【闘病】「ダラダラしている訳じゃない」 線維筋痛症と診断されるまでの苦悩
痛みは主観的なところが大きく、客観的評価がしにくいこともあって、なかなか周囲から理解されにくいものです。「線維筋痛症」も原因不明な病気の1つですが、指定難病にはなっていません。今回は5年間も診断がつかず、大変な想いをしてきた大谷さんに、これまでの話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年2月取材。
体験者プロフィール:
大谷 美子
埼玉県在住、1979年生まれ。息子と2人暮らし。診断時の職業はエステティシャン(オーナー)。埼玉県ヘルプマーク普及大使。2014年、身体に痛みを感じ、整形外科、大学病院などで検査を受けるも異常なし。5年間も診断がつかずドクターショッピングを繰り返した。やっとの思いで現在の病院にたどり着き、線維筋痛症の診断を受ける。現在の目標は、疼痛コントロールでQOLを上げること。まだまだ痛みは強く、1日横になって過ごす事も多いものの、無理のない範囲で仕事を継続し、趣味の時間で息抜きに努めている。
記事監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
きっかけは尋常ではない激痛だった
編集部
最初に線維筋痛症を疑った出来事はなんだったのでしょうか?
大谷さん
2014年のある日、仕事に向かう電車で、尋常ではない痛みが、急に全身を襲ってきました。右腕はちぎれそうなくらいの激痛で、背中はフォークが刺さったような痛みでした。頭痛、冷や汗、吐き気もありましたね。
編集部
すぐに病院にいきましたか?
大谷さん
まずは、職場近くの整形外科を受診しました。悪性腫瘍がないかどうかを調べるために、上半身のレントゲン撮影をしました。しかし、結果は異常所見はなし。エステの仕事をしていたことから、「職業病。ひどくなった慢性的な肩こり」と言われました。
編集部
生活に影響はありませんでしたか?
大谷さん
痛みで眠ることができなかったり、寝れても痛みに耐えながら眠るため、食いしばりで歯が折れたりしたこともあります。痛みや筋力も低下で起き上がれないことも多々ありました。薬の副作用も酷く、1日を以前のように過ごすことは発症してから一度もありません。
編集部
なかなか線維筋痛症の診断がつかなかったそうですね。
大谷さん
はい。私があまりにも痛みを訴えていたので、大学病院を紹介してもらいました。しかし、検査ではどこにも異常がなく、「そんなに痛いはずがない、もっと運動をしたほうが良い」と私の感覚がおかしいのではないかと言われました。全部で病院は5箇所巡り、どこの病院でも、痛みとめまいと頭痛の原因を探すための血液検査、頭部と上半身のレントゲンとCT検査を受けました。
編集部
それでも診断がつかなかったのですね。
大谷さん
はい。そこで自分でもいろいろ調べてみた中で、私の病気は線維筋痛症なのではないかと思い、医師にも尋ねましたが聞き入れてもらえませんでした。そこから自分で線維筋痛症専門医がいる病院を探し、転院したいと申し出て、やっと紹介状を書いてもらいました。
編集部
その専門医の病院で、線維筋痛症と診断されたのですか?
大谷さん
はい。そこの病院では痛みのチェック(疼痛指数、重症度指数)や、骨密度検査などを新たに実施してもらい、スムーズに診断がつきました。
編集部
その時、どのような心境でしたか?
大谷さん
5年かけてやっと病名が診断されたこともあって、涙が出てきました。やっと痛みを理解してくれる医師に出逢えたと。頑張って生きていて良かったと思いました。
編集部
家族や周囲の反応はどうでしたか?
大谷さん
診断を受けるまで、なかなか病気だという理解が得られませんでしたね。激しい痛みのほかにもひどい倦怠感、頭痛やめまいがあり、動けなくても「怠けてる、ダラダラしている」と言われました。でも、病名が診断されてからは、「そんな病気があるなんて知らなかった」と、身内や親しい友人は理解してくれました。
治療は痛みとストレスをコントロールすることから
編集部
そこまでとても大変でしたね。治療はどのように進めると説明されましたか?
大谷さん
まずは痛みとストレスのコントロールとのことでした。痛みについては「どの薬が効くかは個人により全く違うため、しばらくは手探りになるけど、一緒に頑張りましょう」と。また、この病気は頑張り屋さんに多いそうで、そこからは何事も頑張りすぎるのはやめ、きつい日は1日寝る、自分を甘やかすことも大切、運動は無理にしない。それよりも睡眠をしっかり取って、脳を休ませることを大切にする生活スタイルに切り替えました。
編集部
治療にはどのような薬を使いましたか?
