【闘病】予定通りの手術後「まさか」の寝たきり 手のしびれは難病の始まりだった《後縦靭帯骨化症》
「しびれ」は、病気があってもなくても、誰にでも起こりうる症状です。その「しびれ」が、実は「指定難病」の症状で、「手術が必要」と言われたら、あなたはどうしますか? 闘病者のtsukimiさん(仮称)は、そんな「しびれ」から難病「後縦靭帯骨化症」の診断を受け、3度の手術を経験しました。発症から手術、リハビリの経験や、車椅子ユーザーのリアルな恋愛事情を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年10月取材。
体験者プロフィール:
tsukimiさん(仮称)
1986年生まれ、栃木県在住、2018年に後縦靭帯骨化症と診断。3度の手術を経験し、リハビリを経て2022年に自宅ネイルサロンオープン、現在に至る。
記事監修医師:
佐久間 大輔(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
「治すには手術しかない」と言われた手術の後、寝たきりに…
編集部
最初に不調や違和感を覚えたのはいつですか? どういった状況だったのでしょうか?
tsukimiさん
2017年の11月くらいから、朝起きると手がピリピリしびれていることがよくありました。「寝違えたのかな?」という程度にしか思わず放っておいたのですが、2018年1月には両手が常にしびれる状態になりました。いま思えば2017年6月ごろの仕事の帰りに、足の力が入らなくなり、自転車から何度も転倒してしまったことがありました。それも予兆だったのだと思います。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
tsukimiさん
常にしびれているのはおかしいと思い、会社近くの整形外科に行きました。レントゲンやMRIを撮りましたが原因はわからず、紹介状を書いてもらって少し大きい病院に行った結果「脊柱管狭窄症」と診断されました。「手術が必要だけど、この病院ではできない」と言われ、自宅近くのA病院に行きました。そこで、ただの狭窄症ではないと言われて、CTを撮った結果、「後縦靭帯骨化症」と診断されました。
編集部
後縦靭帯骨化症とはどんな病気なのでしょうか?
tsukimiさん
脊椎、いわゆる背骨の中にある靭帯が骨化してしまい、近くにある神経を圧迫する病気で、指定難病です。神経が圧迫されるので、手や足のしびれや感覚麻痺、脱力などが起こります。私の場合は、脊椎全体に渡って何箇所も、靭帯の骨化が認められると言われました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
tsukimiさん
「手術しかない」とのことでした。神経を圧迫している部分を切除するしか方法がないと。
編集部
そのときの心境について教えてください。
tsukimiさん
診断がついたのが5月だったのですが、8月には歩けないほど病状が進んでいて、会社にも行けなくなりました。失禁もするようになりました。治すなら手術しかないと聞いていたので、とにかく早く手術してほしいと思いながら生活していました。
編集部
実際、手術をしていかがでしたか?
tsukimiさん
9月に手術をしました。その頃にはもう自力で日常生活を送るのが困難になっていたので、手術前日の入院予定でしたが、2週間前に入院させてもらい、尿管を入れて過ごしていました。手術は予定通り終了したと言われましたが、その後、全く動けず、寝たきりになりました。顔と肩が少し動くくらいで、指さえ動かせませんでした。ご飯も歯磨きも、全てに介助が必要でした。尿意も便意もなく、体の感覚もありませんでした。なのに痛みだけはすごくて、自分でさすることも出来ないのでとても辛かったです。リハビリも始まったのですが、体を動かすどころではありませんでした。
編集部
そこからどうやって回復したのですか?
tsukimiさん
術後2ヶ月たった頃、リハビリ病院に転院し、少しずつ動けるようになりました。車椅子に一人で乗れるようになったのが術後4ヶ月経った頃です。そこから更に半年間リハビリし、車椅子で生活できるようになった時点で、退院しました。術後10ヶ月が経っていました。ただ、このリハビリ期間中に「再手術が必要」と言われていました。
2度目の手術
編集部
再手術? それはどういう目的で?
tsukimiさん
「尿閉」といって、自分で尿が出せなくなってしまう症状が続いたので、最初のA病院とは別のB病院で調べてもらった結果、「再手術が必要。最初の手術で取り切れなかった部分を切除する」と言われました。同時に、切除した背骨を補強する目的で、インプラントを入れる手術も行いました。これが2020年1月のことですね。初回の手術が2018年9月だったので、1年4ヶ月が経っていました。
編集部
その後はどうなりましたか?
