【尿漏れ対策・改善】医師が産後などに有効な骨盤底筋体操・ペリネケアを解説
出産という大仕事が終わっても、育児とともに「産後のマイナートラブル」が多くの方にやってきます。産後のトラブルの中でもとくに多く聞かれる「尿漏れ」に着目し、産後の尿漏れ改善のための骨盤底筋体操・ペリネケアなどの対策について、産婦人科医の佐藤歩美先生(あゆみレディースクリニック高田馬場)に話を聞きました。
監修医師:
佐藤 歩美(あゆみレディースクリニック高田馬場)
目次 -INDEX-
産後のトラブル 排尿障害はなぜ起きる? くしゃみ・咳でも尿漏れするって本当?
編集部
産後のトラブルには本当にさまざまなものがありますね。
佐藤先生
そうですね。いわゆる「産後」と呼ばれる「産褥期(さんじょくき)」は、出産直後から産後 6~8 週間までを指します。この時期に起こりやすいトラブルとしては、「尿漏れ」のほかにも、骨盤周囲の靭帯が緩むことで起こる「腰痛」や「内臓下垂」、乳腺が詰まることによって起こる「乳腺炎」などがあります。また、産後だけでなく妊娠中から起こりうるものとしては、「マタニティブルー」と呼ばれるメンタル面の不調もあります。
編集部
尿漏れはなぜ起きるのでしょうか?
佐藤先生
原因はいくつかありますが、最もポピュラーなものとしては「骨盤底筋群」の緩みがあげられます。「骨盤底筋群」とは、文字通り骨盤の底にある筋肉の総称で、子宮などの内臓をハンモックのように支えて定位置にキープしてくれています。順調な妊娠、出産でも骨盤底筋群は緩みますが、子宮口が全開してから出産まで何時間もかかるなど、大変な出産だった場合は骨盤底筋群がよりダメージを受けている可能性があります。そして、この「骨盤底筋群」には、排泄をコントロールする役割もあるのです。女性は普段、「骨盤底筋群」を引き締めていることで尿や便が出ないようにし、これらを緩めることで排尿・排便をしています。
編集部
排泄をコントロールするのも筋肉なのですね。
佐藤先生
そうです。出産の時、赤ちゃんが産道を通って出てくるのを助けるために靭帯や、骨盤の関節を緩めるためのホルモンである「リラキシン」が分泌されています。これは、出産後すぐに止まるわけではなく、数日かけて徐々に分泌が減少していきます。また、分泌が止まった後も、ホルモンの作用は1ヶ月ほど継続すると言われているため、この期間に尿漏れが起こりやすくなるのです。
編集部
どんな時に尿漏れが起きるのですか?
佐藤先生
尿漏れの量や程度には個人差が大きく、「知らないうちに流れ出ていた」というケースから「普段は問題ないけど、くしゃみや咳、重いものを持った時などに出てしまう」というケースまで様々です。また、尿漏れの量も個人差があり、尿漏れパッドも少量タイプからある程度の量をカバーできるタイプまで様々展開されています。
産後の尿漏れに効果的なペリネケアとは? 骨盤底筋を回復させる体操・トレーニングを医師が解説
編集部
産後の排尿トラブルはいつまで続くのでしょうか?
佐藤先生
先ほどお伝えしたように、産後1ヶ月ほどは筋肉を緩める「リラキシン」の作用が継続しています。そして、その間に筋力も低下してしまっているので、「リラキシン」の作用が消失していたとしても、すぐに産前と同じように骨盤底筋群が使えるわけではありません。個人差はありますが、筋肉をはじめ産後の身体の回復には一般的に2ヶ月程度かかるため、この期間は仕事を産休としてお休みすることが認められています。この時期は無理せず過ごしていただきたいです。
編集部
2ヶ月程度で骨盤底筋群の緩みは自然に回復するのですか?
佐藤先生
ある程度までは自然に回復すると言われています。しかし、産後の過ごし方や、もともとの筋肉のつき方などによっては、戻りが良くない場合もあります。「尿漏れ」が産後2ヶ月以上続いている場合には、積極的なケアをお勧めします。
編集部
積極的なケアは、どうしたら良いのでしょうか?
佐藤先生
骨盤底筋群は筋肉なので、トレーニングなどによって鍛えることができます。ダンベルや腿上げなどの筋トレと同様に、「収縮」と「弛緩」を繰り返すことで少しずつ筋力がアップしていくのです。すぐに筋力がついて尿漏れがなくなるわけではありませんが、コツコツとやっていくと変わっていきます。
産後の尿漏れ対策 ストレッチなど自宅・自分でできるケアを知りたい
編集部
自分でもケアできますか?
佐藤先生
できます。体の内側にある筋肉なので使えているかがわかりにくく、コツをつかむまではやや難しいと感じるかもしれませんが、少しずつ意識できるようになっていきます。
編集部
デリケートな悩みなので、自分で対策できるのはとてもありがたいです。
佐藤先生
骨盤底筋群のことをフランス語で「ペリネ」と言うのですが、骨盤底筋群をケアする「ペリネケア」は、産後の女性のみならず、加齢による尿漏れなどにも非常に有効です。特に有名なのは「ケーゲル体操」というものです。これは米国の医師が開発したものですが、骨盤底筋群のトレーニングとして非常に取り入れやすいと思います。インターネットなどで検索してみてください。
編集部
自分で行う際、気をつけることなどはありますか?
佐藤先生
正しい運動が行われているということが大前提として、使っている部分をしっかり意識して行うのが大事です。もうひとつ、「呼吸を止めない」ということも意識してみて下さい。筋肉に十分な酸素を行きわたらせながらトレーニングしていくイメージです。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
佐藤先生
産後の女性はとても忙しく、自分のことが後回しになってしまう方も多いと思います。しかし「尿漏れ」が続いていると、何をしていても気になってしまい、QOL(生活の質)に大きな影響を与えます。先述のように、骨盤底筋群のトレーニングは効果が実感できるまで少し時間がかかります。すぐに改善しないからといって諦めてしまう方も多いのですが、しっかり継続することで、その後のQOLが上がっていきます。ぜひ、隙間時間をみつけて取り組んでみてください。また「使っている部分が意識できない」とか「感覚がわからない」という方は、一度クリニックを受診してみてください。骨盤底筋群を鍛えるさまざまな方法を提案させていただきます。
編集部まとめ
産後はどうしても忙しく、「多少の我慢は当たり前」といって自分のことは後回しになりがちですが、将来の自分のために、できることは取り入れていきたいですね。また、自分でできる方法だけでなく、クリニックだからこそ提案できる方法などもあるとのことなので、ご自宅でのトレーニングが難しい方は、一度受診してみるのも良いかと思います。
医院情報
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診療科目 | 産科・婦人科 |