「野球肘」とは? スポーツ肩肘専門医が症状と治し方、肘が痛い時の対応・原因を解説
野球を頑張る子どもたちのなかで、しばしば見られる野球肘。野球肘と一口にいっても、実はいくつかの種類があり、発症が多い年代にも違いがあります。野球肘の症状と治療法について、東京スポーツ&整形外科クリニックの菅谷院長にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
菅谷 啓之(東京スポーツ&整形外科クリニック)
目次 -INDEX-
野球をしている子どもに多い野球肘・リトルリーグ肘ってどんなスポーツ障害? 肘が痛む場所や原因は?
編集部
野球肘とはなんですか?
菅谷先生
簡単にいうと、野球の投球動作時によって痛みが生じるスポーツ障害の総称です。小学生や中学生くらいの成長期に起こり、多くの場合、肘にかかるストレスが増大することで発症します。
編集部
どんな症状が見られるのですか?
菅谷先生
主にボールを投げる時、あるいは投げたあとに肘に痛みが生じます。初期の頃は、日常生活で痛みを感じることはあまりありませんが、ひどくなると日常生活で肘を曲げ伸ばしする時などでも痛みが生じるようになります。
編集部
野球肘の原因はなんですか?
菅谷先生
多くの場合、投球フォーム自体が悪かったり、コンディショニング不良によってフォームが乱れたりすることによって起こります。そうした状態で投げ続けることを「オーバーユース」といい、肘に大きなストレスがかかる原因となります。
編集部
野球肘は子どもだけに起きるのですか?
菅谷先生
いいえ、大人でも野球肘に似た肘障害が起こります。しかし、子どもと大人では病態が異なり、子どもの場合には軟骨や骨に障害が起こり、大人の場合には靭帯の損傷や骨の変形が起こります。なぜこのような違いがあるかというと、成長期の子どもは骨端線(こったんせん)があるからです。骨の端にある成長軟骨の部分を骨端線といい、成長期には骨端線の部位で骨の伸長(背や手足が伸びる)が起き、成長が止まるとこの骨端線が閉じて消失します。成長期の子どもにとってはこの骨端線や骨自体が柔らかく、力学的にも弱いので、骨や軟骨に障害が起きるのです。
編集部
野球以外でも野球肘を発症することがあるのですか?
菅谷先生
あります。たとえばソフトボールや体操競技でも生じることがありますし、テニスのように、ラケットを振る動作を繰り返し行うことでも、(野球肘とは呼びませんが)野球肘と同様の病態が発症します。
編集部
「リトルリーグ肘」と言うものもあると聞きました。
菅谷先生
一口に野球肘と言っても、肘のどこに障害が生じるかによって内側障害、外側障害、後方障害の3つに分類されます。このなかで成長期の子どもに最も多く見られるのが内側障害。これは不適切な投球動作によって外反ストレス(肘の内側が開いて外側が圧迫されるようなストレス)が加わり続けることで、肘の内側にある出っ張り部分(内側上顆)の骨が分離したり離れたりするので内側上顆裂離といいます。内側上顆の骨端線が離れてくることもあります。これらの野球肘内側障害をまとめて「リトルリーグ肘」と呼んでいます。
野球肘で痛む時の対応は絶対安静? 安静期間はどのくらい? キャッチボール程度なら行って良い?
編集部
肘が痛い時にはどうしたら良いのですか?
菅谷先生
まずは投球を中止します。痛みを我慢して投球を続けると、症状が悪化して手術が必要になることもあります。内側障害なのか、離断性骨軟骨炎なのか病態を見極めるために信頼できる医療機関を受診しましょう。
編集部
どれくらい安静にしていたら良いのでしょうか?
菅谷先生
少なくとも2〜3週間程度、だいたい1か月くらいは安静を保ちましょう。患部を指で押した時に痛みがなければ、投球を開始しても構いません。しかし痛みが治まっても、以前と同じ練習や投球フォームを行っていたのでは、間違いなく再発します。そのためこの安静期間中に投球フォームの見直しや身体機能の改善など、コンディション調整を行いましょう。
編集部
肘が痛くても、キャッチボールくらいなら行っても大丈夫ですか?
