不妊治療が保険適用になった今、知っておきたいこととは 産婦人科専門医が解説
今まで不妊治療というと「自費診療」で保険が適用されない治療でした。それが2022年より不妊治療が保険適用となり、治療方針や費用が統一されました。このことにより、子どもが欲しいと望むカップルにとってどんな影響があるのか、またこれから妊娠について考えたい方々へ知っておいて欲しいこととはどんなことなのでしょうか。女性のヘルスケアを専門とされる花みずきウィメンズクリニック吉祥寺の矢野直美先生に伺ってみました。
監修医師:
矢野 直美(花みずきウィメンズクリニック吉祥寺)
目次 -INDEX-
卵子凍結について知っておいた方が良いこととは
編集部
最近、将来的に妊娠したい方が卵子凍結に興味を持っているようですね?
矢野先生
そうですね。最近は不妊治療が保険適用になったことや、卵子凍結などのニュースが話題になっています。それにより、卵子を凍結することで比較的簡単に妊娠できるのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、実際にはそう簡単ではありません。
編集部
なぜ簡単に妊娠できないのでしょう?
矢野先生
30歳ぐらいで30個ぐらい卵を凍結すると、ある程度高い確率で妊娠できる可能性があると言われています。しかし、日本では心配になって卵子凍結を検討する方は30代後半の方が多いようです。30代半ば以降になると個人差があり、何個凍結しても妊娠の保証はないと言われています。卵子凍結をして、妊娠したいと思ったときに「凍結した卵子があるから大丈夫」と思って安心する気持ちは理解できますが、より現実的な妊娠の確率を知って選択することをお勧めします。
編集部
卵子の状態を良くしておくためには、どんなことをしたらいいのでしょうか?
矢野先生
卵子の状態を良くするためには、遺伝的な要因もあるかもしれませんが、一般的には健康的なライフスタイルを維持することが重要と言われています。過度なストレスや喫煙は、早期の閉経のリスクが高くなるという統計データがあります。しかし、具体的に何をすればいいのかという点については、根拠がはっきりとしたものはありません。
編集部
「卵巣年齢」という言葉をよく聞きますが、これは何を指しているのでしょうか?
矢野先生
「卵巣年齢」は、卵子の数を予測する抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査で測定します。しかし、この検査は発育段階にある卵子数の指標になるだけで、卵子の質については評価しません。そのため、数値に基づいて安心したり不安になったりする人がいますが、20代の人でも数値が低い場合があります。
編集部
卵巣年齢が低いと、妊娠することが難しいのですか?
矢野先生
20代の人の場合は、数値が低くても自然妊娠の可能性は十分あります。ただし、数値が非常に低い場合は早発閉経の可能性があるため、ほかのホルモン値などと合わせて定期的に経過をみることをお勧めします。また、高い数値でも安心というわけではありません。
編集部
AMH検査は保険適用で受けることができますか?
矢野先生
体外受精をする人については、昨年からAMH測定に保険が適用されるようになりました。ただし、これは体外受精の排卵誘発のための検査であり、卵巣の質を評価するための検査ではありません。一般不妊治療(タイミング法や人工授精など)の段階の不妊症の人には保険が適用されないので注意が必要です。
不妊治療を考えるのはいつ頃がいいのか 不妊治療を始める前の注意点を併せて解説
編集部
不妊治療の検査を受ける時期は、いつ頃が適切なのでしょうか?
矢野先生
人によって様々です。結婚前にブライダルチェックで検査に来る方もいらっしゃいますし、年齢が若いからすぐに妊娠できると考えていても、3周期ほど試して妊娠しなかったから検査に来る方もいらっしゃいます。近年は、以前に比べて早く受診される方が増えていると感じています。
編集部
初めて不妊治療について医療機関を受診する方に、注意してほしいことはありますか?
矢野先生
不妊治療は全て保険適用になったと思われがちですが、保険適用外の検査もあります。そのため、最初におこなう検査について、受診した際に担当医と相談して決めることをお勧めします。医療機関によっては、指定の検査を受けることを必須にしている場合もあります。自費での検査費用は医療機関によって異なりますので、事前にその施設のウェブサイトなどで確認するとよいでしょう。
編集部
日本の不妊治療では排卵誘発剤を使う方もいらっしゃると思うのですが、副作用はどうでしょうか?
矢野先生
排卵誘発剤を使用することで、胸が張ったり、排卵痛が強くなったり、生理痛が強くなったりするといった副作用を感じる方がいらっしゃいます。近年では多胎妊娠を避けるためにタイミング法や人工授精の際に、たくさんの卵を作るような強い排卵誘発はおこなわれないことが一般的ですので、それ以上重い副作用がでることは少なくなりました。体外受精の場合は、一旦受精卵を凍結するのを前提に、沢山卵子を育てても重い副作用が出るのを避けるよう、工夫された排卵誘発方法がおこなわれるようになってきています。
最近の不妊治療の実際 保険適用になったことでどう変わった?
編集部
人工授精から体外受精に移るタイミングはありますか?
矢野先生
現在は、患者さんがネットで調べた情報をもとに医療機関に来ることが多いため、ステップアップのタイミングについても事前に調べられている方もいらっしゃいます。人工授精を3回から5回試みた後、次は体外受精にというイメージを持っている方が多いですね。30代後半以降の方、4~5年以上の長期不妊の方、子宮内膜症がある方などは、3回まででステップアップすることをお勧めしています。
編集部
体外受精と顕微授精はどのように選ぶのですか?
矢野先生
体外受精の次の段階が顕微授精であるという勘違いをされる方もいらっしゃいますが、精液の検査結果や過去の受精率を考慮して、必要があれば顕微授精をおこなうことが基本です。顕微授精では卵子に針を刺すという負荷がかかりますので、どちらでも受精率が変わらない方の場合は体外受精の方が好ましいとされています。
編集部
ここ数年で不妊治療に影響のあったことがありましたら教えてください。
矢野先生
助成金制度の変遷と保健適用の開始が大きいですね。段階的に助成金が増額し、最終的に所得制限がなくなりました。保健適用開始に伴い、体外受精などの生殖補助医療に対する助成金制度は終了となりましたが、保健適用の方が、高額療養費制度なども利用できるため、患者さんの負担はさらに少なくなりました。ここ十数年の間にすごく患者さんたちの治療に対する積極性が変わったように思います。以前は体外受精説明会に女性一人で参加する方が多かったのですが、最近は夫婦で参加する方が殆どです。夫も不妊治療についての理解を深めて積極的に治療に関与する、というご夫婦が増えている印象があります。
編集部まとめ
自治体からの助成金の拡充や保険診療の適用など不妊治療はここ十年の間で大きく環境が変わってきたことがわかりました。受診する側も、知識を持って治療を選択できる時代にもなってきました。妊娠は男女ともに人生の大きな転機になりうることでは無いかと思います。そのための正しい知識を持つことはその後のライフプランにも影響がでます。より多くの選択肢を持てるために知識を持っていくことは大切なことではないでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-23-1 KS23ビル(ブランシュ)6・7階 |
アクセス | JR吉祥寺駅アトレ東口 徒歩1分 |
診療科目 | 不妊治療・婦人科 |