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最新の再生医療「PRP療法」について整形外科医が解説〜膝の再生医療とは〜

 公開日:2023/02/27

年齢を重ねるごとに悩みを抱える人が増える「膝の痛み」ですが、湿布やヒアルロン酸注射ではなかなか改善しないけれど大きな手術をするのは怖い、という人も少なくないと思います。そのような方にぜひ知っていただきたい、体への負担が少ない再生治療「PRP(Platelet-Rich Plasma)療法:多血小板血漿治療(たけっしょうばんけっしょう)」について、医療法人社団淳英会Jメディカルおゆみの院長である小林洋平先生にお話を伺いました。

小林 洋平

監修医師
小林 洋平(医療法人社団淳英会Jメディカルおゆみの)

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1980年生まれ、千葉県出身。2005年に順天堂大学卒業、2007年に順天堂大学整形外科学講座入局。一般整形外科・膝関節外科やスポーツ診療(ジェフユナイテッド市原・千葉チームドクター)の傍ら、バイオセラピー(再生医療)の基礎研究と臨床に従事、2016年に大学院修了および博士号を取得。2022年に医療法人社団淳英会Jメディカルおゆみの院長に就任。(順天堂大学整形外科非常勤助教併任)日本整形外科学会専門医、医学博士、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

近年の膝の治療を知る

近年の膝の治療を知る

編集部編集部

中高年の方に多い「膝の痛み」はどのようなことが原因で起こるのですか?

小林 洋平先生小林先生

原因としては様々な可能性があるのですが、多いのは「変形性膝関節症」ですね。変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減ることから始まり、半月板も次第に変形し、滑膜(かつまく)という組織から炎症を起こす物質が出ることで、「膝の痛み」を感じます。変形性膝関節症の重症度(Kellgren-Lawrence分類)はGrade0〜4の5段階あり、最終的には膝が変形する病気です。有病者数は日本国内で約2500万人と言われており、女性に多いという特徴があります。

編集部編集部

どのような治療法があるのですか?

小林 洋平先生小林先生

基本的には保存療法から始めます。湿布や痛み止めの薬を使いながら運動療法をおこないます。膝周りの筋力強化と関節の可動域を広げるためのリハビリをして、関節にかかる負担の軽減を目指します。次の段階としてヒアルロン酸を定期的に注射し数ヶ月、数年単位で経過観察する場合があります。これらの保存療法では痛みが取れず、生活に支障が出ている場合に、今までは手術(人工膝関節置換術や高位脛骨骨切り術)をおこなっていましたが、近年は保存療法と手術の間に「再生医療(バイオセラピー)」という新しい治療法があります。

編集部編集部

再生医療(バイオセラピー)とはどのような治療なのですか?

小林 洋平先生小林先生

再生医療とは、人が生来もつ「自然治癒力」を活かした治療法で、人工物ではなく人の細胞や血液由来の成分を利用しておこないます。様々な種類があるのですが、最も代表的かつ一般的なもので「PRP療法」が近年注目されています。その他、脂肪や骨髄・関節内の滑膜、へその緒、羊膜などを原料とする幹細胞治療や、これらの幹細胞を培養した上澄みを利用する治療など、たくさんの選択肢があり、病態や治療の目的により使い分けます。

PRP療法について知る

PRP療法について知る

編集部編集部

PRP療法とはどのような治療法なのですか?

小林 洋平先生小林先生

患者さん自身の血液から抽出したPRP(多血小板血漿)を患部に注入する治療です。PRPには、主に血液中の血小板や白血球に由来する成長因子やサイトカインと呼ばれる生理活性物質が豊富に含まれています。PRPは作り方により含まれる生理活性物質のバランスの異なる複数の種類があり、PRPを凍結乾燥(フリーズドライ)化した製品もあります。また、自身の血液を使用するので、安全で簡便であることもメリットと言えます。

編集部編集部

どのような効果が期待できるのですか?

