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【闘病】「突然死んでいたかもしれない」 先天性アンチトロンビンIII欠損症とは

 公開日:2023/02/28
【闘病】「突然死んでいたかもしれない」 先天性アンチトロンビンIII欠損症と出産

当たり前のように健康に生活してきた人にとって、「病気が判明する」というのはショックなことです。しかし、病気と判明することで適切な治療を開始できるわけですから、非常に大事なプロセスともいえるでしょう。4人の子どものママであるなおさん(仮称)は、「先天性アンチトロンビンIII欠損症」を患っています。病院を継続して受診するきっかけとなった2度目の出産、先天性アンチトロンビンIII欠損症が発覚した3度目の出産、ハイリスク妊婦として挑んだ4度目の出産。病気とともに乗り越えたこれまでについて話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年1月取材。

なおさん

体験者プロフィール
なおさん(仮称)

プロフィールをもっと見る

1978年生まれ、大阪府在住、4児の母。中学生の時父親が40代で心筋梗塞を発症。その際の家族検査で自身も家族性高コレステロール血症と診断される。2015年第二子出産前の長期安静がきっかけで、出産後に深部静脈血栓症を発症。2019年第三子出産後に先天性アンチトロンビンIII欠損症と診断される。2021年治療をしながら第四子出産。現在も内服で治療継続中。

丸山 潤

記事監修医師
丸山 潤
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

出産で骨盤がズレたのかな……

出産で骨盤がずれたのかな…

編集部編集部

最初に不調や違和感があったのはいつ、どのような状況だったのでしょうか?

なおさんなおさん

次男出産時に、31週0日で破水し、2週間ほどの安静期間を経て32週6日で出産したのですが、産後しばらくしてやっと自力での移動が可能になったあたりから、両下肢の痛みやだるさがありました。それがはじまりです。医師にも話しましたが、特に検査はせず、産後10日ほどで退院しました。その後も下肢のだるさと痛み、特に右股関節の痛みがひどく、脚を引きずる様にして歩行していました。だんだん悪化して、寝ていてもだるさが取れず、最終的には激痛で自宅内を這って移動するような状態でした。

編集部編集部

それで受診されたのですか?

なおさんなおさん

出産で骨盤がズレたのだろうと思い、整形外科を受診しました。骨盤はズレていなかったのですが、超音波検査をしたところ血流に問題があるとわかり、精密検査を受けることになりました。結果は、右膝裏あたりからくるぶしまで、20cm以上、左膝裏あたりから10cm程度にわたり血管が詰まっている状態で、「深部静脈血栓症」と診断されました。このときは、遺伝で元々患っていた「家族性高コレステロール血症」と長期間のベッドでの安静が原因でしょうと言われ、1年間お薬を内服することになりました。

編集部編集部

一時的なもの、という感じだったのですね。

なおさんなおさん

その時はそういう認識でした。その後は特に何の症状もなく、出産前と同じように生活し、3年後に3人目を妊娠しました。血液凝固系の検査と下肢のエコーを受けたのですが、そこで血液凝固系に関するデータが正常値を大きく下回る値だったうえに、新たな血栓ができていたことがわかりました。そこでヘパリンカルシウムの自己注射をはじめたのですが、検査値がどんどん悪化したため、大学病院で診てもらうことになりました。

編集部編集部

診てもらった結果、どうなったのですか?

なおさんなおさん

大学病院では「即入院が必要」と言われ、抗凝固剤の点滴をすることになりました。24時間の持続点滴を2ヶ月以上継続し、ようやく出産に至りました。産前はとにかく無事に出産することが最優先だったので、精密検査はおこなわず、産後に凝固系異常専門内科医の診察を受けて「先天性アンチトロンビンIII欠損症」と判明しました。

編集部編集部

どんな病気なのでしょうか?

なおさんなおさん

血液が固まるのを防ぐ因子(プロテインS、プロテインC、アンチトロンビンⅢ)が先天的に欠乏状態にあるため、血液が固まりやすく、血栓症を起こしやすくなります。普通に生活をしていてもエコノミークラス症候群になっているような状態です。ただし、素因がある人全員が発症するわけではなく、判明しないまま過ごす人も多いようで、大きな怪我や手術、妊娠などがきっかけとなって気付くケースがほとんどのようです。

薬を常用しながらの妊娠

薬を常用しながらの妊娠

編集部編集部

医師からはどのように治療を進めていくと説明がありましたか?

