赤ちゃんや子どもの予防接種(ワクチン)、基礎知識と知っておきたい注意点を医師が解説
赤ちゃんや子どもに対しておこなう「予防接種」。しかし、ワクチンの種類はとても多く、回数や間隔も定められているため、混乱する人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、予防接種の基礎知識について「グローバルヘルスケアクリニック」の水野先生に教えていただきました。
監修医師:
水野 泰孝(グローバルヘルスケアクリニック 院長)
東京慈恵会医科大学大学院(小児科学)修了。タイ王国マヒドン大学熱帯医学部留学、在ベトナム日本大使館医務官、国立国際医療研究センター厚生労働技官、東京医科大学准教授・同大学病院大学病院感染症科診療科長などを歴任し、2019年より現職。日本感染症学会認定専門医・日本小児科学会認定専門医・日本アレルギー学会認定専門医。専門は熱帯医学・渡航医学・予防接種。
赤ちゃんや子どもが接種するワクチンの種類・回数・間隔などの基礎知識
編集部
赤ちゃんや子どもに対する小児予防接種は、必ず受けなければならないのですか?
水野先生
いいえ。ただし、予防接種には「定期接種」と「任意接種」があります。定期接種は法律に基づいて市区町村が実施するもので、任意接種は希望者が受けるものです。定期接種は努力義務とされており、接種が推奨されているものの、最終的には本人に判断が任されています。一方、任意接種は文字通り、受けたい人のみが接種するもので、一例を挙げるとインフルエンザやおたふくかぜなどが含まれています。
編集部
定期接種のワクチンには、どのような種類があるのですか?
水野先生
赤ちゃんや小児の年齢によって、対象となるワクチンの種類は異なります。0歳から打つものには「ヒブワクチン」「小児用肺炎球菌ワクチン」「B型肝炎ワクチン」「BCGワクチン」「4種混合ワクチン」「ロタウイルスワクチン」の6種類があります。
編集部
生後何カ月からワクチンを打てるのですか?
水野先生
最も早く打てるワクチンは、生後2カ月からです。なお、打つ順番や間隔などはそれぞれのワクチンで決まっているため、かかりつけの医師に相談しましょう。
編集部
打つ順番や間隔が決まっているのですね。
水野先生
はい。赤ちゃんはお腹の中にいるとき、母体から様々な免疫を受け継いでいますが、出生後はその免疫力が次第に低下していきます。そのため、その時期にワクチンが必要になるのです。
編集部
必ず母体から免疫を受け継ぐのですか?
水野先生
いいえ。例えば、百日咳は母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が十分でなく、乳児期早期から罹患(りかん)する可能性があるため、百日咳を含む4種混合ワクチン(ジフテリア+百日咳+破傷風+ポリオ)を接種することで感染を予防します。ただし、生後3カ月に満たない赤ちゃんが大人から百日咳をうつされてしまうこともあります。大人の場合は軽症で済むことがほとんどですが、赤ちゃんの場合は重症化することもあり、なかには亡くなってしまう例もあります。そのため、赤ちゃんがまだ百日咳のワクチンを打てないうちは、周囲の大人が百日咳のワクチン(単独はないのでジフテリア+破傷風+百日咳混合ワクチン)を打つことをおすすめします。
編集部
なぜ、ワクチンを打つ間隔が決まっているのですか?
水野先生
ワクチンが効果を発揮するためには、適正な間隔が必要だからです。ワクチンには、細菌やウイルスの毒性を弱めたものを原材料として作る「生ワクチン」と、感染力を失わせた細菌やウイルスを原材料として作る「不活化ワクチン」の2種類があります。とくに生ワクチンの場合、あまり前倒しでワクチンを打つと免疫がつきにくくなってしまいます。そのため、定められた間隔を守ることが大切なのです。
子どものワクチン接種・予防接種の流れ
編集部
ワクチンの回数や種類が多くて混乱しそうです。どうしたら効率よく受けられますか?
