【糖尿病体験】「だらしない生活」はしていないのに… 食事も気を使っていた
1型糖尿病は、生活習慣の乱れや食生活という要因には関係なく発症します。生後数ヶ月のお子さんでも発症しうるため、食事内容や運動量に注意し、規則正しい暮らしをしていても、予防できる病気とはいえません。別の病気で頻繁に血液検査をしていて、むしろ低血糖体質だった結衣子さん(仮称)が、1型糖尿病と判明するまでと、診断を受けて治療を始めてからこれまでの体験について話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年1月取材。
体験者プロフィール:
結衣子(仮称)
神戸市在住。フリーランスライター。1968年生まれ。20代の次男と犬たちと同居中。急激な高血糖症状から2型糖尿病かと思われ投薬開始。2019年に1型糖尿病と診断を受ける。現在は、インスリン2種類を自己注射、穿刺採血からリブレ装着、月1回の診察と1~2年に一度の検査入院をしながら、SEO記事やシナリオ執筆、小説執筆などフリーライターとして仕事を続けている。
記事監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
目次 -INDEX-
診断までの経緯
編集部
糖尿病が判明した経緯について教えてください。
結衣子さん
喉の渇きや異常な疲労感、頻尿が続きましたが、最初は酷暑のせいであり、仕事の疲れによるものだと思っていました。やがてスポーツドリンクなどを飲む量が異常に増え、起き上がれない疲労感があり、糖尿病を疑うようになりました。
編集部
そこからどうやって糖尿病が判明したのですか?
結衣子さん
胃腸の不調で通っていたクリニックで症状を伝え、採尿と採血を受け、糖尿病が判明しました。まず、尿検査を受けて尿糖が陽性と出ました。血液検査の結果は数日後となりましたが、500mg/dl以上の糖が出たとのことで、即入院が必要な数値であると先生から電話がありました。このときは、生活習慣病からくる2型糖尿病だと思っていましたが、1型とも2型とも診断されませんでした。1型糖尿病と判明したのは、2型糖尿病に対して行われる治療で効果が上がらず、別病院に入院したときでした。
編集部
糖尿病を疑った自覚症状について教えてください。
結衣子さん
喉や口の乾きがひどくなり、辛抱できなくなり始めました。仕事はお客様のところに出向くことが多かったのですが、常にペットボトル(スポーツドリンク)を複数持ち歩いていました。どれほど大量に飲んでも乾きが治まらず、多尿も悪化して、仕事の合間に何度もトイレに通いました。疲労感もひどくて起き上がれなくなり、体重はごく短期間に10kg減少。そのとき思い当たったのが、糖尿病でした。2リットルのペットボトルのスポーツドリンクを枕元に置いて、一晩経たずに空にしていました。
編集部
糖尿病と判明したときの心境について教えてください。
結衣子さん
最初は2型糖尿病と診断されたという認識で、スポーツドリンクの異常な摂取を悔いていました。お茶や水では口の渇きや吐き気が治まらず、スポーツドリンクが必要でした。原因は2リットルのスポーツドリンクを一晩で飲み干す日々が続いたことが理由だと思っていました。息子と同居するシングルマザーで、成人したばかりの息子と愛犬たちと暮らす状況での糖尿病判明。息子と経済的に支え合う暮らしの中で、今後の生活に対して大きな不安しかありませんでしたね。
治療開始とその内容、暮らしの変化
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
結衣子さん
普段の通院で時々血液検査を受けていましたが、急激な血糖値上昇が見られたことで、糖を尿に流し出す薬を処方すると説明がありました。2型糖尿病を前提として始まったSGLT2阻害薬による内服治療です。ブドウ糖取り込みに関わる働きをするSGLT2というタンパク質を抑えて、ブドウ糖を尿に流し血糖値を下げるとのことでした。このときは既に2型糖尿病だとはっきりしているのだと思っていました。
編集部
治療の効果はどうでしたか?
結衣子さん
薬の内服を続けながら、食事内容も見直しましたが、血糖値は改善されず、薬の効果も出ている様子はありませんでした。むしろ、激しい疲労感や口と喉の渇き異常な多尿が続きました。多尿は特に家でも外出先でも一番困る失禁に繋がり、尿意もほとんどないのに漏れてしまう状態でした。吸収量が一番優れた尿パッドを使っても、失禁量が多すぎて役に立たないことが続いていました。改善どころか悪化して、改めて入院も勧められました。こうしたことから、入院施設がある病院へ転院しました。
編集部
転院後に1型糖尿病が判明したのでしょうか?
