感染症流行の収束の鍵を握る「集団免疫」とは? 社会全体で感染症を防ぐにはワクチンが有効
「新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるには集団免疫が必要」と言われ続けています。しかし、日本でもワクチン接種が始まって、ウイルスに対して抗体を持つ人が増えても、いまだ集団免疫の獲得には至っていません。一体、どのようにすれば集団免疫を獲得できるのでしょうか。そもそも、集団免疫を獲得できれば、本当に新型コロナウイルスをはじめとする感染症は収束するのでしょうか。「瀬田クリニック東京」の後藤先生に解説していただきました。
監修医師:
後藤 重則(瀬田クリニック東京)
目次 -INDEX-
集団免疫とは? 感染症予防・感染対策で集団免疫が大切な理由を医師が解説
編集部
まず、集団免疫について教えてください。
後藤先生
簡単に説明すると、特定の感染症に対して免疫を持つことにより、感染しない人の割合が多くなると、社会全体がその感染症に対して抵抗力を持つようになります。この状態を「集団免疫」と言います。新型コロナウイルスが流行してから、よく耳にするようになりましたね。
編集部
もう少し詳しくお願いします。
後藤先生
例えば、5人の感染者が10人に感染させるとします。その10人のうち6人が免疫を獲得していて、4人にしか感染させないとすると、8割に減少します。そして、5人から4人、4人から3.2人、3.2人から2.6人、2.6人から2.0人、2.0人から1.6人と減少していきます。
編集部
なぜ、「新型コロナウイルスを収束させるには集団免疫が大切」と言われているのですか?
後藤先生
通常、感染症は人から人へ伝染し、どんどん拡大していきます。しかし、その感染症に対して人口の一定割合以上が免疫力を持つと、たとえ感染者が出ても他人に感染しづらくなります。1人の感染者が感染させる人の人数が1人未満ならば感染は減少していき、増加はしないということになります。その場合は、感染者が出現しても、流行しないことになります。そのため、集団免疫を獲得することで感染症の流行が抑えられて、感染症の免疫を持たない人も感染から守られることになり、社会全体で感染症を収束に近づけることができるのです。
編集部
どれくらいの割合の人が免疫を持てば、集団免疫の状態になるのですか?
後藤先生
感染症の種類によって異なるので一概には言えませんが、基本的には感染力の強さ(1人の感染者が感染させる人数)と免疫を獲得していて感染しない人の割合で決まります。理論的には「1人の感染者が感染させる人数 × 免疫を獲得せず感染する人の割合(%)< 1」の場合、感染は広がりません。
感染症が起きたときに集団免疫が達成されるには? ワクチンと集団免疫の仕組み
編集部
そもそも、集団免疫を獲得するにはどうしたらいいのでしょうか?
後藤先生
免疫を獲得するには2つの方法があります。1つは「その感染症に対するワクチンを接種すること」、もう1つは「その感染症から実際に回復すること」です。つまり、ワクチンを打って予防するか、あるいは自然感染して回復するかのいずれかが必要ということです。
編集部
どちらがいいのですか?
後藤先生
ワクチン接種で獲得する方が、メリットはあると考えます。通常、ワクチンの副反応は感染した場合の症状より軽いからです。また、集団や社会としては、ワクチンのメリットは非常に大きいと言えます。しかしその一方、もともとワクチンを打たなくとも感染しない人たちもいます。そのような人がワクチンを打って副反応が起こるのは、個人でみたときにデメリットとなるでしょう。
編集部
ワクチンを打つことで、実際に感染しなくても集団免疫を獲得できるのですか?
後藤先生
ワクチンを打つことは擬似感染させて、そのウイルスに対して免疫を獲得させるということです。もう少し詳しく言うと、新型コロナウイルスのワクチンはウイルスの全てではなく、その一部である「スパイクタンパク」の部分を打ちます。その結果、スパイクタンパクに対しての免疫が獲得できます。
編集部
スパイクタンパクとはなんですか?