水野先生
赤ちゃんのワクチン接種回数は、半年間で15回以上にのぼります。打ち忘れをしないように、まずはワクチンの接種スケジュールを立てましょう。接種の時期になると、自治体から予診票が送られてきます。そこに接種時期や間隔が書かれていますから、参考にしてみてください。また、母子手帳にはワクチンに関する情報が記載されていますし、住んでいる自治体のウェブサイトなどでも案内されています。
編集部
スケジュールを立てるのが大切なのですね。
水野先生
そうですね。個人的に、一番わかりやすいスケジュールの立て方は「1カ月間隔で接種する」方法です。多くのワクチンが1カ月おきと指定されているので、1カ月おきに小児科へ通えば、打ち忘れがありません。例えば、「毎月第1月曜日にワクチンを接種する」と決めておけば、通い忘れることもなくなるでしょう。
編集部
ワクチンを接種するときには、どうしたらいいのですか?
水野先生
自治体から予防接種の案内が届きますので、確認できたらかかりつけの小児科医に連絡をしてワクチン接種の予約をしましょう。多くの小児科は感染予防のため、通常の診察時間とは別にワクチン接種をおこなっています。
編集部
予防接種を受ける際の持ち物についても教えてください。
水野先生
自治体から送られてくる予診票、母子手帳、健康保険証を忘れないようにしましょう。なかには、乳幼児医療証が必要な医療機関もあります。また、長く待たされることもあるので、着替えやおむつ、ミルク、おもちゃ、絵本などがあると安心です。
編集部
予防接種の費用は?
水野先生
定期接種のワクチンは、原則的に無料です。一方、任意接種のワクチンは自費となります。
子どものワクチン接種・予防接種時の注意点は?
編集部
ワクチンを打ち忘れたら、どうすればいいのでしょうか?
水野先生
打ち忘れに気づいたら、早めに医師と相談しましょう。よく起こりがちなのが、複数回の接種が必要なワクチンで、前回の接種から日にちが空いてしまったケースです。ただ、その場合でも、きちんと規定の回数を打てば効果が期待できることもあるので、できるだけ早めに相談しましょう。
編集部
副反応のリスクはないのですか?
水野先生
たしかに、ときどき熱が出たり、腫れたり、しこりができたりすることもありますが、多くの場合は数日以内に解消されます。もし、気になる症状が出た場合は、予防接種を受けた医療機関に相談しましょう。とくに、乳児のワクチンで大きな問題が起きるのは稀なので、安心して受けてほしいと思います。
編集部
複数のワクチンを同時接種することもできるのですか?
水野先生
ワクチンの種類によっては可能です。2種類以上のワクチンを同時に受けても、基本的に効果は変わらないとされており、受け忘れの予防や通院回数の軽減などのメリットがあります。ぜひ「毎月1回ワクチンの日」と定めて、その日に受けられるワクチンを同時に接種することを推奨します。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
水野先生
ワクチンに関しては様々な意見がありますが、「ワクチンを打つことによって重度の病気から守られた子どもは非常に多い」という事実は、見逃すことができません。例えば、かつてヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンは定期接種として定められていなかったので、これらが原因となって細菌性髄膜炎を発症して、亡くなったり後遺症に苦しめられたりする子どもが大勢いました。しかし、これらが定期接種に定められたことにより、細菌性髄膜炎にかかる子どもの数は激減しました。多くの子どもが命を守られています。新型コロナウイルスの影響もあり、感染を恐れて受診を控え、ワクチン接種に消極的な人もいますが、ワクチンは感染症を簡便に予防できるツールです。加えて、定期接種は無料で受けることができます。ぜひ、積極的にワクチン接種を考えてほしいと思います。
編集部まとめ
ワクチンについては一人ひとり異なる意見を持っているでしょうし、新型コロナウイルスの影響によってその個人差がますます拡大しています。しかし、ワクチンは命を守る手段であることは間違いありません。とくに子どもの場合、将来にも影響を及ぼすような重篤な病気を避けることができるため、定められた間隔を守ってきちんと接種するようにしましょう。
医院情報
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アクセス | 東京メトロ有楽町線「麹町駅」 徒歩1分 東京メトロ半蔵門線「半蔵門駅」 徒歩5分 JR「市ヶ谷駅」 徒歩10分 |
診療科目 | 内科、感染症内科、小児科、アレルギー科 |