結衣子さん
セカンドオピニオンでしたが、糖尿病を専門的に診ている先生がいたので、その病院で診てもらいました。結局そこに入院することになり、畜尿検査(一日単位で尿を全部袋に溜め量や成分を調べる)などの結果を受けて、1型糖尿病と診断されました。
編集部
転院後の治療の変化を教えてください。
結衣子さん
転院先では内服薬は処方されませんでした。その後は血糖値自己測定をしながら、インスリンの自己注射へ切り替えることとなり、採血と自己注射の日々がスタートしたのです。血糖値測定は面倒でしたが、フリースタイルリブレ(血糖値を測定する機械)が保険適用となり、大きな変化となりました。センサーを腕に装着して読み取り装置で読み取り、指を刺さずに血糖値測定ができるようになったからです。外出時に持ち歩かなければならない医療セットが、少し軽減されました。
編集部
糖尿病発症後、生活にどのような変化がありましたか?
結衣子さん
1型糖尿病とわかってからは医療費負担は大きくなりました。日々の治療に手を抜くことはできません。また、些細な痛みや痺れ、視力低下など、身体に変化があるたび、合併症ではないかと考えるようになりました。もともと甘いものはあまり好きではなく、アルコールは一切飲みませんでしたし、米やパンは好まず麺類を主食としてきました。なので、糖質制限という面では以前と大きな変化はありません。インスリン注射による血糖値上昇には常に注意が必要で、日々の生活の中でいつも気にしながら食事時間と外出を調整します。万一の救急搬送などに備え、外に出る場合には必ず、医療機関に分かるようなデータ類を持ち歩きます。
編集部
急な体調の変化に備えて行っていることはありますか?
結衣子さん
その日の食事量や運動量によりインスリンの効果が大きく変わりがちで、低血糖を頻発するため、ブドウ糖とジュースはすぐ口にできるように持ち歩いています。私用や仕事の外回りでは、途中で口内にアルミホイルでも貼り付けられたような喉の乾きで、吐き気や意識消失を伴うため、水筒に水か麦茶、症状によりスポーツ飲料を足して飲んでいます。一人のときに意識消失を起こさないよう、常に注意が必要となりました。お風呂はずっと昔からシャワーだけですが、「15分以上出てこなければ一応声をかけてほしい」と息子に伝え、一人のときには入浴をできるだけ避けています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
結衣子さん
治療開始時から今でも同じですが、犬たちの存在が大きいと思います。犬たちの存在があったことで、医療費負担などで何度か放り出そうと思った治療に、また戻るきっかけとなっています。「合併症で視力を奪われたら、この愛犬の顔を一生見られない」ということに気づき、一度は止めた通院を再開しました。執筆中であった小説書籍の発売を、気長に待ってくださる方がいることも、エールとなりました。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
結衣子さん
預貯金をしっかりしておくことを、昔の自分にアドバイスしたいと思います。
1型糖尿病を抱えた生活
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
結衣子さん
異常な喉の渇きと水分摂取量は、いまだに続いており、冬でも変化がありません。ミネラルウォーターやろ過水は、常に冷蔵庫に4リットル保管していますが、数時間で空にしてしまい、トイレの回数は数えきれない状況のままです。執筆業はフリーランスで行っているため、在宅ベースで症状の変化に対処しやすい点では恵まれていると思います。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
結衣子さん
1型糖尿病は、医療従事者以外には、あまり理解されていません。1型糖尿病だと伝えると、「だらしない生活のせいだ」「自業自得の贅沢病だ」などと言われることも多く、そういう人たちへの説明は諦めています。もしあなたの身内の方が1型糖尿病を発症されたとき、大事なご家族に正しいサポートができなかったら、命に係わる可能性もあります。この病気には周りの理解と協力が必要です。私の場合、息子が自分でも糖尿病について調べながら、協力体制を取って同居してくれていることを、とてもありがたいと思っています。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
結衣子さん
私がもともとそちら側にいた経験もあり、なおさら医療従事者の方には感謝しかありません。今、研究職の方には、私よりも若い方に今後も発症され続ける1型糖尿病患者の方の、保険適用でのさまざまな治療方法の研究をお願いしたいと望んでいます。すい臓に原因があるということがわかっている1型糖尿病です。早く人工すい臓が実用化されて、安い医療費で手術装着が可能になることを祈ります。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
結衣子さん
糖尿病には1型と2型があり、治療方法は違います。普段の生活が規則正しく、生活習慣病とは無縁な食生活や運動をしていても、1型糖尿病は発症します。家事、仕事を今までのように続けていくことは難しい症状もあり、投げ出してしまいたくなる厄介な病気ですが、合併症を併発するとなれば、辛さはその比ではありません。糖尿病治療以上の辛さが待っています。罹患者には周囲の理解と協力を得て「これ以上は進行させない」という意識で頑張っていただきたいです。家事や仕事、育児と両立しながら、そして高額な医療費に悩みながら、治療を諦めそうになりつつ、今も1型糖尿病と向き合っている身としての願いです。
編集部まとめ
1型糖尿病は、発症する原因や完治させる治療法が確立されていない病気です。患者数が多いことにより、難病指定からも外れています。医師の指示に従って、進行させず大きな合併症を発症させないという目標で、治療を続けることが大切なようです。投薬、注射、定期的な検査によって、悪化と合併症を防ぎましょう。