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インフルエンザの予防接種を繰り返すと効果が薄れる?【医師による海外医学論文解説】

 公開日:2022/10/31

オーストラリアのメルボルン大学の研究グループは、インフルエンザワクチンを2年連続して受けた人よりもその年のみ受けた人の方が予防効果はやや高くなると報告しました。また、毎年接種を推奨する方針を転換するほどではなかったとも明らかにしました。この報告は2022年9月21日のLancet Respiratory Medicine誌電子版に掲載されました。この研究報告について中路医師に伺います。


中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが報告した内容とは?

オーストラリアのメルボルン大学の研究グループが報告した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回取り上げる研究内容は、毎年再接種が必要になるインフルエンザワクチンについて、繰り返し接種することでワクチンの効果が減弱する可能性があるとの報告がいくつかあることから、ワクチンの反復接種に伴うワクチン効果の低下を推定することを目的として実施されたものです。
条件を満たした83本の論文からデータを抽出し、そのうち41件を解析の対象としました。当年のインフルエンザシーズン用のワクチンを接種したが前年は接種していないグループ、当年は接種しなかったが前年のシーズンは接種したグループ、2年とも接種したグループ、いずれも接種していないグループの4グループに分けました。
解析の結果、A(H1N1)pdm09に対するワクチンの効果は、2年連続で接種したグループは当年のみ接種したグループに比べて効果の絶対差は-9%となり、連続して接種した方が効果は有意に低くなりました。また、A(H3N2)に対しては、2年連続で接種したグループは当年のみ接種したグループに比べて効果の絶対差は、-18%でした。さらにインフルエンザB型では、2年連続で接種したグループは当年のみ接種したグループに比べて絶対差は-7%でした。
一方、ワクチンを2年連続で接種したグループと2年間ワクチン接種なしのグループを比べると、全てのタイプのインフルエンザでワクチン2年連続接種の効果が高くなりました。

報告内容への受け止めは?

メルボルン大学の研究グループが報告した内容について受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

以前よりインフルエンザワクチンを毎年連続して接種するとワクチンの効果が減弱するのではないかという議論があり、日本においても大分大学のグループが同様の研究を2020年にしており、その結果9~18歳の若年者において、連続接種者のワクチン効果は当該シーズンのみ接種したものに比べ優位に低いとの結果がでております。これらの現象は別の株のインフルエンザに感染した場合、異なる抗原に対する抗体は新たにナイーブB細胞から誘導されなければならず、抗体産生が抑制される「抗原原罪」によるものとの説があります。したがって、今後さらなる検討が必要と考えられます。

今シーズンのインフルエンザの流行予測は?

今シーズンのインフルエンザの流行予測を教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今シーズンのインフルエンザの流行については、今年7月に日本感染症学会が医療機関に対して提言を発表しています。この提言によると、南半球のオーストラリアでの流行を見てみると、2022年4月後半から報告数が増加し、例年を超えるレベルの患者数となり、医療の逼迫が問題となっていることから、日本でも今年の秋から冬には、オーストラリアと同様の流行が起こる可能性があると警鐘を鳴らしています。さらに日本感染症学会は、この2年間は日本国内でのインフルエンザ流行がなかったために、社会全体のインフルエンザに対する集団免疫が低下していると考えられ、一旦感染がおこると、特に小児を中心に大きな流行となるおそれがあると指摘しています。ウイルスについては、オーストラリアで本年度に検出されたインフルエンザウイルスのうち、サブタイプが判明したものでは、約80%はA(H3N2)、約20%がA(H1N1)だったことから、日本でもA(H3N2)香港型の流行が主体となる可能性があると指摘しています。政府は、新型コロナとの同時流行を警戒し、発熱外来を制限する方針を発表しています。

まとめ

オーストラリアのメルボルン大学の研究グループが、インフルエンザワクチンを2年連続して受けた人よりもその年のみ受けた人の方が効果はやや高くなると報告しました。研究グループは、「2年連続してワクチンを接種すると当年のみの接種に比べ効果はやや低いものの、前年のみ接種した人に比べれば有意な予防効果を得られることから、毎年接種の推奨を変更するほどの深刻な効果の低下は示していない」ともコメントしています。

原著論文はこちら
https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(22)00266-1/fulltext

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