【闘病】遠位型ミオパチーで自分では何も出来なくなるも「むしろ楽になった」と語るワケ
遠位型ミオパチーは指や手首、足首などから徐々に筋力が失われ、筋肉が痩せていく疾患です。闘病者の川添さんは、10代で筋力低下を感じ始め、現在は車椅子での生活を送っています。指先だけがわずかに動くため、動ける指先を活かして仕事もしているそうです。自力での生活は困難になりましたが、家族やヘルパーの力を借りながら日々の幸せを感じているといいます。川添さんが遠位型ミオパチーを発症してから、現在に至るまでの経過などについて話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年5月取材。
体験者プロフィール:
川添 広治
1991年生まれの男性。高校時代から筋力低下の異変を感じており、20代に入ってからフィジカルトレーナーに勧められて検査を受ける。2013年に地元の大学病院にて「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」と診断された。現代医療による治療法がないことから、経過観察と筋力維持のリハビリで日々を過ごしている。現在、定期検査を行いながら、動かせる指先を使って在宅ワークに取り組んでいる。
Instagram:@kozart111
記事監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
始まりは高校生時代の筋力低下から
編集部
最初に川添さんの発症した「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」についておしえてください。
川添さん
そもそも「遠位型ミオパチー」にはいくつか種類があり、いずれも遺伝が原因にある難病です。私の「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」は、GNE遺伝子の変異によるもので、体幹から遠い筋肉が障害されていきます。指先や手首、足首など身体の先端から筋力が低下していくのです。進み方は人それぞれですが、平均で10数年で車椅子の生活になるようです。
編集部
遺伝性疾患とのことですが、治療法はあるのでしょうか?
川添さん
残念ながら、現在のところ治療法は見つかっていません。私の場合も定期的な受診と検査はしていますが、ほかは自分でリハビリを行うくらいです。医師からも現状では治療法がない難病と説明され、筋肉維持のためにリハビリと経過観察が必要と説明されました。それ以外には、病気に関する情報収集と患者同士の交流を勧められました。
編集部
病気が判明したとき、ショックも強かったのではないでしょうか?
川添さん
私の場合は明確な原因が見つかったことでホッとしました。診断されるまでに検査で長い時間を掛けていたので、病気が診断されたときは「やっとわかったか」という気持ちでした。それと幼いころから筋力が弱く、運動が苦手なことがコンプレックスだったので、それも「やっと原因を突き止めた」と思いました。いくつも大きな検査を行っていたので、難病の心構えはできていて、意外とネガティブになることはありませんでした。
編集部
診断がついてから、生活にはどのような変化がありましたか?
川添さん
私の病気は進行性ですので、身体の進行状況に合わせて身の回りの環境も変えていく必要があり、その点がとても難しいところです。進行状況に合わせて慣れない申請の手続き、生じてくる問題を介護用品で解決していき、次々立ちはだかる問題に対応する日々でした。進行するたびに、頑張って何かに尽力していたと思います。今は車椅子での生活になり、自分では何も出来なくなったことで、むしろ昔より楽になった感じがします。
編集部
普段の生活で気持ちの支えになっているものは何ですか?
川添さん
大きかったのは家族とヘルパーさんの存在です。特に母には日頃から申請などで駆けまわってもらっていて、日常でもお世話になることが多いです。それにヘルパーさんもいなければ、自分では何もできないので大いに助かっています。今の自分が難病でも幸せに過ごせているのは、周りの人の支えがあってのことなので支えてくれる人にはすごく感謝しています。また、医療従事者さんには常に良くしていただいているので、ただただ敬意と感謝の思いで一杯です。
病気に良い悪いはなく、気付きを得られる大切な経験
編集部
今の川添さんが昔の自分に声を掛けるなら、どんな言葉を掛けたいですか?
川添さん
一番は自分をもっと大切にするように言ってあげたいです。自分自身の微かな異変にいち早く気付くことで、早期発見にも繋がったのかなと思います。縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーは、治療法のない遺伝性疾患ではありますが、早い段階でそれから先のイメージを持ち、準備や心構えがあるともっと余裕が持てただろうと思います。
編集部
現在の体調や仕事の様子も教えてもらえますか?
川添さん
現在は、日中のほとんどをベッド上で過ごす寝たきりの状態です。自力では全身を動かせないので、身の回りのことはすべて家族やヘルパーさんに頼る生活です。あとは週に1度訪問リハビリを受けながら、仕事もしています。今は辛うじて動く指先でパソコンを操作して、アート制作に励んでいます。
編集部
お仕事は具体的にどんなことをされているのですか?
川添さん
私はPhotoshopというソフトを使用して、画像を組み合わせたデジタルアートを制作しています。作品は自分のInstagram(プロフィール欄参照)に投稿したり、ギャラリーへ出展したり、ポストカードやコースターなどの商品にしたりして販売しています。よろしければ、日々の活動を見に来てくれると嬉しいです。
編集部
遠位型ミオパチーについて知らない方に向けて伝えたいことをお願いできますか?
川添さん
自分の難病のように、いつ発症するかわからない病気がほかにもあります。自分の場合は進行性の筋疾患ですが、まずそういった病気があるということだけでも知ってもらえたらありがたいです。そして明らかに「おかしい」と感じる異変があれば医師や専門家に相談してほしいです。発症の時期や進行速度はストレスに関りがあるとも言われているので、できるだけ過度なストレスを避けて自分自身を大切にしてもらえたらと思います。
編集部
最後に読者の方に向けて、川添さんからのメッセージをお願いします。
川添さん
比較的重い障害、難病を抱えている自分が今思うことは、病気とは生きとし生けるものに表れる必要な現象だということを感じます。そして広い目で見ると、病気には良いも悪いもなく、沢山の気づきや経験が得られるありがたいものだと思っています。悩み苦しんでいる方も多いと思いますが、抗わずに受け入れることで少しでも楽に生きられる方が増えることを願います。自分ももうしばらくこの病気に付き合ってもらいながら、人生をより深めていけたらと思っています。
編集部まとめ
遠位型ミオパチーは国内でも400人ほどの患者さんがいるとされ、日本では指定難病にもなっています。遺伝性の疾患とされ、20~30代で発症、その後は徐々に進行していく非常に厄介な病気です。患者数の少なさから周囲の人からも症状が理解されにくく、闘病中の患者さんは辛い思いをすることも多いです。身近な人で筋力が弱い、または運動が苦手な人がいたとしても、もしかすると病気が原因という可能性もあります。外見ではわかりにくい病気ではありますが、本人の気持ちと立場に立って接していく心掛けが大事です。周囲の人はもちろん、街中でも車椅子の人が困っていたら、自分に何かできないか声を掛けていく、そんな優しさを持って接してみてください。