急なおしっこ・頻尿の原因「過活動膀胱」の治し方を医師解説 「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」とは?
過活動膀胱に対する治療として注目されているのが、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法。一体どのような治療なのか、あわせて、日常生活で気をつけたいポイントなどについて、さゆりクリニックの藤谷先生にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
藤谷 桜子(さゆりクリニック)
目次 -INDEX-
過活動膀胱はどんな病気? 急な尿意・頻尿など主な症状を知りたい 症状や原因に男性と女性・若さで違いはある?
編集部
過活動膀胱とは、どのような病気でしょうか?
藤谷先生
簡単にいうと、膀胱が過敏になって膀胱にうまく尿を溜められなくなった状態のことを言います。尿が十分に溜まっていなくても、膀胱が勝手に収縮を始めるため、さまざまな症状が起こります。40代くらいから男女ともに兆候が見られ始め、約7人に1人の割合で発症します。発症のリスクは加齢とともに増加します。
編集部
どのような症状が起きるのですか?
藤谷先生
過活動膀胱と診断する上で必須となる症状は、「急に我慢できないような尿意が起こる」という尿意切迫感です。そのほか、「トイレが近い(頻尿)」「就寝中に何度もトイレのために目が覚める(夜間頻尿)」「急に強い尿意に襲われ、尿漏れをする(切迫性尿失禁)」などの症状もあります。特に女性は男性に比べて尿道が短いので、尿漏れを伴う頻尿が多く見られます。
編集部
過活動膀胱の原因はなんですか?
藤谷先生
過活動膀胱には大きく分けて2種類あります。ひとつがほかの疾患が原因で起こるもの。これは脊椎疾患や脳神経疾患などの神経疾患が原因となります。もうひとつは神経が原因でないもの。肥満、加齢、便秘、高血圧、糖尿病などのほか、飲酒や喫煙も過活動膀胱の原因になります。
編集部
「神経疾患が原因で過活動膀胱が起きる」とは? 具体的に教えてください。
藤谷先生
通常は尿が溜まると信号が脳に伝えられ、脳から神経に指令が出されます。すると、尿道の周囲にある筋肉が緩められ、膀胱の筋肉が収縮して、尿が排泄されます。しかし、なんらかの原因により脳と膀胱をつなぐ神経が阻害されると、過活動膀胱になってしまうのです。
過活動膀胱の治し方を泌尿器科医師が解説 生活指導・改善で治る? 行動療法・薬物療法・ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法とは?
編集部
過活動膀胱の治療の流れを教えてください。
藤谷先生
まずは尿検査を行い、尿に血液や細菌が混ざっていないかを確認します。さらに、超音波検査を行って、膀胱や腎臓に異常がないか確認し、また、膀胱に残った尿量を検査します。必要があれば尿の流量や尿漏れの量を測ったり、膀胱鏡による検査を行ったりして、そこで過活動膀胱であることが確認されたら、治療を行います。
編集部
過活動膀胱の具体的な治療法は?
藤谷先生
抗コリン薬 | 膀胱の過剰な収縮を抑え、尿意切迫感や頻尿を改善する |
β3受容体作動薬 | 膀胱の筋肉を緩めて膀胱を広げ、尿を多く溜められるようにする |
編集部
そのほかにはどのようなことを行うのですか?
藤谷先生
・排尿日誌をつけ、トイレに行った時間や尿量を記録する
・骨盤底筋群を鍛えて尿漏れを防ぐ
・膀胱訓練を行って尿意を我慢する時間を少しずつ長くする
編集部
ほかにも治療法はありますか?
藤谷先生
「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」という新しい治療法もあります。これは膀胱内壁にA型ボツリヌス毒素を注射するもの。A型ボツリヌス毒素を注射すると、膀胱の神経に作用して、筋肉が緩まります。そのため、過活動膀胱によるさまざまな症状を改善することができるのです。
編集部
具体的に、どのように治療するのですか?
藤谷先生
膀胱鏡を使って膀胱壁内の20〜30か所に注射します。注射は局所麻酔や静脈麻酔などを用いて麻酔下で行われ、手術時間は10〜20分程度。日帰りでの治療が可能です。
編集部
誰でもその治療を受けることができるのですか?
藤谷先生
現在、尿路感染症にかかっている人や、もともと重度の排尿障害がある人は受けることができません。また、妊娠中、授乳中、妊活中の女性も受けることができません。
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編集部
過活動膀胱を放置するとどうなるのですか?
藤谷先生
膀胱の筋肉が弱くなり、低活動膀胱の状態になってしまいます。つまり膀胱がうまく収縮できなくなり、排尿するときにもスッキリ出せなくなってしまいます。
編集部
ストレスが過活動膀胱の原因になることはありますか?
藤谷先生
確かにストレスが原因となって膀胱と脳をつなぐ神経がうまく働かなくなり、結果的に過活動膀胱が起きることもあります。
編集部
市販薬などを使って自力で治すことはできますか?
藤谷先生
過活動膀胱を改善する市販薬もあり、有効に作用するものもあります。ただし、なかには膀胱の筋肉が緩むことで排尿する力も落ちてしまい、排尿困難になるなど、逆効果になるリスクを含んだ薬もありますので、できれば泌尿器科など専門医を受診しましょう。場合によっては漢方薬を利用することもできます。
編集部
日常生活で気をつけるべき点はありますか?
藤谷先生
・夕方からコーヒーなどカフェインの摂取量を減らす
・夕方から水分の摂取量を減らす
・減量する
・便秘を予防する
・慢性的に咳がある場合は、喉を加湿したりのど飴を利用したりして解消する
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
藤谷先生
過活動膀胱は以前に比べて治療薬も増えており、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法のような以前にはなかった治療もあります。過活動膀胱は悪性の疾患ではなく、良性のものではありますが、放置するとQOLを著しく低下させ、健康的でアクティブな生活を奪ってしまいます。ぜひ、長く健康的な人生を歩むためにも、過活動膀胱で悩んでいる方は、専門医を受診してほしいと思います。
編集部まとめ
ドラッグストアなどで市販薬も気軽に手に入る過活動膀胱。しかし自己判断で薬を使用すると、病気が治るどころかかえって逆効果になるリスクもあります。なかには「泌尿器科へ行くのが恥ずかしい」という人もいるかもしれませんが、正しく治療を行えば、ずっと頻尿などの悩みから解放されます。生活の質を上げるためにも、ぜひ一度、診察してもらってはいかがでしょう。
医院情報
所在地 | 〒737-0056 広島県呉市朝日町1-8 |
アクセス | 中国JRバス西条線「呉本通六丁目」バス停から徒歩5分 広島電鉄辰川線「明神橋」バス停から徒歩5分 |
診療科目 | 内科・泌尿器科 |