「高齢者が服用してはいけない薬」はどんな種類がある? 薬剤師が解説
高齢になると、複数の持病を持つ人が増えてくるため、病気の数だけ薬の処方も多くなります。「こんなにたくさん薬を飲んで、副作用は大丈夫なの?」と不安を感じている方も多くいらっしゃると思います。そこで、高齢者で服用に気を付けたい薬について、薬剤師の上野さんに伺いました。
監修薬剤師:
上野 園子(薬剤師)
高齢者によく起こる服用トラブルについて
編集部
高齢者と成人では、お薬の効き目や副作用に違いはあるのでしょうか?
上野さん
高齢者になると、肝臓や腎臓の機能が低下して、代謝や排泄に時間がかかるようになります。また、高齢者は体内の水分量が少なく、脂肪量が多くなるため、お薬が脂肪に溶け込んで体内に溜まりやすく(蓄積しやすく)なります。そのため高齢者の方は、血液中のお薬の濃度が高くなりやすく、効き目が強く出過ぎたり、副作用がおこりやすくなったりします。
編集部
副作用が心配な場合、量を減らして飲んだ方がいいのでしょうか?
上野さん
同じ高齢者でも身体の状態によって、効き目も副作用も個人差があります。自己判断で減量や服用を中止してしまうと、肝心の効果が得られない可能性があります。必ず医師の指示した用量で服用しましょう。服用中に体調不良や、副作用かな? と感じた際は、我慢せずに医師や薬剤師に伝えて、お薬の用量や種類を調節してもらうことが重要ですね。
編集部
高齢者でよく起こる薬のトラブルとは、どういったものがあるでしょうか?
上野さん
高齢者では、ふらつき、転倒、物忘れの副作用が起こりやすいので、注意が必要です。特にふらつきや転倒は、5種類以上のお薬を使う高齢者の4割以上に起きているという報告があります。種類としては、睡眠薬が多いですね。夜間にトイレに立った際に、お薬が効いているためにふらついたり、頭がぼーっとして転倒したりしてしまい、骨折するというトラブルも少なくありません。また、高齢者になると骨がもろくなるので、転倒による骨折をきっかけに、寝たきりになってしまい、寝たきりから認知症の発症につながる可能性もあります。
編集部
そういったトラブルを防ぐ方法はありますか?
上野さん
できれば、ご本人に自分の病気を知ってもらい、お薬の名前や用法・用量を覚えてもらうことが重要です。そして、通院の際には医師や薬剤師に体調変化も合わせて相談してもらうのが理想かと思います。
編集部
薬の名前ってカタカナで覚えにくいですし、種類が多いと混乱する方もいそうですね。
上野さん
そういう場合は、お薬手帳を活用して下さい。体調の変化(特に薬を飲んだ後)に注意し、簡単でいいので「だるい」「軽い眠気」など体調を記録していただくといいでしょう。ご本人が難しい場合は、家族の方に少しサポートいただけると安心です。通院時は、お薬手帳と体調の記録を医師や薬剤師に見てもらい、その時々の体調に合わせたお薬の用量や薬の種類を調整していただくのがいいと思います。また、複数の病院から薬をもらっている場合、かかりつけ薬局は1つにまとめると、薬の相互作用や重複を確認してもらえるので、おすすめです。
注意すべき薬の種類について
編集部
先ほど、睡眠薬でのトラブルの話がありましたが、注意点について詳しく教えてください。
上野さん
睡眠薬には、筋肉をゆるめたり、飲んだあとの記憶が飛んだり、翌日も意識がぼーっとしてしまうなどの副作用があります。トイレを済ませて布団に入る直前に服用する・晩酌の時は薬を飲まない・夜中に目が覚めても自己判断で追加しないようにしましょう。ただ最近では、より自然な眠りに近く安全性の高い睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬)も出てきています。
編集部
睡眠薬以外にも注意が必要なお薬はありますか?
上野さん
うつやアレルギーのお薬も、ふらつきや意識がぼーっとする、眠気が出る場合があるので注意が必要です。アレルギーに効く成分は、市販の風邪薬の中にも入っていることがあり、本人に自覚なく眠気やだるさを感じているケースもあります。
編集部
ふらつきや転倒以外の副作用で、注意する薬もあるのでしょうか?
上野さん
循環器用のお薬で、特に注意が必要なのは、脳梗塞や心筋梗塞の予防で処方される抗血栓薬です。胃など消化管からの出血、脳出血のリスクが高まりますので、少し頭をぶつけただけの場合も、軽く考えず受診するようにしてください。高血圧の薬では、利尿薬、α遮断薬、β遮断薬は、慎重に使う薬です。また、糖尿病の薬は、低血糖に注意が必要です。低血糖の症状は、手の震え・動悸などがありますが、高齢者では症状が出ないまま、重症化してしまうことも多いので気を付けなければなりません。
編集部
副作用が気になって、飲んで大丈夫なのか心配になりそうですね?
上野さん
大事なのは、持病を悪化させないために薬を飲んでいるということです。副作用は、お薬を使用したら必ず現れるものではなく、出る可能性もあるぐらいに思っておく必要があります。副作用を恐れるあまり、自己判断で飲まずに病気が悪化してしまったというのは避けたいですよね。自己判断でのトラブルというのも非常に多いのです。大事なのは、変化を感じた際に患者さんから自発的に医療者にお伝えいただくことです。
高齢者の服用方法について
編集部
服用時間というのは守らないといけませんか?
上野さん
内服薬は「食前」「食後」「食間」など指示どおりの時間で飲むことが必要です。それぞれの薬の効果を発揮しやすい時間が設定されているので、正しく飲まないと効果が得にくくなります。
編集部
飲み忘れたり、飲み間違えたりはありそうですね。何か工夫はあるでしょうか?
上野さん
処方された薬を、薬管理用のケースや服用カレンダーでわけて管理するといいですね。最近は100円ショップなどでも、便利なお薬ケースが出ていますよ。粉薬の包みや錠剤のPTPシートに、日付を書いておく、ご家族に声をかけていただくなどの工夫もあるでしょう。なかなか難しい場合は、調剤薬局で一包化(飲むタイミングで薬をまとめる)をしてもらうのも一つの手です。
編集部
むせてしまって、薬が飲みにくい場合なども対処はありますか?
上野さん
高齢者は嚥下機能(飲み込む力)が低下していますので、誤嚥に気をつけていただきたいです。お薬が飲みにくい場合は、ゼリー状のオブラートが、薬局で購入できます。どうしても飲めない場合、カプセル→錠剤や粉薬→錠剤への変更ができる場合もあります。困ったら、医師や薬剤師にまず相談してみてほしいです。
編集部まとめ
高齢者では、薬の効き目や副作用が強くでやすいため、注意のいる薬が多いことがわかりました。まずは、患者さんやご家族で、飲んでいる薬を把握して、服用中の体調変化を記録いただくこと。自己判断で減量や、中止をするとかえってトラブルになるケースもあることがわかりました。何か気になった際は、医師、薬剤師に相談するようにしましょう。