?
百瀬先生
腱、靭帯、難治性の筋腱損傷の場合には、2~3回おこないます。それでも効果が得られない場合には、さらに複数回おこなうこともあります。当院では、変形性膝関節症に対して3週間空けて2回治療をおこなっています。
編集部
慢性的な疾患の場合には、ずっと通い続ける必要があるのですか?
百瀬先生
いいえ。症状が落ち着いてきたら通院する必要はありません。ただし、PRP療法を受けた後は、リハビリの継続をおすすめしています。
編集部
なぜ、リハビリが必要なのですか?
百瀬先生
リハビリをすることで再発予防が期待できるからです。適度な負荷をかけることによって組織の修復が促され、再発を防ぐことができます。
編集部
いつ頃、運動を再開することができますか?
百瀬先生
とくに痛みや腫れなどの症状がみられなければ、運動を制限する必要はありません。
編集部
治療による痛みはあるのですか?
百瀬先生
PRP療法をおこなうと、体内では炎症反応が起こります。治療当日や翌日までは痛みが強く出ることもあるので、患部を保護し、安静にして過ごしましょう。
PRP療法のメリットとデメリット
編集部
PRP療法のメリットはなんですか?
百瀬先生
注射をするだけなので、体への負担が少ないのが最大の利点です。また、自分自身の血液を使用するため、アレルギーや感染などのリスクがほとんどないこともメリットと言えるでしょう。加えて、傷ついた細胞の修復を促すことで自己治癒力を高めることができる点もメリットです。
編集部
反対にデメリットはありますか?
百瀬先生
「保険が適用されないので費用が高額になる場合がある」「どれくらいの治療効果が得られるかは個人差が出やすい」などがデメリットと言えるかもしれません。
編集部
治療効果は個人差が大きいのですか?
百瀬先生
例えば、変形性関節症に対してPRP療法をおこなう場合、初期の段階や進行期であれば効果を期待することができますが、重症化していると効果を得るのが難しくなります。PRP療法は自己治癒力を高め、進行を抑制させないというのが主な目的であるため、症状がかなり進行してしまってからだと、効果をなかなか期待しにくいのです。そのため、PRP療法を受ける際には、必ずMRIなどの画像診断をおこない、痛みの原因を客観的に評価して、本当にPRP療法が必要かどうか判断する必要があります。
編集部
PRP療法は誰でも受けられるのですか?
百瀬先生
悪性腫瘍を患っている人、C型肝炎など感染症の既往がある人、関節リウマチなど全身の炎症性疾患を患っている人は受けることができません。治療前に採血をして、PRP療法が適応かどうかのチェックをします。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
百瀬先生
PRP療法は比較的新しい治療法なので現在も研究中ですが、海外ではすでに変形性膝関節症に対する有効性が明らかになっています。変形性関節症などの慢性疾患を抱えて「保険診療をおこなっても痛みなどの症状が取れない」という場合には、有効な治療の選択肢となります。初期であればあるほど治療効果が期待できるので、早めに専門医を受診することをおすすめします。また、PRP療法は「血小板の働き」を応用した再生医療ですが、PRP療法以外にも、例えば「成長因子だけを抽出したもの」や「PRPを特殊な過程でさらに濃縮し、抗炎症性タンパク質を抽出したもの」など、様々な治療法が開発されています。一人ひとりに適した治療法をご提案しますので、興味があればぜひご相談ください。
編集部まとめ
メジャーリーグで活躍する野球選手が受けたことでも知られるPRP療法。自費診療となるため治療費を心配する人もいるかもしれませんが、まずは一度PRP療法をおこなっている医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。早ければ一度で効果を実感できることもあるので、変形性関節症で慢性的な痛みを抱えている人や、スポーツ障害で悩んでいる人は検討してみてくださいね。
医院情報
所在地 | 〒390-0847 長野県松本市笹部1-5-30 |
アクセス | JR「南松本駅」 バスで約20分 JR「松本駅」 バスで約35分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科 |