「精神薬を服用すると太る」と言われる理由3選! 原因と対策を薬剤師が解説
抗うつ薬は太るというイメージが強く、処方された薬を続けるのが不安という患者さんも多いですが、なぜ太ると言われるのでしょうか? 太ることは薬を服用している限りどうしようもないことなのか、疑問に思うこともたくさんあるでしょう。そこで今回は、抗うつ薬が太ると言われている原因や対策について、薬剤師の長岡さんに伺いました。
監修薬剤師:
長岡 志帆(薬剤師)
目次 -INDEX-
抗うつ薬はどんな薬? 効果や特徴、副作用を解説
編集部
抗うつ薬とはどんな薬なのでしょうか?
長岡さん
・三環系
・四環系
・SSRI
・SNRI
・NaSSA
・SARI
・S-RIM
上記の7つに分類されます。
編集部
たくさんあるのですね。どのような違いがあるのでしょうか?
長岡さん
この中で三環系が最も古く、S-RIMが新しい薬です。抗うつ病の症状に関わるセロトニンやノルアドレナリンへの作用機序が違います。新しい薬のほうが、副作用は少ないと言われています。
編集部
薬と聞いて気になるのが副作用ですが、副作用はやはりありますよね。
長岡さん
・口渇
・便秘
・排尿障害
・眼圧上昇
・眠気
・吐き気、嘔吐
・体重増加
・頭痛
・性機能障害
・セロトニン症候群(※1)
・賦活症候群(※2)
軽微な副作用から重篤な副作用があるので、気になる症状があれば無理をせず医師に相談しましょう。
※1.発熱や発汗、頻脈、高血圧、筋緊張、アカシジア、興奮、けいれんなど、セロトニン増加によるもの
※2.イライラ、焦燥、パニック発作、攻撃性、不眠、自殺念慮など、抗うつ薬服用初回や、増量時に稀に発症する
編集部
たくさん薬がある中で新しい方が副作用は少ないと伺いましたが、全員副作用が少ない薬を処方してもらえば良いのではないでしょうか?
長岡さん
患者さんが、うつ症状以外に食欲低下や睡眠障害、焦燥感、体重増加などを訴えている場合や、患者さんの年齢によって薬を使い分ける必要があります。患者さんの合併症によっては使えない薬もあります。また、1~2週間使用しても効果が見られない場合には、別の種類に変更します。あえて古い薬を使うこともあります。副作用に対する不安はあるかと思いますが、患者さんの辛い症状を治すため、医師は様々なケースを考えて処方しています。
なぜ抗うつ薬を服用すると太るのか 太りやすくなる3つのポイントとは
編集部
どうして抗うつ薬が太りやすいと言われているのでしょうか?
長岡さん
抗うつ薬や抗精神病薬が太りやすい原因としては、3つ挙げられます。1つ目は、「薬の作用によるもの」です。これらの薬には、抗ヒスタミン作用と抗5HT2C作用があります。ヒスタミンは満腹中枢を刺激して満腹感を生じさせる物質です。この働きが薬で抑制されると満腹感を得られず、ついつい食べ過ぎてしまいます。また、ヒスタミンはグレリンという胃で分泌されるホルモンにも関わります。抗ヒスタミン作用でグレリンの量が増えて、食欲亢進と脂肪蓄積の作用が増強されてしまいます。抗5HT2C作用は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを増やす作用があり、セロトニンが増えることでリラックスできる状態になります。一方で、リラックス効果で運動量が減り、代謝が下がったことで体重が増加してしまう結果にもなってしまいます。
編集部
2つ目の原因を教えてください。
長岡さん
2つ目は睡眠障害による「ホルモンバランスの乱れ」です。抗うつ薬や抗精神病薬を処方される患者さんには睡眠障害を訴える方が多いのです。睡眠時間が十分でないとホルモンバランスが乱れ、体の代謝が低下してしまいます。これは、病気の有無に関わらず皆さんに言えることですね。
編集部
3つ目の原因はどのようなものでしょう?
長岡さん
3つ目は薬の効果で体調が回復したことによる食欲増加、体調回復です。患者さんの中には症状が辛く食事が十分に摂れず、体重が減ってしまった方が多くいらっしゃいます。薬を服用することで体調が回復し、以前と同じ食事量に戻れば体重も元に戻るので、人によっては「太った」と感じてしまうかもしれません。
編集部
なるほど。体重増加を防ぐにはどうしたらよいでしょうか?
長岡さん
まずは日々体重測定をしましょう。薬を服用してからどのように体重が変化したのか記録することで、薬の副作用か別の要因かを判断することができます。次に食事内容の見直しと運動習慣です。先程お伝えしたとおり、薬の作用で満腹感を得にくくなってしまう傾向にあるので、自分で食事内容を意識しましょう。量だけではなく、栄養バランスも大切です。また、体調が落ち着いているときには、なるべく体を動かすようにしましょう。運動は体重増加予防以外にも、心の回復にとても良いと言われています。それでも体重増加が気になるときはかかりつけ医に相談しましょう。薬の減量や別の種類の抗うつ薬にすることで改善するかもしれません。
抗うつ薬でも太りやすい薬・太りにくい薬はある? 種類・成分ごとに解説
編集部
薬によって太りやすい・太りにくいはありますか?
長岡さん
・三環系:アミトリプチリン、アモキサピン、イミプラミン、クロミプラミン
・ノルトリプチリン
・四環系:マプロチリン、ミアンセリン
・SSRI:パロキセチン、エスシタロプラム、フルボキサミン
・NaSSA:ミルタザピン
・トラゾドン
・スルピリド
以上の薬が、体重増加の副作用を認めやすい抗うつ薬です。NaSSA、三環系、パキシル、四環系とSSRI、SNRIの順で太りやすいと言われています。ほかにも、抗精神病治療薬で抗うつ薬としても使用するMARTAのオランザピン、クエチアピン、クロザピンでも体重増加がみられ、糖尿病患者には禁忌となっています。
編集部
逆に太りにくい薬はあるのですか?
長岡さん
抗うつ薬の中で、SNRIはほかよりも太りにくいと言われています。デュロキセチン、ベンラファキシン、ミルナシプランなどです。ほかには、抗精神病薬として使用するアトモキセチン、トピラマート、セルトラリンでは、逆に体重減少したという報告があります。
編集部
体重が増えたときは薬を減らしても良いですか?
長岡さん
ご自身の判断で薬をやめてしまうと、薬の成分が体内から急になくなることによる離脱症状が起き、体の不調が表れます。めまい、吐き気、頭痛、イライラ、不安、不眠といった症状を訴える方が多くいらっしゃいます。薬の服用を止めてから3日以内には離脱症状が表れると言われています。今後の治療にも影響するので、ご自身で判断するのではなく、かかりつけ医に必ず相談してください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長岡さん
抗うつ薬は太るというイメージは薬の作用としては間違いではありませんが、ご自身で体重増加を予防する方法はあります。また、体調不良により体重が減少していた方は、回復しているという証拠です。体重が増えることに不安を覚えるかもしれませんが、治療における一時的な症状ですので、まずは回復に向けて医師の指示通り服用しましょう。体重が急激に増えている、ほかに気になる症状があるときは、一人で悩まずにかかりつけ医や薬剤師に相談してください。
編集部まとめ
抗うつ薬を服用すると体調が良くなるための作用の影響で満腹感が得られにくいことや、日々運動量が減っていることが太る原因とのことでした。まずは自分の体を理解することからが治療でした。自己判断で薬をやめると体に悪影響が出ることもあるので、やはりかかりつけの先生が処方した薬はきちんと飲むことは大切です。