tsukimiさん
そこからは比較的速かったと思います。手術の翌月にリハビリ病院に転院し、3ヶ月後には杖歩行が可能になったので、自宅に帰りました。その後も外来通院していたのですが、インプラントでの固定箇所をもっと増やすということで、2022年の4月に3度目の手術をしました。前回は、頚椎という首の骨のみを固定したのですが、今回は胸椎、つまり胸の方まで固定しました。
編集部
治療や闘病生活の中で、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
tsukimiさん
初回の手術後、体が動かなくなり、絶望もあったのですが、口は動くので、同じ病室の人たちや看護師さんとたくさんお喋りをしました。体は本当に辛かったけれど、そのときの何気ないやり取りが楽しかったです。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
tsukimiさん
「病気に重いも軽いもない!」と思うようになりました。入院生活の中で「私なんてこんなにひどいんだよ」と、自分の病状が一番辛いと言い張る患者さんもいましたが、痛みは目に見えないからその人にしかわからないし、寝たきりでも、車椅子生活でも、歩けるようになっても悩みはあります。車椅子の時は「若いのにかわいそう」と言われて嫌な思いをしましたし、杖で歩けるようになってからは「歩けていいね」なんて言われると腹立たしく感じました。もちろん私自身も、「自分の辛さが理解してもらえない」と悩んでいた時期もあったのですが、「病気の辛さなんてその人にしかわからない」って思えるようになって心が軽くなりました。あと、この病気になってなかったら、今の主人とは出会えてなかったと思います。
マッチングアプリに「障害者です」と登録した結果…
編集部
ご主人とは、医療現場で出会ったのですか?
tsukimiさん
いえ、マッチングアプリです(笑)。車椅子仲間と「ドライブするにも車椅子の乗降や、立ち上がり介助もあって、出逢いなんてむずかしいよね」という話をしているうちに、ノリで「マッチングアプリに登録してみよう」という話になったんです。プロフィールにみんな「障害者です」と記載しました。そこで出会ったのが今の夫です。
編集部
そうなんですね。
tsukimiさん
物珍しかったのか、主人以外の男性からも何件かメッセージがあったのですが、案の定、出掛ける直前になってドタキャンされることもありました。うちの主人はそういったこともなく、自分の車に車椅子を積めるかとか、色々現実的に考えて行動してくれました。外来でのリハビリも一緒に来てくれて、担当の理学療法士さんに、自主トレの内容や歩行介助の仕方を聞いて勉強していました。私が今歩けるのは、主人とのリハビリがあったからです。
編集部
歩行リハビリについて、もう少し教えてください。
tsukimiさん
2度目の手術前の外来リハビリで、理学療法士さんに「外出するには10m10秒ペースを目標に」と言われました。これより遅いと、横断歩道を渡り切れないのだそうです。その頃の私は10m60秒ほどでした。近くの公園で、主人とよくリハビリしていたのですが、一周約2分のコースを私が歩くと45分かかりました。
編集部
なるほど、短くも長い道のりですね。
tsukimiさん
2度目の手術のあと、歩くリハビリの時に、力をいれなくても歩けると教えてもらって、目から鱗でした。寝たきりの時からずっとリハビリを続けていくなかで、動かすのに足全体に力を入れて足を出していたのです。「力を抜く」のは簡単ではありませんでしたが、徐々に以前の感覚が戻ってきました。リハビリ病院を退院したあと、公園を歩くと一周5分でした。手術してまた寝たきりになったらどうしよう……と、2度目の手術は悩みましたが、やって良かったです。術後ももちろんですが、手術前のリハビリも大事だと思いました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
tsukimiさん
まず、この病気に対して無知だったことです。最初に診断を受けた時、「病気についてはご自身で調べてみてください」「指定難病なので医療費の助成が受けられますよ」くらいしか説明されず、生活指導などはしてもらえなかったので、「転倒などの軽微な外傷で、急に麻痺の発生や憎悪を来すことがある」ということを知らなかったのです。それを知らずに、自分で頑張ろうとして、何度も転倒していました。「急激に歩けなくなったのはそのせいもあるのでは」「転んじゃダメってことをもっとちゃんと知っていれば」と、いまだに思ってしまいます。
編集部
ほかにもあれば教えてください。
tsukimiさん
それから、病院選びも少し後悔しています。A病院での最初の手術のあと、動けなくなりとても辛かったので……。もちろん、手術が原因で寝たきりになったわけではないのですが、この病気に詳しい先生や医療機関をもっと調べれば良かったと思いました。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
tsukimiさん
疼痛は常にあり、とくに天気が崩れたり、生理前だったりは、激痛で一日中寝て過ごす日もあります。生活は、前から好きだったネイルを勉強して、今年、自宅サロンをオープンしました。指を動かすことさえ困難だった私ですが、ネイリストとして細かい作業もできるようになりました。好きなネイルが仕事になり、さらにリハビリにもなっています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
tsukimiさん
「情報がもっとあったらなぁ」と思います。この難病に関して、手術の方法や生活上の注意点などを共有してほしいです。また、この病気はこの病院が詳しい、とかそういった情報も広く共有できたらと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
tsukimiさん
色んな病気がある中で、私のような体験が誰かの役にたつことがあったらいいなと思います。辛いこともありましたが、なかなかできない経験をさせてもらったと今では感謝しています。お世話になったドクターや看護師、理学療法士、作業療法士のみなさんにありがとうと伝えたいです。
編集部まとめ
初回の手術後、「指さえ動かない寝たきり」になってしまったtsukimiさんですが、現在はネイルのお仕事をされているとのことで、「好きなことが仕事になり、リハビリにもなっている」のがすごいと思いました。ご主人との出会いのお話もとても興味深かったです。tsukimiさん、ありがとうございました。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。