幸せホルモン「セロトニン」の作用や日常生活で増やす方法を医師が解説!
別名「幸せホルモン」とも呼ばれている「セロトニン」という物質が最近話題となっており、名前を聞いたことがある人も多いかと思います。分泌されることにより幸せを感じるセロトニンは、脳の過剰な興奮や不安を抑え、心身ともにリラックスさせる効果があります。反対に、セロトニンが不足すると、不安や恐怖、イライラ、ストレスを感じやすくなってしまいます。今回は、心身ともに健やかに過ごすための鍵となるセロトニンの特徴や分泌量を増やすポイントを医師が解説します。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
幸せホルモン「セロトニン」とは? 作用やメンタルとの関係を医師が解説
編集部
まず、セロトニンについて教えてください。
武井先生
セロトニンは、ヒトが生命活動を維持するために必要であるタンパク質(アミノ酸)の1つである「トリプトファン」から合成される物質です。セロトニンは脳内の基底核に存在する神経伝達物質の1つであり、心拍数などの自律神経や精神状態に作用します。
編集部
セロトニンには、どのような作用があるのでしょうか?
武井先生
セロトニンは、過剰な神経の興奮を促す「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」などの神経伝達物質をコントロールする作用があり、精神状態を一定のレベルで安定にさせるために、心身をリラックスさせます。反対に、セロトニンが不足すると、ノルアドレナリンやドーパミンの作用がコントロールできないために、動悸・頻脈などの身体症状の悪化、不安・攻撃性の増加、パニック、感情の起伏が強くなるなど、精神面の作用を自覚するようになります。
編集部
セロトニンはメンタルと深く関係しているのですね。
武井先生
はい。セロトニンには、快眠・食欲のコントロール・緊張や怒り、焦りなどの感情を抑制する作用があるため、ネガティブな感情を抑制することによって精神を安定させる、メンタルへのプラスの効果が期待されます。そして、精神の状態が安定することにより、幸福感を得やすくなります。
セロトニンが不足するとどうなる? もしかしたらうつの予備軍かも!? 心療内科に受診を
編集部
セロトニンが不足しているサインはありますか?
武井先生
セロトニンが不足すると心のバランスが不安定になって、幸せを感じることよりも不安や焦り、怒りなどを感じるようになります。また、慢性的な全身の痛みや筋肉の過剰な緊張、入眠や覚醒が困難になる症状が生じることもあります。
編集部
セロトニンが不足するとどんな症状が出ますか? また、どんな疾患が疑われますか?
武井先生
慢性的な肉体疲労感、精神的なストレスが持続することにより、「趣味や仕事などへの意欲低下」「他人との協調性の低下」「入眠困難や覚醒困難などの不眠症」の症状が表れます。疑われる疾患としては、うつ病の関連疾患(抑うつ性エピソード)が考えられます。加えて、日光を浴びる時間が少なくなる冬に気分が落ち込む「季節性情動障害」も挙げられます。
編集部
悪い症状を放置していても、いずれセロトニンの量は戻りますか? それとも医療機関に相談した方がいいですか?
武井先生
しっかりとした休養を取ったり、趣味を楽しんだりしてストレスから解放されていけば、ある程度のセロトニン分泌は戻ります。ただし、朝が起きられない、仕事の集中力の低下、人間関係に影響が出る感情の起伏など、生活に支障がある場合には心療内科の受診を検討した方がいいと思います。
編集部
医療機関では、どのような治療が受けられるのでしょうか?
武井先生
あくまでもうつ病などの治療の1つの方法ではありますが、セロトニンの分泌を増加させる「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる内服薬の治療が検討されます。脳内のセロトニン量の増加により、前述の心身の症状を和らげることが治療の1つの目安となります。
日常生活でセロトニンを増やすオススメの方法
編集部
自分でセロトニンを増やす方法はありますか?
武井先生
まずできることとしては「日光を浴びること」、すなわち日中の外出を最低でも15分程度おこなうことが挙げられます。同時に運動やセロトニンを含む食事を摂ることなど、規則正しい生活習慣をおこない、ストレスの原因を見つめ直してそれを避ける行動をすることです。加えて、ストレスを感じない人との触れ合いも重要となります。
編集部
運動はセロトニンの分泌と関係していますか?
武井先生
もちろんです。軽い負荷のジョギングやウォーキング、水泳、ヨガなど一定のリズムの身体活動をおこなうことや、有酸素運動は脳血流が増加して爽快感を感じることが多いですね。この体を動かす、一定のリズムによる運動が、セロトニンの分泌に関与しています。
編集部
食事はセロトニンの分泌と関係していますか?
武井先生
はい。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから生成されるので、この物質が多く含まれている食品を摂ることが重要です。マグロ・カツオなどの赤身の魚、牛乳・チーズなどの乳製品、大豆、ナッツ類、バナナに含まれております。また、ビタミンB6やマグネシウムなどの栄養素も摂取が推奨されています。これらの食品の摂取を、規則正しい食生活を合わせて実行することが重要であると言えるでしょう。
編集部
セロトニンの量を下げないために注意すべきことはなんですか?
武井先生
睡眠不足は避けた方がいいでしょう。また、嬉しい、楽しいというポジティブな感情を押し殺さずに何かしらの形で表現すること、適度な運動習慣を継続することなども大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
武井先生
普段の生活において、仕事やプライベートを楽しむことが、幸せホルモンであるセロトニンの分泌や維持の鍵となります。ストレスを抱えずに日々を楽しく過ごすことが、心身の健康を保つ重要なポイントなので、まずは日常で改善できることから実践してほしいと思います。
編集部まとめ
セロトニンの不足によって心身の状態が不安定となり、睡眠・他人との協調性・意欲の低下など多彩な症状がみられることがわかりました。まずできることとしては、規則正しい生活と十分な休息、睡眠、適度な運動習慣、セロトニンの元であるトリプトファンを含む食品の摂取が挙げられます。こうした状況が改善されない場合には、うつ病疑いとして心療内科の受診をご検討ください。何よりの予防はストレスを抱えないことです。