体外受精で「採卵」する際に起こり得る副作用について解説「ほとんどないが、ある条件に当てはまる人は要注意」
体外受精のプロセスの1つに、排卵誘発剤を使用して発育した卵胞を採取する「採卵」があります。麻酔を使用したり卵巣を針で刺したりするため、痛みや出血などが心配という人もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、採卵時の副作用について「ノア・ウィメンズクリニック」院長の田中先生に詳しくお話を伺いました。
監修医師:
田中 宏明(ノア・ウィメンズクリニック 院長)
聖マリアンナ医科大学卒業。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター、海老名総合病院などで不妊・周産期医療に携わった後、現職へ。医学博士。日本産科婦人科学会認定医。
目次 -INDEX-
採卵とは
編集部
まず、体外受精でおこなわれる採卵について教えてください。
田中先生
わかりました。採卵とは、排卵の直前に卵巣から卵子を取り出すことです。あらかじめ排卵誘発をおこなって発育した卵子を採取するプロセスのことを指します。
編集部
採卵は、どうやっておこなわれるのでしょうか?
田中先生
まず、状態に応じて静脈(点滴)麻酔や局所麻酔をおこないます。そして、経腟超音波器を膣内に挿入して、子宮内部の様子を確認しながら処置をします。卵巣を針で穿刺(せんし)して、卵子が入っている「卵胞液」を吸引して卵子を取り出していきます。
編集部
採卵時は入院が必要なのですか?
田中先生
基本的に入院は必要なく、日帰りでできます。ただし、静脈麻酔を使用した場合は、少しの間ぼーっとしてしまうことがあるため、しばらくは院内で休んでいただきます。これは内視鏡検査などと同様で、少し休んでいただければ次第に回復します。
採卵時に生じるリスクのある副作用
編集部
採卵時の痛みはあるのでしょうか?
田中先生
採卵時には麻酔を使用しますが、卵胞を穿刺するときなどは痛みが生じることもあります。ただし、痛みの程度には個人差もあるため、一概には言えません。
編集部
出血などのリスクはありますか?
田中先生
わずかですが、出血を起こすリスクもあります。出血するケースには、「穿刺した卵巣から出血するケース」と「膣の壁から出血するケース」があります。卵巣から多く出血してしまった場合は、入院治療が必要な場合もありますが稀です。また、「アスピリン」などの血液をサラサラにするような薬を内服している場合は出血リスクがあるため、あらかじめ医師に伝えてください。
編集部
ほかにも、採卵時に考えられる副作用はありますか?
田中先生
これもごく稀ですが、感染リスクもあり得ます。子宮内膜症で卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞)がある場合、感染リスクが高まるとされています。万が一感染してしまった場合には、抗菌薬を使用して治療をおこないます。しかし、このようなリスクを考慮して一般的には採卵後に抗菌薬を処方します。指定された期間しっかりと抗菌薬を内服していれば、感染を起こす可能性も極めて低いでしょう。
副作用が生じる確率
編集部
説明していただいた副作用は、どのくらいの頻度で生じるのでしょうか?
田中先生
出血で入院治療が必要となる確率に関しては数%とされており、実際にはほとんど起きません。採卵で針を穿刺する際、腟に挿入した超音波画像を確認して血管を避けながら穿刺をおこなうのですが、このときに画像で確認できなかった細い血管に針が刺さってしまうことがあるのです。ただし、万が一出血があっても、多くの場合はじきに止まるでしょう。また、感染に関しても事前に予防することができるため、かなり稀なケースと言えます。
編集部
副作用が生じるリスクは高くはないのですね。しかし、このような副作用を完全に予防することは難しいのでしょうか?
田中先生
そうですね。残念ながら、副作用を完全に防ぐことは難しいとされています。しかし、血液をサラサラにする薬を内服中の人や卵巣嚢腫がある人など、副作用を生じるリスクが高い状況にある人は、事前に予防策を講じることができます。そのため、服用中の薬があったり、病気を抱えてたりする場合は、医師に伝えておく必要があるのです。
編集部
体外受精のプロセス全体を通して、採卵以外に副作用が生じることはあるのでしょうか?
田中先生
採卵以外だと、排卵誘発の際に副作用を生じることがあります。具体的には、排卵誘発剤の使用で、下痢や吐き気、腹痛などを伴うほか、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」を引き起こすことがあります。OHSSになると、喉が渇くようになったり尿量が少なくなったり、体重の増加、息苦しさ、腰痛などを生じることがあるのです。軽症の場合には経過観察で様子を見ますが、重症の場合には入院が必要になることもあります。
編集部
OHSSになりやすい人の特徴はありますか?
田中先生
痩せ型の人や35歳以下の女性は卵巣の反応が敏感であることが多く、OHSSを起こしやすいとされています。ほかにも、多嚢胞卵巣症候群を患っているとOHSSを起こしやすいと言われています。
編集部
多嚢胞卵巣症候群の人がOHSSを起こしやすいのはどうしてですか?
田中先生
多嚢胞卵巣症候群の人は排卵障害を伴っていることが多く、卵巣内で卵胞が発育せず、小さいままいくつも確認されることがあります。採卵のために排卵誘発剤をしっかりと効かせる必要があるケースがあるのですが、小さな卵胞がいくつも発育してしまうため、卵巣が腫れるなどしてしまうことがあるのです。通常、小さい卵胞は排卵しにくいのですが、このように外から刺激を与えることで全体的に反応してしまうことがあるのです。
編集部
このように副作用のリスクが高い場合には、どのように対処したらいいのでしょうか?
田中先生
先述したとおり、事前に対策を講じることが重要です。OHSSに関しては、排卵誘発の際の刺激の与え方が重要とされています。排卵誘発では、「薬を緩やかに効かせる方法」と「しっかりと効かせる方法」の2つがあります。緩やかに効かせる場合でも、成熟した卵胞を複数採取できることもあるため、このように副作用を生じるリスクが高い場合には、主治医が排卵誘発を緩やかに効かせるといった対策をしてくれると思います。
編集部
ほかにも、知っておいた方がいいことはありますか?
田中先生
採卵2日前の夜に、育てた卵胞を成熟させるための注射か点鼻薬での処置をおこないます。この際、点鼻薬の方が副作用のリスクが少ないとされているため、副作用のリスクが高い人は点鼻薬を選択するのがおすすめです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田中先生
採卵や排卵誘発による副作用は、起きてから対処することが困難です。そのため、治療を開始する前に副作用や合併症が起きないような対策を講じることが重要になってきます。リスクを減らすためにも、主治医とよく相談したうえで、体外受精に臨んでいただければと思います。
編集部まとめ
採卵時には出血や感染などを起こすリスクがありますが、このような副作用が生じる確率はかなり低いということが分かりました。しかし、子宮内膜症で卵巣嚢腫がある人は感染のリスクが高く、血液をサラサラにする薬を内服している人は出血のリスクがあるとのことでした。出血や感染を防ぐためにも、治療前にはお薬手帳を必ず提示したり、処方された抗菌薬を指定の期間しっかりと服用したりする努力が求められそうです。
医院情報
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診療科目 | 婦人科 |