尿が近い人に朗報! 過活動膀胱の治療で保険適用が認められた「ボツリヌス」注射
頻尿治療の原則は投薬療法です。オシッコは毎日出るものですから、どこへ行くにもなにをするにも薬の携行が欠かせなくなってしまいます。そんな投薬療法の煩わしさを忘れられるのが、ボツリヌスの注射による治療方法でしょう。詳しい説明を「ぐみょうじ泌尿器科」の速水先生にお願いしました。
監修医師:
速水 悠太郎(ぐみょうじ泌尿器科 院長)
関西医科大学医学部卒業。関西医科大学附属枚方病院(現・関西医科大学附属病院)、大阪府済生会野江病院などの勤務を経た2020年、神奈川県横浜市に「ぐみょうじ泌尿器科」開院。幅広い知識と経験から、最適な医療をおこなうよう心掛けている。日本泌尿器科学会認定専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。日本排尿機能学会、日本泌尿器腫瘍学会、日本泌尿器内視鏡学会、日本腎泌尿器疾患予防医学研究会の各会員。
ボツリヌス菌の成分で膀胱を柔らかくする
編集部
年を取ると、トイレの頻度が高まるように感じます。
速水先生
そうかもしれませんね。例えば、観光地を旅行する際、「まず、トイレの場所から確認」という人もいらっしゃるのではないでしょうか。このような尿意切迫の多くは、膀胱が硬くなって量をためておけないことで生じます。病名としては、「過活動膀胱」と呼んでいます。ほかには、タンクではなくホースに問題がある排尿障害により、尿を排出しきれていないケースなども考えられます。
編集部
タンクなのかホースなのかは、どうやって鑑別しているのですか?
速水先生
まずはエコー検査で、膀胱に尿がたまっていないか、あるいは前立腺が肥大していないかなどを調べます。例えば、トイレを済ませた後でも膀胱に尿がたまっていたら、ホースの問題を疑います。逆に膀胱が空なら、ためておけないタンクの問題ということになります。
編集部
今回はタンクの問題に限定します。具体的な治療方法は?
速水先生
膀胱を柔らかくする薬で対処します。市販薬の一部にもありますが、やはり医療機関による処方薬に分がある印象です。しかし、飲み薬だけでは一定の効果を得られない患者さんもいらっしゃいます。そこで近年、「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」に保険が認められるようになりました。
編集部
ボツリヌスというと、美容でシワ取りに使うイメージがあります。
速水先生
仕組みとしてはシワ取りと同じで、結果として、膀胱の筋肉の緊張を緩める働きが期待できます。つまり、タンクが柔らかくなって「尿をよりためられる」ということです。ここで注意したいのは、ボツリヌス菌を膀胱内に注射するのではなく、「ボツリヌス菌がつくりだした成分の一種」を注射するということです。保険が認められたということは、国により一定の安全性も担保されたということなのでご安心ください。
「初手は投薬療法から」が決まり事
編集部
ボツリヌスは、望めば初診時から注射してもらえるのでしょうか?
速水先生
いいえ。保険適用の手順では、投薬療法から進める“決まり”となっています。ただし、ある医療機関で初診だとしても、過去に処方薬が効かなくて転院してきた場合は例外です。「投薬療法の手順を踏んだ」とみなされます。
編集部
注射ということは、おなかのあたりから長い針を刺すのでしょうか?
速水先生
いいえ。尿道から挿入した専用の内視鏡で、膀胱内に薬液を注入します。ボツリヌス注射は、尿道の長い男性でも受けていただくことができます。なお、注射後は「自分で排尿できるかを確認してから」ご帰宅ください。局所麻酔とボツリヌス双方の効果を確認しておきたいからです。クリニック滞在時間は、麻酔のリカバリーを含めて1~2時間程度になります。
編集部
同注入療法の禁忌や非適応はありますか?
速水先生
残尿量の多い人には、あまり推奨できない治療方法です。ボツリヌスは膀胱の緊張を緩めるので、オシッコをもともと出しにくかった人の場合、さらに出しにくくなってしまう可能性があります。また、全身性の筋力低下を起こす病気の人には、処置を見送るかもしれません。
編集部
つまり、患者がボツリヌス注射を望んでも適していないケースがあるということですか?
速水先生
ありますね。筋力低下のほか、ホースの問題として別途解決すべきケースなどが該当します。一般的に、尿道が前立腺で囲まれている男性は、前立腺によるホースの問題を起こしやすいです。また、結石や感染症などが原因だとしたら、ボツリヌス注射では解決しません。
投薬療法との組み合わせも可能
編集部
ところで、ボツリヌスが効きすぎるということはないのでしょうか?
速水先生
例外ですが、あり得ます。膀胱がうまく収縮しなくなるため、自分ではオシッコをしづらくなってしまうのです。この場合、レアケースですが、ご自身で膀胱にチューブを通して尿を吸い取る「導尿」が必須となります。ただし、ボツリヌス毒素の効果は時間的に限りがあるので、ずっとその状態が続くわけではありません。
編集部
だとすると、「狙ったとおりの効果」だったとしても、いずれ再処置が必要ということですか?
速水先生
一般に、ボツリヌス注射の効果は半年ほどです。よって、頻尿が再発してきたら、必要によって再処置する必要があります。また、効き目によっては「これだったら、飲み薬の方がいいな」と感じる人もいらっしゃいます。このあたりはケース・バイ・ケースなので、医師と相談して決めましょう。
編集部
それまで効かなかった薬が、ボツリヌス療法によって「効いてくる」ということはないのでしょうか?
速水先生
あくまで当院の例ですが、いわゆる「ボツリヌス注射による薬の上乗せ効果」を感じる人もいらっしゃるようです。その場合、ボツリヌス注射を中断して投薬治療のみで進めるのか、それとも併用していくのかもケース・バイ・ケースですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
速水先生
ボツリヌス注射の効果には、個人差が大きい印象です。ほかの人の体験談がご自身には“あてはまらない”可能性があります。ただし、ボツリヌス注射には保険が適用されましたし、薬なしに尿意をコントロールできる有用な治療方法だと考えています。加えて、中断すれば元に戻せる治療方法でもあります。まずはご自身でやってみて、そのうえで継続するかどうかを検討してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
頻尿の悩みに対して、先に「投薬療法からはじめる」のが決まりということでした。また、ボツリヌスの効きすぎによる「導尿」は、ごくまれなケースとのことです。ボツリヌス注射による治療が“元の状態に戻れる方法”だとすれば、試してみる価値はあるのではないでしょうか。そして、注射後の状態や処方薬の作用によって、その後の進め方を決めていくことが可能とのことです。
医院情報
所在地 | 〒232-0067 神奈川県横浜市南区弘明寺町137-6 |
アクセス | 京急線「弘明寺駅」 徒歩5分 |
診療科目 | 泌尿器科 |