「命に関わる病気になると想像せず生きてきた」40代で”顕微鏡的多発血管炎”と診断。病名が分からずにうつ状態にもなった闘病生活
「顕微鏡的多発血管炎」あまり聞きなれない病名ですが、難病指定の疾患で早期に正しい治療が行われなければ命に関わります。あおいさん(仮名)は、下肢の炎症から始まって顕微鏡的多発血管炎を発症しましたが、最初病名が分からず4カ月にわたり不安な日々を過ごされていました。「命に関わるような病気になるとは想像もせず生きてきた」と語るあおいさんに、病名が分かった経緯や治療方法、病気になって分かった情報収集の重要性について詳しく話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年9月取材。
体験者プロフィール:
あおいさん(仮称)
1965年生まれ、大阪府在住。夫と二人暮らし。2012年12月中旬、下肢の蜂窩織炎(ほうかしきえん)で入院。完治していないものの病院の人手不足により大晦日に退院し、自宅療養していたが、2013年1月に発熱と息苦しさが出現。同年4月に「顕微鏡的多発血管炎」と診断される。福祉系相談員をしていたが、契約更新できず3月末で退職。2年ほどかけて減薬、現在まで再燃せず経過。別の業種で仕事復帰したが、現在は無職で求職中。
記事監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
蜂窩織炎での入院後、突然発症した「顕微鏡的多発血管炎」
編集部
まず初めに、顕微鏡的多発血管炎という病気について教えてください。
あおいさん
「顕微鏡的多発血管炎」は、毛細血管や静脈などの臓器に分布する小型血管壁に炎症・血栓形成などが生じる病気です。好発部位は腎臓や肺、皮膚などで、臓器の機能が低下してしまいます。私の場合、肺は初期の治療で落ち着き、腎機能は正常の半分程度になりましたが皮下出血は1年ほどで治まりました。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
あおいさん
2012年12月、下肢の蜂窩織炎(ほうかしきえん)という診断で近くの市民病院に緊急入院しました。年末でもありまだ完治していませんでしたが、病院の都合により1週間ほどで退院し、自宅療養中の数日後に発熱と息苦しさが出現しました。そこで、入院時の担当医に連絡して診てもらい、一月初旬に再入院となりました。何らかの膠原病ではないかとの判断で、抗生物質を使用する前にいくつか検査とステロイドパルスを実施しました。顕微鏡的多発血管炎の特徴でもある血液検査(ANCA)も陰性で、病名が分からないまま翌年4月に膠原病科のある大学病院へ転院しました。そこで、これまでの症状から「顕微鏡的多発血管炎」と診断されました。
編集部
自覚症状などはありましたか?
あおいさん
発熱、息苦しさなどがありました。発症前は下肢の蜂窩織炎の疼痛や皮膚のただれなどの症状がありました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
あおいさん
「免疫系の疾患と思われるので、膠原病の急性期の標準治療であるステロイド投与によって、炎症を抑える治療を実施する」と説明を受けました。
なかなか診断がつかず、不安が重なりうつ状態に
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
あおいさん
入院当初は数日で帰れるものだと思っていましたが、病名もわからず、退院どころか治療の目途もつかなかったので、とにかく不安でした。病名がわからないと難病医療費助成制度の申請の申請ができず、また長期入院で収入がない中仕事も契約更新とならず、退職になりました。高額療養費で減免は受けていたものの、病院への支払いで経済的に苦しかったため、病名がついた時にはこれでやっと一息つけるとホッとしました。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
あおいさん
合計半年間の入院生活となり、転院前の病院では大量のステロイド使用により躁うつ状態となりましたが、大学病院への転院後は治療にも慣れ、精神的に安定した状態で療養できました。しかし、自宅へ戻って2週間後にひどいうつ状態になり、何の気力もなく身体を動かすこともできずに半年間ほど寝てばかりの生活でした。精神科にも通院し、傷病手当が入るようになってからは生活の不安は少し解消しました。
編集部
闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
あおいさん
入院中、同室の難病の方と仲良くなり、お互いに励まし合いながら入院生活を送っていました。しかし私が退院して8カ月後にその方は他界されました。10年経った今でも昨日のことのように思い出しますし、「彼女の分までしっかり生きなければ」と思います。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
あおいさん
最初は蜂窩織炎と思っていたものが顕微鏡的多発血管炎の症状だったので、「蜂窩織炎や感染症を甘く見ないように、別の病気かもしれないから」と言いたいですね。
「もしも」となる前に公的制度を知っておくことも求められる
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
あおいさん
感染症が引き金になって再燃することが多いそうなので、外出時はコロナ禍以前よりずっとマスクを着用しています。下肢の怪我には注意し、コロナワクチンを接種して感染症にかからないよう極力注意して生活しています。
編集部
お仕事のほうはいかがでしょうか?
あおいさん
病気を発症して2年後、治療しながら再就職しましたが、職場が感染予防への理解度が低く、ストレスでうつ症状が悪化したため退職しました。現在は脊柱管狭窄症も発症してしまい外出時は車椅子生活のため、現在はパートで在宅勤務をしています。
編集部
あなたの病気を知らない人に一言お願いします。
あおいさん
最近若い方で顕微鏡的多発血管炎を発症し、SNSで発信されている方も増えたので当時よりも情報収集はしやすくなりました。血管炎、という病名は新型コロナウイルス感染症の病状説明の際によくテレビなどで時々話されていますが、血管も炎症を起こすことを知っておいてほしいと思います。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
あおいさん
医療従事者でもこの病名を知らない方もたくさんいましたし、私自身も看護師でしたが知りませんでした。救急で3カ月間入院した一般病棟と、その後入院していた専門病棟ではいろいろな管理体制や対応が全く違います。この病気だけでなく緊急性があり、命に関わるような疾患が疑われた時は専門性の高い病院への受診を早々に進めてほしいと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
あおいさん
突然、命に関わるような病気になるとは想像もせずにいました。たまたまこの病気を診たことのある医師に当たり、早期に適切な治療ができたことは不幸中の幸いでした。突発的なことに備えるのは難しいと思いますが、さまざまな公的制度について詳しいことはとても役に立ちます。給付や減免については自ら役所などに問い合わせをしないと利用しにくいですが、今はまとめサイトなどもあるので、余裕のある時に目を通しておくと役に立つのではと思います。
編集部まとめ
あおいさんは、救急外来の総合診療医が顕微鏡的多発血管炎を診たことがあったことから、速やかに適切な初期治療を受けることができたそうです。一歩間違っていたら、命を落としていた可能性もある顕微鏡的多発血管炎。「とにかく早期治療が大切。病名がはっきりしない場合は受診先に総合診療科があるところをおすすめします」とのことでした。健康な日々を送っていると、そういった情報には興味を持たないかもしれません。ですが、自分や家族がもしもの状態になる前に、いろんな情報をキャッチしておくスキルが求められそうです。