菅谷先生
キャッチボール程度なら大丈夫ですが、痛みを感じるような強さでは投げないようにしましょう。
編集部
野球肘は、将来的にどのようなリスクがありますか?
菅谷先生
成長期の子どもに多く見られる内側障害の場合は、きちんと肘を休ませ、投球フォームの改善などを行えば経過は比較的良好で、のちのち大変なことになるケースはほとんどありません。しかし、気をつけたいのは外側障害、離断性骨軟骨炎です。関節内の軟骨の剥離と骨の成長障害が起こり、進行すると後遺症が必発します。野球肘全体の割合で見ると内側障害が90%、外側障害が5%程度ですが、手術が必要になる頻度が高く、手術をしても野球を断念せざるを得なくなったり、将来的に肘関節の変形や関節可動域制限などの酷い後遺症が残ったりする場合がありますので、初期の段階からしっかりとした診断・治療を受けることが必要です。
野球肘の正しい治し方を整形外科医が解説 痛む場所が肘の内側・外側で治療方法の違いはある?
編集部
内側障害か、外側障害かによって、治療法に違いはあるのですか?
菅谷先生
はい。投球動作では肘の内側と外側でかかる負荷が違います。つまり内側では骨や靱帯が引きのばされる方向に力がかかりますが、外側や後方では骨がぶつかり合って圧迫される方向に力がかかります。そのため部位によって損傷の現れ方や場所が異なり、治療法も変わります。
編集部
それぞれ、どのように治療すれば良いのでしょうか?
菅谷先生
内側障害の場合、軽度であればほとんどが練習を休んで安静にしながら、理学療法士によるリハビリを行うことで症状が改善します。一方、外側障害は上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎であり、進行度や病変の大きさによって治療法が異なります。初期には内側障害と同様に安静とリハビリテーションを基本とした治療となりますが、骨軟骨が不安定になっている場合には手術をして取り除く必要があります。また、病変部が広範にわたる場合は骨軟骨の再建手術を行うこともあります。
編集部
野球肘を予防するにはどうしたら良いでしょうか?
菅谷先生
まずは正しいフォームを身につけること。そして、全身のコンディショニングをきちんと行い、投球動作の基礎となる良好な身体機能を維持することが大切です。そのためには日常的にストレッチをしっかりすることも必要です。成長期の子どもは急激に背が伸びますが、背が伸びるということは骨が伸びるということ。しかし、骨の成長に筋肉や靭帯などの軟部組織の成長が追いつかないと、成長のアンバランスが生じます。そうしたアンバランスを解消するためにも、ストレッチがとても大切です。練習の前後だけでなく、日常的にストレッチを行うことを習慣化しましょう。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
菅谷先生
「野球肘」と聞くと、「怖い」「治療に時間がかかる」というイメージがあるかもしれませんが、コンディショニングをしっかり行ない、なるべく正しいフォームで投げられるようにすること、少しでも痛みがでたら無理をしないなど、適切に管理すれば予防することは可能です。決して怖いものではないので、いま、野球をがんばっているお子さんにはぜひ、一生懸命、練習に励んでほしいと思います。ただし、正しいフォームを身につけることが前提になるので、コーチにフォームを確認してもらうこと、また定期的な見直しを受けることも必要です。
編集部まとめ
成長期は体の構造が急激に変化する時期。そのため、予期せぬ怪我に悩まされることもあるかもしれません。しかし、きちんと怪我のことを知り、対策をしておけば、十分防ぐことはできます。大人が的確にサポートし、安全にスポーツをさせてあげたいですね。
医院情報
所在地 | 〒170-0012 東京都豊島区上池袋4丁目29-9 KITAIKE TERRACE(北池テラス)2階・地下1階 |
アクセス | 東武東上線 「北池袋」駅より徒歩2分 JR埼京線 「板橋」駅より徒歩7分 |
診療科目 | スポーツ整形外科・一般整形外科・リハビリテーション |