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腎性貧血とはどのような病気? 症状や原因、予防法を医師が解説

 更新日:2023/06/28
腎性貧血とはどのような病気? 症状や原因、予防法を医師が解説

貧血」とは血液中の赤血球の数が減って、体内に十分な酸素を送ることができなくなった状態のことを言います。腎臓は尿を作るだけでなく赤血球をつくるように促すホルモンを産生しているため、腎臓の機能が低下した慢性腎臓病(CKD)になると、このホルモンが十分に産生されず「腎性貧血」になります。今回、その腎性貧血について、筑波大学腎臓内科の服部晃久先生にお話しを伺いました。

服部 晃久さん

著者
服部 晃久(筑波大学附属病院 腎臓内科)

プロフィールをもっと見る
上海交通大学医学院臨床医学科卒業、中国で医師免許を取得、日本に帰国後は筑波大学附属病院で初期研修、2020年より筑波大学附属病院腎臓内科後期研修医として勤務。
山縣 邦弘さん

共著者
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系腎臓内科学教授)

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1984年筑波大学医学専門学群(現・医学群医学類)卒業、筑波大学附属病院内科医員、同講師を経て2001年米国オレゴン大学にResearch Associateとして留学。2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授、2006年より現職。日本腎臓学会理事、日本腎臓リハビリテーション学会理事長。

腎機能低下と貧血の関係とは

腎機能低下と貧血の関係とは

編集部編集部

はじめに「貧血」とはどのような状態か教えてください。

服部 晃久先生服部先生

貧血とは、簡単に言うと「血中のヘモグロビンという物質が少なくなった状態」を言います。ヘモグロビンは血液中の赤血球の量を示す指標で、世界保健機関による貧血の診断基準では、成人男子で13g/dl以下、成人女子や小児では12g/dl以下とされています。ただし、日本人における貧血の診断基準は、年齢、性別の差を考慮しているので、この基準より少し低めです。貧血の主な原因は、出血によって血液が体外に失われたり、溶血といって体内で何らかの理由により赤血球が壊れされたりした場合、鉄・栄養状態不良など赤血球を作る材料の不足、赤血球を作る場である骨髄の異常によるものなどがあります。

編集部編集部

なるほど。しかし、腎機能の低下と貧血にはどのような関係があるのでしょうか?

服部 晃久先生服部先生

腎臓は一種の内分泌器官でもあり、骨髄を刺激して赤血球をつくるように促すホルモン「エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)」を産生します。EPOは腎臓の間質と言われる部分に存在する細胞で産生されています。そもそも、腎臓の間質には血液の酸素濃度を測るセンサーが存在しており、血液中の酸素濃度が低下すると、EPOの産生を増加させます。慢性腎臓病では、貧血状態に見合ったEPOが産生されないことで腎性貧血になると考えられています。腎性貧血では相対的なEPO産生低下以外に、赤血球寿命の短縮、鉄代謝異常、栄養障害など様々な要因も関与していることが知られています。

編集部編集部

腎性貧血の診断方法を教えてください。

服部 晃久先生服部先生

慢性腎臓病における腎性貧血の診断には、ほかに貧血の要因が無いことを確認する必要があります。また、血液中のEPO濃度を測ることも可能で、Hb<10g/dlの貧血を認められるものの、EPO<50mIU/mlであれば腎性貧血として矛盾しないと考えられます。血液疾患由来の貧血ではEPO産生反応が比較的保たれるため、多くの症例でEPO>50mIU/mlとなります。

腎性貧血の症状・検査方法を解説

腎性貧血の症状・検査方法を解説

編集部編集部

どの程度の慢性腎臓病で腎性貧血になるのでしょうか?

服部 晃久先生服部先生

慢性腎臓病では、腎機能によってステージ分類されますが、eGFR<30ml/分/1.73m2(ステージG4)以降で認められることが多く、糖尿病性腎症などではそれよりも早く、eGFR<45ml/分/1.73m2(ステージG3b)以降に認められることがあります。

編集部編集部

腎性貧血の症状について教えてください。

服部 晃久先生服部先生

めまいや息切れ、疲れやすい、動悸、たちくらみなど一般的な貧血の症状が表れます。貧血症状から医療機関を受診し、腎機能障害とともに慢性腎臓病が発覚するケースもあります。また、貧血状態が続くと心臓に負担がかかり、心不全を合併することもあります。心不全になると腎臓への血流低下から更なる腎機能の低下を招くなど、負のスパイラルにおちいることがあるので注意が必要です。

編集部編集部

腎性貧血を調べるには、どんな検査をするべきですか?

服部 晃久先生服部先生

血算検査により貧血の有無を確認し、同時に赤血球のサイズ(MCV)を見ることで大まかな鑑別が可能です。腎性貧血ですと、赤血球サイズは正常か、若干大きめと言われております。また、網状赤血球(幼若な赤血球)数、血清鉄、鉄結合能、トランスフェリン飽和度、貯蔵鉄(フェリチン)を調べることで「材料」の不足がないか、造血が盛んに行われているかの判断をします。その他、心機能評価のための心臓超音波検査、便潜血検査などを行い、失血の有無を確認し、MCVが大きめの場合にはビタミンB12や葉酸検査を追加します。

腎性貧血の治療法は主に2種類がある

腎性貧血の治療法は主に2種類がある

編集部編集部

どのような薬を使いますか?

服部 晃久先生服部先生

腎性貧血の治療には腎臓で産生されるEPOそのものを注射で投与する赤血球造血刺激因子製剤(Erythropoiesis Stimulating Agent:ESA)治療と、腎臓などでのEPO産生を促す低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害薬(Hypoxia Inducible Factor- Prolyl Hydroxylase Inhibitors:HIF-PHI)による治療があります。経口薬であるHIF-PHIは、炎症を起こしたり鉄の利用を阻害したりするとされるヘプシジンを低下させる作用もあり、注目されています。

編集部編集部

治療目標を教えてください。

服部 晃久先生服部先生

現時点では、腎性貧血を完全に正常化することが、患者さんの腎機能の進行を抑えたり、脳卒中や心臓病などのCKDにともなう合併症を防いだりする効果があるのかは、はっきりしておりません。そこで、概ねヘモグロビン値が10~11g/dl未満を目安に治療を開始します。

編集部編集部

生活上の注意はありますか?

服部 晃久先生服部先生

腎性貧血の場合には、EPO分泌低下以外に、慢性腎臓病の治療や病状により、栄養不足に陥り安いので、適切な食事、栄養指導を受けるなどの注意が必要です。

編集部まとめ

腎性貧血は慢性腎臓病において重要な合併症の一つであることを教えていただきました。症状は慢性的で緩徐に進行するため自覚しにくいですが、適切な時期に治療をすることで生活の質の改善や、腎機能障害の進行を遅らせる可能性があるとのことでした。治療薬の選択肢や適応も増えてきているため、ある程度は状態・個人に合わせた治療選択が可能とのことです。これを機に是非、慢性腎臓病、腎性貧血のことを知っていただければと思います。

この記事の監修医師