なおさんなおさん

診断後、先生から「薬は一生飲み続ける必要がある」と言われました。「血液データが安定するまでは、頻回に診て薬の量を決めなければならないが、安定すれば近くの病院でのフォローが可能になる」とのことでした。

編集部編集部

そのときの心境について教えてください。

なおさんなおさん

「薬は一生か……」とは思いましたが、はっきり診断がついたことに「ホッとした」というのが正直なところでした。血栓については、最初に整形外科を受診した時は痛みやだるさなどの自覚症状がありましたが、3人目の妊娠時は全く自覚症状がありませんでした。「この血栓が知らない間に流れて塞栓症を起こしていたら……」と思うと本当に怖かったので、今後は薬を内服することで、とりあえずなんとかなるという安心の方が大きかったですね。

編集部編集部

治療や闘病生活の中で何か印象的なエピソードなどがあれば教えてください。

なおさんなおさん

4人目の妊娠、出産です。使用していた内服薬(ワーファリン)は胎児に影響する可能性があるため、妊娠期間中は飲むことができないと知っていたのですが、妊娠検査薬で妊娠がわかったのが休日だったので、病院に電話することもできず、数日とはいえ自己判断で薬を止めて良いものか、血管が詰まったらどうしようと少しパニックになりました。そして、前回のように長期入院になったら子ども3人はどうしたらよいかとグルグルいろんなことを考えました。医療現場で働いていたので、過去に経験した重症例のことばかりを思い出しました。

編集部編集部

医師の意見が聞けないというのは不安ですね。

なおさんなおさん

最初はちょっとパニックになったのですが、冷静になると医師からの言葉を思い出しました。3人目を産んだ後、主治医に「もうないとは思うんですが、今後は出産は無理ですよね?」と聞いたんです。すると、その先生が「なんで? そりゃ普通の妊婦さんよりは大変だと思うけど産めると思うよ。妊娠した時はおいで」と言ってくださっていたのです。

編集部編集部

妊婦さんでも可能な治療に切り替えられたんですね。

なおさんなおさん

前回とは違い、今回は診断がついており、ヘパリンは効かないこともわかっていたため、ヘパリンではなく「ATⅢ補充療法」という治療法に切り替えられました。これが効いて、当初は週に3回点滴のために通院と先生に言われていたのですが、週2回の通院で37週まで入院せずに過ごすことができました。お産に関しては計画誘発分娩になりましたが、無事に4人目を出産することができました。

患者にとって薬は命綱です

患者にとって薬は命綱です

編集部編集部

病気の前後で変化したことを教えてください。

なおさんなおさん

生活上、大きな変化はありません。強いて言うなら、ワーファリンを飲んでいると、大好きだった納豆や青汁がNGとされてしまうので地味に辛いですね。

編集部編集部

今までを振り返ってみて、後悔していることなどはありますか?

なおさんなおさん

後悔していることはありません。次男を出産後、医師に「今後の妊娠・出産は心配ですね」と言われている中で3人目を妊娠しましたが、この妊娠がなければ現在の病気はわからないままで、治療も始まっていなかったと思います。その場合、突然、塞栓症を起こして命を落としていた可能性もあるので、長期の入院で周囲の人たちに多くの心配や迷惑をかけたとは思いますが、あの時妊娠して本当に良かったと思っています。

編集部編集部

現在の体調や生活はどうですか?

なおさんなおさん

朝決まった時間に薬の内服が必須ということ以外は、普通に生活しています。あと、長時間同じ体勢でいると血栓ができやすくなるので、本を読み始めたときや、何か作業を始めて集中してしまうときなど、何時間も動かないことがないように気をつけています。特に、血管が圧迫されるので正座はしないようにと妊娠中から言われていましたが、自覚なく正座していることがあるようで、主人によく注意されています。

編集部編集部

医療機関や医療従事者に望むことはありますか?

なおさんなおさん

あえて言うなら、妊娠期におこなっていた補充療法薬を可能な限り入れ切ってほしかったです。1本の薬価がとても高く、その薬剤が身体に入ることでこの先3日間は血栓の恐怖から逃れられるので、患者としては最大限の薬効を得たいという気持ちがあります。かかりつけ病院の看護師さんをはじめ、ほとんどの場合は「この薬は高いから入るだけ入れてしまうね」と最後まで薬剤を入れてくれましたが、一度だけ「そろそろ終わりそうやね。抜こうか」と言われた時に、「入れきって欲しいです」と伝えたら、「でも、もうほとんど終わりですよ」と強制抜針されたことがありました。看護師は「早く終わらせたい」と思っていても、患者にとって薬は命綱です。妊娠期のイライラも相まって本当に嫌な気持ちになりました。

編集部編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

なおさんなおさん

SNSで病気や使用している薬のことを載せるようになってから、同様の疾患や同じ薬を使用している方から、妊娠出産に関連したことでメッセージをいただくことが増えました。やはり、皆さん自分の身体のこと、妊娠への不安、妊娠期間中のこと、使用している薬のことなど色んな不安があって、少しでも同じ病気で妊娠出産を経験した人の話を知りたいんだと思います。私は医者ではないので、自分の経験を話すことしかできません。なので、まずはご家族や信頼できる医師と納得できるまで話してみてください。

編集部まとめ

妊娠・出産はそれだけでも大変なことですが、血栓の不安を抱えながらの出産は様々な苦労があったことでしょう。今は「薬を内服しながらですが、普通に生活しています」というなおさん、4人のお子さんとご主人との「普通の生活」は、かけがえのないものだと思います。貴重な体験談をありがとうございました。

この記事の監修医師