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「高齢者が低栄養になりやすい」のはなぜなのか 原因と対策を介護福祉士に聞く

 更新日:2023/06/14
「高齢者が低栄養になりやすい」のはなぜなのか 原因と対策を介護福祉士に聞く

高齢者は低栄養に注意が必要」とよく聞きますが、そもそも低栄養とはどのような状態のことをいうのでしょうか。高齢者が低栄養になることで考えられるリスクも気になるところです。そこで今回は、高齢者の低栄養の原因と介護者ができる対策を、介護福祉士の寺田さんに解説していただきました。

寺田 英史

監修介護福祉士
寺田 英史(介護福祉士)

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2003年より介護業界に従事。介護福祉士として高齢者の自立と尊厳を守るためのケアに尽力する。2016年より高齢者のQOL向上を目指し介護保険外サービス事業を運営する傍ら、後進の育成のために介護職員初任者研修、介護福祉士実務者研修の講師を務める。

そもそも低栄養とはどのような状態なのか 症状と原因を解説

そもそも低栄養とはどのような状態なのか 症状と原因を解説

編集部編集部

低栄養とはどのような状態のことを言うのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

低栄養とは、体内のたんぱく質などが不足し、身体機能の維持に必要な筋肉や骨を作るための栄養が足りない状態を言います。人間の体は健康的に生きるために必要な栄養素として、たんぱく質のほかにも脂質や炭水化物、ビタミンといった様々な栄養が欠かせません。1日に消費する栄養に対し、摂取する栄養が足りないことで起こるのが低栄養です。

編集部編集部

低栄養になってしまう原因とはなんでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

最も大きい原因が食事量の低下です。高齢者は老化の影響から全身の筋力が低下します。すると、噛む力が衰え満足に食事を摂取しにくくなり、食事量が低下しやすくなります。また、視覚や聴覚、味覚といった感覚機能が低下することで食事が美味しそうに見えないことや、先述した身体機能の衰えから運動量が低下し食欲も低下することで、食事の摂取量が不足しやすくなります。ほかにも、老年期に同年代の友人を亡くす、配偶者を亡くす、社会との関わりを失くすといった喪失体験が多くなることで、精神的不調をきたしやすいのも原因となり得ます。

編集部編集部

低栄養の高齢者は多いのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

一般的に高齢期になると、年齢を重ねるごとに低栄養になる傾向は強いといえます。令和元年に厚生労働省がおこなった調査によると、65歳以上では男性12.4%、女性20.7%が低栄養傾向と見られ、85歳以上では男性17.2%、女性27.9%まで増加しています。高齢になるにつれ、低栄養の高齢者は多くなるといえます。

※参照:厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf

高齢者の低栄養はどのようなリスクがある? 放置するとどうなるのか

高齢者の低栄養はどのようなリスクがある? 放置するとどうなるのか

編集部編集部

高齢者が低栄養状態になるとどうなるのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

高齢者が低栄養状態になると、まず栄養状態の低下から体重が減少し、体の中のエネルギーが少なくなることで歩きにくくなったり、疲れやすくなったりして動きが緩慢になります。そこから、さらに筋力低下を招く事で「フレイル」に陥りやすくなります。フレイルとは元々は「虚弱」や「壊れやすい」といった意味で、高齢者にとってのフレイルとは、「健康的な生活を脅かす非常に危険な状態」であるといえます。

編集部編集部

低栄養からフレイルになると、どのようなリスクがあるのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

低栄養からフレイル状態になると、さらなる運動量や食欲の低下、意欲の低下を引き起こし要介護状態になりやすくなります。また、身体の健康を保つ栄養素が極度に足りていない状態ですので、身体だけでなく免疫機能や内臓機能も低下しますので、風邪をひいてもすぐに治らず、肺炎などの重篤な二次感染を引き起こすなど、死亡リスクのある病気にかかりやすくなります。筋力が低下しているので転倒リスクも上昇し、骨折することも少なくありません。そうなると、さらに歩行機能が低下し寝たきり状態となってしまいます。ほかにも、水分摂取量が不足することで脱水症状など生命に関わる事態を招きやすくなります。

編集部編集部

高齢者の低栄養状態を判別する方法はありますか?

寺田 英史さん寺田さん

高齢者の低栄養状態を把握するには「定期的に体重測定をする」「血液検査でアルブミン値を測定する」「普段の食生活をしっかり把握する」ことなどで判別できます。低栄養とは、体に必要な栄養素が足りていない状態ですから、定期的に体重を測ると痩せているかどうかが分かります。特別な運動をしていないのに体重が落ち続けている高齢者は低栄養を疑ってもよいでしょう。また、一人暮らしの高齢者の場合は特に食生活が簡素になりやすいため、低栄養を招きやすいだけでなく、食生活を把握できる人がいないことが危険因子として考えられます。どのような食事をどれくらい食べているかを書き留めておくことで、低栄養が疑われる際の重要な根拠資料となります。

高齢者の低栄養を起こさないため、介護者にできることは? 対策を介護福祉士に聞く

高齢者の低栄養を起こさないため、介護者にできることは? 対策を介護福祉士に聞く

編集部編集部

低栄養にならないための対策はありますか?

寺田 英史さん寺田さん

低栄養を防ぐには、定期的な運動と栄養バランスの取れた食事を3食食べることが重要です。また、高齢者になるとむせやすいものや硬いものなど、食べにくい食事が増えてきますので、不足する栄養も出てきます。その場合はサプリメントで補うことも必要です。繰り返しになりますが何よりも大切なのは食事をしっかり3食食べることであり、そのためには定期的な運動で食欲の増進を図ることです。

編集部編集部

要介護者の低栄養を防ぐために介護者ができることはありますか?

寺田 英史さん寺田さん

要介護者の健康状態、身体機能、筋力量を把握した上で、無理のない範囲で体を動かす支援をおこなうこと」、また、「味覚や視覚、嗅覚など感覚器の低下が食欲低下に結びつくので彩りや味付けを工夫すること」が大切です。低栄養を防ぐためには、運動が大切だと先述しましたが、高齢者は我々に比べ激しい運動は難しい方が多いですし、どれくらいの運動が可能かはご病気や身体機能によって一人ひとり違います。介護者は高齢者一人ひとりをしっかり観察し、能力や状態の把握に努めることが重要です。

編集部編集部

低栄養を予防するための工夫点はありますか?

寺田 英史さん寺田さん

食事や運動に意欲的に取り組むためには周囲の環境的要因も大きく関係してきます。私たちも一人で食事したり遊んだりするよりも、仲のいい友達などと一緒のほうが何倍も美味しく感じたり楽しめたりすると思います。高齢者にとってもそれは同じですので、友人との食事や趣味を活かした運動など、その方に合った楽しく意欲的に取り組める環境を構築していくことが大切です。何を食べるかよりも誰と食べるかが食事を楽しむのには大切なのです。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

寺田 英史さん寺田さん

高齢になっても健康的な生活を続けて長生きするためには、低栄養からフレイル、そして要介護状態にならないようにすることが大切です。食生活や運動といった日常生活を規則正しく、そして楽しく過ごすことが大切です。介護者は、高齢者がどうすれば楽しく取り組めるかに重点を置いた支援が大切です。

編集部まとめ

高齢者は食事量の低下や運動量の低下から低栄養になりやすいことが分かりました。低栄養状態が続くと要介護状態になりやすく、健康寿命が大きく損なわれる危険性があります。普段から友人や家族との運動や食事を楽しんで健康づくりに取り組むことが大事です。

この記事の監修介護福祉士