小林 洋平先生小林先生

患部の組織修復を促し、痛みを軽減する効果が期待されています。今までは科学的根拠が乏しいと言われていましたが、2022年にヨーロッパから変形性膝関節症に対するPRP療法のコンセンサスが発表され、有効性を認める治療であることが明らかにされてきました。Grade3までの変形性膝関節症に推奨され、ステロイドと比較して抗炎症効果は優れていると報告されています。特に重症例では組織(軟骨)の修復効果ではなく、主に抗炎症効果(痛みなどの症状改善)を期待して治療をおこないます。

編集部編集部

ヒアルロン酸注射とは全く異なる効果が得られるのですか?

小林 洋平先生小林先生

全く異なるということはありません。ヒアルロン酸注射で症状が改善し、生活ができる人であればそれで良いと思います。コンセンサスではヒアルロン酸注射より優位に効果が得られる可能性があるとの報告はされています。

編集部編集部

実際にPRP療法をされた患者さんの声などはいかがでしょうか?

小林 洋平先生小林先生

治療の効果判定には世界的に用いられている基準(アンケート調査)を使用し症状、痛み、生活などを総合的に評価しています。治療1年後の奏効率(治療効果を得られた割合)は全体で62.1%、変形性膝関節症の重症度別に見ると、grade2では75.2%、grade3では66.5%、grade4では50.9%です。重症例には効きにくい傾向があり、その様な患者さんの中でさらに治療をしたい方には幹細胞治療などを提案します。

PRP療法の実際

PRP療法の実際

編集部編集部

治療の対象となる人はどのような人なのですか?

小林 洋平先生小林先生

整形外科分野では、数年前まで主にアスリートを対象におこなわれてきた治療でしたが、近年は関節疾患を患っている高齢者の方が増え、患者さんの層も変化しています。先々を考えて予防的に注入することも可能ではありますが、そのような方は生活に困っていないので、なかなか病院に来ないのが実情です。痛みがあるけど変形は無い方が最も適応と言えるかもしれません。

編集部編集部

具体的にそのような流れで治療が進むのですか?

小林 洋平先生小林先生

まずは通常の外来診療と同じで診察をします。問診(痛みや生活の状況)、腫れはどうか、関節の可動域や筋力はどうか、動作はどうか、など通常と同じです。さらに、レントゲンやMRIも用いながら、その方の膝(骨、軟骨、滑膜)の状態を確認し、その患者さんに適応となる治療方法を提示します。PRP療法を進めるとなった場合、採血をして遠心分離という方法でPRPを抽出し、当日にPRPを注入します。4週間隔で3回の治療を1クールとして治療を進めます。患者さんによっては年単位で継続する方もいらっしゃいます。

編集部編集部

通院で治療できるのですか?

小林 洋平先生小林先生

外来通院で治療可能です。通常のPRP療法の場合は外来通院のたびに採血をして、20分程度でPRPが抽出できるので、その場で注入します。凍結乾燥(フリーズドライ)の場合、採血は1度で良いのですが採血後に加工する業者に送るため、治療開始まで約3週間程度の時間を要します。

編集部編集部

PRP療法は保険適用でできる治療なのですか?

小林 洋平先生小林先生

通常の診察は保険診療ですが、再生医療は保険適用外で自費診療です。

編集部編集部

自費診療になってしまうのですね。しかし、治療の選択肢の1つとして知っておくことは重要ですね。

小林 洋平先生小林先生

その通りです。必ず再生医療を提案することも無いですし、その患者さんの状態に適した治療、個別医療をおこなう必要があると考えます。まずは、診察、検査をおこない、膝の状態を把握した上で、その次のステップとして保存療法(湿布、鎮痛薬やヒアルロン酸注射)や手術(人工関節、骨切り術)、再生医療など様々ある治療法の中の1つとしてPRP療法を知って頂ければ良いと思います。

編集部まとめ

膝の再生医療、PRP療法について詳しく解説して頂きました。自費診療ではあるものの、医学的根拠が確立され、膝の痛みに対する治療の選択肢の1つとして注目されています。膝の状態によって効果に個人差はあり、再生医療が適応ではない方もいるとのことですが、膝の痛みの解消への可能性を感じました。読者の皆様もこれを機に、最新の膝の再生医療について興味を持って頂けましたら幸いです。

この記事の監修医師