後藤先生
スパイクタンパクは、ウイルスが細胞に入るときに必要なタンパク質です。スパイクタンパクを打てば、体内でウイルスの一部のスパイクタンパクに対する抗体が作られます。つまり、ワクチンを打つと、そのウイルスの一部に対する免疫が働き、ウイルス全部を打たなくとも感染を防ぐことができるのです。抗体が作られれば、その感染症に感染することはなくなりますから、多くの人がその状態になれば集団免疫を獲得できることになります。
編集部
自然感染しなくても免疫が作られて集団免疫が獲得できるなら便利ですね。
後藤先生
はい。自然感染を待つよりもワクチンを投与する方が迅速かつ広範囲に免疫を獲得することができ、集団免疫の状態に近づきやすくなります。しかし実際のところ、ワクチンによっては接種によって重症化を防ぐことはできても、感染を防ぐ効果が乏しいこともあり、たくさんの人がワクチンを接種しても集団免疫の状態にはならないこともあります。
集団免疫が達成されるとどうなる? 新型コロナウイルスの感染拡大は収束する?
編集部
ワクチン接種が浸透しても集団免疫の獲得には至らないということですか?
後藤先生
新型コロナウイルスの場合、当初は「新型コロナウイルスに対する集団免疫は、国民全体の60~70%が接種を完了すれば達成できるのではないか」と試算されていましたが、それは難しいことがわかりました。
編集部
なぜ難しいのでしょうか?
後藤先生
新しい株が出現すると、これまでの抗体が効かなくなることもあります。また、ワクチンを接種しても新型コロナウイルスに感染する人がいるように、ワクチンの有用性は100%ではありません。しかし、新型コロナウイルスを収束するために、集団免疫の獲得が必須であることは間違いなく、このような問題に対してどう対処するかが重要になってきます。
編集部
ウイルスや株などの違いによって異なるため、その対処が鍵になるのですね。
後藤先生
ウイルスによって抗体ができやすいかどうか、できても長く維持されるかどうかは異なります。新型コロナウイルスについても、変異株によって変わります。例えば、オミクロン株に対しては「抗体ができにくい」「抗体ができても感染を防ぎにくい」「抗体が長期間維持されない」などが報告されています。なお、変異によってスパイクタンパクの構造も変化します。そのため、従来のワクチンによってできる抗体では効きづらくなり、感染を防ぎにくくなってきます。
編集部
新型コロナウイルスに対して集団免疫が達成されれば、感染拡大は収束するのでしょうか?
後藤先生
確実に収束できるかはわかりません。しかし、インフルエンザを例にみてみると、インフルエンザワクチンの接種率は日本国内で50~60%です。感染は収まっていないものの、重症化する人は抑えられています。このように新型コロナウイルスの集団免疫が獲得された場合、完全に流行拡大を抑えることができるのか、あるいは重症化リスクを軽減できるにとどまるのかは現時点では不明です。
編集部
新型コロナウイルスは収束しないということですか?
後藤先生
収束をどう捉えるかにもよりますが、いずれにしても「ウイルスの変異によりワクチンが効きにくくなる」「ワクチンによる効果は永久に維持されるわけではない」ということから、今後、100%流行を抑えられるわけではないと考えます。インフルエンザと同様に、付き合っていくしかないと考えられます。
編集部
それでも、集団免疫の獲得が新型コロナウイルスの収束にとって鍵になるのは間違いないのでしょうか?
後藤先生
それは間違いないと思います。これまでの第8波までの経験からもわかるように、流行しても(とくに自粛制限などの策を講じることがなくとも)、比較的短期間でピークを過ぎて感染者が自然に減少することは明らかです。これも集団免疫ができるためです。もちろんワクチンだけではなく、手洗い、うがい、3密を回避するなどの通常の感染予防、衛生管理のほか、身体の免疫の働きを高めていくことも大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
後藤先生
体に備わった免疫は生命の本質的な機能で、人類という種を維持するには不可欠なものです。ワクチンや集団免疫は、その機能を使った手法であり、これらによって感染症を克服することができます。したがって、新型コロナウイルスに限らず、感染症にかからないようにするためには免疫の大切さを自覚して、普段からそれを高めるような生活を送ることが大切です。そうすることにより、ひいては人生がよりよいものになると考えています。
編集部まとめ
ワクチンや集団免疫が、新型コロナウイルス収束の鍵になることは間違いありません。しかしその一方、一人ひとりが自分の免疫力を高める努力を続けることも、とても重要です。人間の命を奪う疾患は新型コロナウイルスだけではありません。新型コロナウイルスに限らず、様々な病気を防ぐためにも免疫力を高めるような生活習慣を心がけたいですね。
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