大谷さん
過去に色々使ってきたのでどこまで書いたらいいか分かりません。副作用も様々で、吐き気、嘔吐、便秘、浮腫、めまい、ムーンフェイスなどがありました。
編集部
病気の情報収集はどのようにされましたか?
大谷さん
主にネットでの検索やSNSなどで情報収集しました。どのような治療が痛みを緩和してくれるのか、そして完治された方がいるのかについては体験談など情報がほとんどないため、困りました。
編集部
医師や看護師など、医療関係者からの説明は十分でしたか?
大谷さん
はい。現在の病院ではできる限り痛みに寄り添った治療をしてくださいます。新しい薬を使う時も、効果と副作用をしっかり説明があり、私が納得してから処方してくださいます。それ以前の病院は説明も何もなかったので、病院や医師によってこんなにも違うのかと実感しました。
編集部
医療関係者に望むこと、伝えたいことはありますか?
大谷さん
線維筋痛症についてはまず、診断できる医師が少ないのが現実だと思います。線維筋痛症であること、そして痛みを訴えていることが嘘ではないと信じてほしいです。痛みがとても強いものなのだと、少しだけでも理解し、寄り添ってほしいです。
編集部
治療中の心の支えとなったものは、何でしたか?
大谷さん
息子の存在と応援してくれる友達の存在です。また、大好きなアーティストの曲を聞くことも心の支えになります。
編集部
現在の普段の生活の様子はどのような感じですか?
大谷さん
まだまだ痛みは強いですし、副作用も薬が強くなればそれに伴い強くなります。気圧の変化、天候や湿度などでも痛みは左右されますし、医療費もかなりかかります。また、仕事も思うようにできないことにもどかしさを感じることもあります。家事は体調の良いときにまとめてしています。息子の理解が心強いです。
編集部
痛みでお仕事にも影響しますよね。
大谷さん
強い痛みのために、仕事量をコントロールすることもよくあります。この病気と共存していくことは、周囲の理解と社会の理解がなければ成り立たないと思います。少し動くと疲労感が倍になって伴うため、かなりスローペースで日々を過ごしています。
理解してくれない医師の言葉に傷ついた
編集部
もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?
大谷さん
発症したばかりの頃はあまりの激痛に耐えきれず、「死にたい」とも考えました。病院へ行っても「痛みに執着しすぎている」「もっと筋トレしなさい」「そんなに痛いはずがない」と、批判的な言葉しかなかったです。そんな状態が続いた5年間は、つらく苦しかったですね。今は理解してくれる方もたくさんいますし、自らが病気のことやヘルプマークについて発信する立場になっています。「負けないで前を向いてください。努力は少しづつ報われています」と伝えたいですね。
編集部
あなたの病気を知らない方へ、一言お願いします。
大谷さん
線維筋痛症は「見た目は普通、しかし実は大変な激痛と闘っている」、そんな病気です。もし、友達や知り合いが、痛みや倦怠感で動けなくても、怠けている、サボっている、やる気がない、そのように思わないであげてください。各々のペースで一生懸命に毎日を送っています。みなさんが想像できない痛みを伴いながら。そして、医師でも診断が困難な病気です。どうか1日も早く線維筋痛症を診断のできる医師が増えることを望みます。難病指定となり、治療が受けやすくなってほしいですね。
編集部
ほかにも伝えたいことなどがありましたら、聞かせてください。
大谷さん
ヘルプマークの存在を多くの方に知って頂きたいです。外見から分からなくても援助や配慮を必要としていることを知らせるマークです。カバンなどにヘルプマークを付けている方が困っているようでしたら、『何か出来ることはありますか?』とお声がけいただけるととても有難く思います。
編集部まとめ
激痛が続くと、メンタルに多大な影響を及ぼします。今回の大谷さんも5年間もの間なかなか診断がつかないどころか、ドクターハラスメントのような言葉に傷ついてきました。やはり、職業・立場に関わらず、同じ人間同士のミスマッチは起こり得るもの。大谷さんのように、視野を広げ別の病院、医師を訪ねてみることの大切さを改めて感じさせられました。