在宅看取りに必要な家族の準備・計画を医師が解説 自宅で行う終末期のターミナルケアとは?
高齢化に伴い、耳にする機会が多くなった「在宅看取り」という言葉。「いずれは自分の両親を自宅で看取りたい」という人もいるのでは? 在宅看取りのためにはどのような準備をすれば良いのでしょうか。しろひげ在宅診療所の山中先生にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
山中 光茂(しろひげ在宅診療所)
目次 -INDEX-
看取りとは? 緩和ケアとどう違う? ケアマネージャーについても医師が詳しく解説
編集部
看取りとはなんですか?
山中先生
人によってさまざまな考え方がありますが、一般的にはその人の人生における最期の看病のことを「看取り」といいます。また、積極的な延命行為を行わず、その人が人間としての尊厳を守ったまま亡くなるまで支援することという考え方もあります。
編集部
同じような意味を持つ言葉に「緩和ケア」がありますが、それとの違いはなんですか?
山中先生
緩和ケアとは、患者さんの身体的・精神的苦痛を和らげることを目的に行われる医療や介護体制のことを言います。看取りと緩和ケアの違いは、いつ、ケアを始めるのかということ。看取りはその患者さんの終末期において行われますが、緩和ケアは終末期に限らず行われます。
編集部
自宅での看取りにはケアマネージャーの関わりも必要と聞きますが、一体ケアマネージャーとはなんですか?
山中先生
ケアマネージャーは「介護支援専門員」のことです。介護を必要とする人が適切な介護を受けることができるように、ケアプランを作成しながら、在宅診療や訪問介護などの関係職種をとりまとめるリーダー的役割を果たします。
編集部
自宅での看取りには欠かせない存在なのですね。
山中先生
そうです。ケアマネージャーは患者さんの病状や介護需要に応じ、適切な介護環境を整えるため、地域におけるとりまとめを行います。
在宅での看取りに必要な準備とは? 自宅療養の条件はある? 家族にはどんなケアプランが求められる?
編集部
在宅での看取りを希望する場合、どのようなことを準備すれば良いのでしょうか?
山中先生
在宅での看取りを希望する場合、まずは患者さんの病状を確認した上で、看取りを行う在宅診療所を探す必要があります。特に大事なのは、24時間365日、いつでもサポートしてくれる診療所を見つけることです。訪問診療を行う医療機関のなかでも、24時間365日稼働しているところはそれほど多くありません。しかし、在宅での看取りを行う上では要の存在となりますから、まずはいつでも対応してくれる診療所を探しましょう。
編集部
在宅診療所を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?
山中先生
かかりつけ医が訪問診療を行っている場合には、かかりつけ医に依頼してみましょう。そうでない場合は、まずケアマネージャーを探しましょう。地域包括支援センターに相談したり、居宅介護支援事業所を調べたりすれば、ケアマネージャーを見つけることができます。そうすればケアマネージャーを通じて、在宅医療を行う医師を探すことができるかもしれません。
編集部
在宅医療を行う診療所を探す上で注意点はありますか?
山中先生
在宅医療を行う診療所のなかには、緊急時に医師が往診せず、救急搬送に回してしまうところや、24時間対応をしていないところも少なくありません。それではいざというとき、いつもの医師に頼ることができない可能性があります。診療所を探すときには、在宅での看取り率や緊急往診の数などのデータを参考に選ぶと良いでしょう。
編集部
その次に何かありますか?
山中先生
看取りの体制を整えましょう。在宅での看取りには、かかりつけ在宅医とケアマネージャーのほか、訪問看護師、訪問ヘルパーなどさまざまな役割が必要になります。在宅での看取りは医療や介護の専門家たちとチームで行うことが大切。困ったことがあればいつでも専門家に頼れる準備をしておきましょう。
編集部
ほかにもあれば聞いておきたいです。
山中先生
介護用品や医療機器など、自宅での看取りに必要な用品をそろえましょう。また、在宅医療を希望することで医療費がかさむようになりますから、行政に申請して、高額療養費制度の手続きを行っておきましょう。指定難病患者には医療費の助成制度がありますし、精神疾患の患者は自立支援医療(精神通院医療)を活用することができます。そうした制度を利用し、不要な費用がかからないようにしましょう。
編集部
自宅で看取りをするために、必要な条件はありますか?
山中先生
重症度の高い人、寝たきりの人、独居の人を含め、どなたでも在宅看取りを選択することはできます。たとえ一人暮らしでも、訪問介護やヘルパーなどのサービスを利用すれば、自宅での看取りが可能です。
末期がん等の在宅での看取りの課題・問題点は? かかりつけの病院や医師との連携・報告も大切
編集部
在宅で看取る場合の課題や問題点はなんですか?
山中先生
お住まいの地域に、24時間365日対応できる在宅診療所があるとは限らないということです。残念ながら、在宅診療所の多くは看取り率が20〜30%と低いのが現状。看取り率が低いということは、いざというときに病院へ救急搬送され、在宅での看取りが叶わないということです。現在、日本では医療体制の地域格差が大きく、なかには24時間365日対応してくれる在宅診療所を探すのが困難な地域もあります。その場合には在宅での看取りが難しくなってしまいます。
編集部
在宅での看取りで容態が急変した場合は救急車を呼び、医療を受けても良いのですか?
山中先生
もちろん患者さんやご家族が望むのであれば救急車を呼んだり、入院して治療を受けたりすることも可能です。しかしその際には、日頃から診てもらっている在宅診療の医師に連絡し、必要に応じて救急搬送をするという段取りが望ましいと思います。
編集部
なぜ、在宅診療の医師に連絡した方が良いのですか?
山中先生
なかには救急搬送をする過程で、かえって病状が悪化することもあるからです。また、救急搬送したところで、その病院に受け入れてもらえないという場合もあります。というのも病院よりも在宅診療の方が独自の専門性があり、広範囲でサポートできていることも少なくないからです。
編集部
「病院ではできないサポートが、在宅ではできることもある」ということですか?
山中先生
そうです。特にがん末期の治療は、在宅診療でサポートした方が結果として延命になることもあります。病院よりも在宅診療の方がサポートできる範囲が多いということを踏まえ、救急搬送をするかどうか検討していただけたらと思います。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
山中先生
在宅診療の特性は、「重症度の高い疾患の患者さんを在宅で診ることができる」ということ。在宅診療というと、苦しみに対する緩和というイメージがあるかもしれませんが、専門性の高い医療を提供することによって、患者さんに残された時間を引き伸ばせる可能性もあります。ただし、24時間365日の体制で在宅医療を提供することができていない医療機関もありますし、夜間や休日にはちょっとしたことでも病院へ救急搬送したり、非常勤の医師が対応したりするところもあります。自宅での看取りを後悔のないものにするには、在宅医の見極めが肝心です。公表されている看取り率などのデータをもとに入念に精査し、ぜひ、納得のいく看取りを実現してほしいと思います。
編集部まとめ
在宅診療の方が、病院での治療よりも専門性の高い高度医療を受けられることもあります。ただしそれには、良い在宅医との出会いが肝心。ケアマネージャーの手助けなどを借りながら、ぜひ、信頼できる在宅医を探したいですね。
医院情報
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診療科目 | 在宅医療 |