「子どもに抗生物質を飲ませない方がいい」この説の真相を明らかに
「子どもに抗生物質を飲ませない方がいい」という話が一部であるようです。実際、小児科医のなかには本当に必要なとき以外は、できるだけ抗生物質は処方しないという医師もいます。一体なぜ、子どもに抗生物質を飲ませない方がいいのでしょうか。「グローバルヘルスケアクリニック」の水野先生に教えていただきました。
監修医師:
水野 泰孝(グローバルヘルスケアクリニック 院長)
東京慈恵会医科大学大学院(小児科学)修了。タイ王国マヒドン大学熱帯医学部留学、在ベトナム日本大使館医務官、国立国際医療研究センター厚生労働技官、東京医科大学准教授・同大学病院大学病院感染症科診療科長などを歴任し、2019年より現職。日本感染症学会認定専門医・日本小児科学会認定専門医・日本アレルギー学会認定専門医。専門は熱帯医学・渡航医学・予防接種。
子どもに抗生物質を飲ませない方がいい?
編集部
よく、「子どもに抗生物質を飲ませるのはよくない」という話を聞きます。これは本当ですか?
水野先生
医師によって色々な考えがありますが、「子どもに抗生物質を飲ませるのはよくない」と考える医師は少なくありません。なぜなら、抗生物質は体内で働く良い細菌も殺してしまうからです。本来、人間の喉や皮膚、腸内などには、無数の細菌が住んでいて活動をしています。いわば、人間は細菌と共存しているのです。しかし、抗生物質はこれらの細菌も死滅させてしまいます。
編集部
体に良い細菌が死滅すると、どうなるのですか?
水野先生
腸内細菌を例にしてみます。腸内には体にとって良い働きをする「善玉菌」と、病気の原因となる「悪玉菌」が存在しますが、抗生物質を飲むと悪玉菌だけでなく善玉菌までやっつけてしまうのです。善玉菌には消化吸収を助けたり、免疫力を高めたりする働きがあるので、抗生物質を多用すると免疫力を低下させてしまうことがあります。また、「抗生物質を飲むと下痢をする」という人がいますが、これも、抗生物質によって善玉菌が死滅してしまうことが原因です。
編集部
それでは、できるだけ抗生物質を飲まないようにした方がいいのですか?
水野先生
いいえ、必ずしもそうとはいえません。抗生物質は正しく使用すれば、非常に大きな効果が期待できる薬です。例えば、中耳炎や肺炎を発症して、確実に細菌が原因とわかっている場合、抗生物質を服用しなければ症状が悪化してしまい、根治まで時間がかかってしまうこともあります。抗生物質を使用するうえで大切なのは、正確な診断と適切な処方です。自分で抗生物質が有効なケースか見極めるのは難しいので、症状が出たら医師の診断を受けることをおすすめします。
編集部
先ほど「抗生物質を服用すると免疫力が低下する」という話がありましたが、なぜでしょうか?
水野先生
抗生物質を繰り返し服用することで、体内で抗生物質が効きにくい菌ができてしまうからです。一般に、特定の種類の抗生物質が効きにくくなる、または効かなくなることを、「薬剤耐性」と言い、そのようになった菌のことを「薬剤耐性菌」と言います。薬剤耐性菌が体内に増えると、抗生物質を服用しても効果が出なくなってしまうのです。
編集部
結局のところ、どうするのがいいのでしょうか?
水野先生
子どもがかかる感染症は、ほとんどがウイルスによるものです。大人と比べて、細菌によって発症する病気はそれほど多くありません。つまり、子どもが抗生物質を飲むべき機会はほとんどないのです。そのため、むやみやたらと子どもに抗生物質を飲ませるのは控えた方がいいと考えます。
抗生物質の役割とは?
編集部
抗生物質について、詳しく教えてください。
水野先生
抗生物質とは、細菌の増殖を抑制したり、細菌を殺したりして感染症を治療する薬です。一般には抗生物質という名前で知られていますが、医学的には「抗菌薬」と呼ばれます。
編集部
抗生物質はどんなときに使われるのですか?
水野先生
感染症を引き起こす原因には、細菌やウイルス、真菌、寄生虫などがありますが、抗生物質が有効なのは細菌による感染症です。とくに喉や鼻、気管支の感染症に抗生物質が用いられます。
編集部
具体的に、抗生物質はどのような病気に有効なのでしょうか?
水野先生
一例として、抗生物質がよく処方されるケースに、溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染症や、マイコプラズマなどの肺炎があります。また、副鼻腔に炎症が起こる副鼻腔炎にもよく抗生物質が処方されます。ただし、これらの病気が発症するのは、細菌が原因ではないこともあるため、必ずしも全例に有効というわけではありません。
編集部
抗生物質は、細菌による感染症しか効果がないということは、例えばインフルエンザやかぜには効果がないということですか?
水野先生
たしかに、インフルエンザやかぜは細菌が原因ではなく、ウイルスが原因であることが多いため、一般的には抗生物質を使用してもほとんど抗菌の効果はないとされています。とくに、インフルエンザはウイルスが原因なので、抗生物質はほとんど効果を発揮しません。しかし、ウイルスが原因であることがほとんどのかぜでも、細菌感染が原因で発症することもあります。また、かぜをこじらせた場合、細菌による二次感染を起こすことも考えられるのです。その場合は、適切に抗生物質を使用すれば、抗菌の効果を期待することができます。
抗生物質との上手な付き合い方
編集部
抗生物質を上手に活用するには、どうしたらいいのでしょうか?
水野先生
まずは、「ウイルスなど細菌以外が原因となっている病気には抗生物質を飲まない」ことが大切です。一昔前と違って、最近は「必要なとき以外、子どもには抗生物質を処方しない」と考える医師も増えてきました。しかしその一方で、保護者が抗生物質に対しての知識をあまり持っておらず、かぜと診断されたら「抗生物質を出してほしい」と医師に頼むケースもあります。単なるかぜであれば、抗生物質を飲むことではなく、十分な睡眠時間を確保し、栄養や水分をしっかり摂ることの方が重要です。それでも高熱が下がらないなどの状態が続くようであれば、医師に相談しましょう。
編集部
「細菌が原因で抗生物質が効く」と判断された場合、どのように服用したらいいでしょうか?
水野先生
医師の指示に従って、必ず最後まで飲み切ることが大切です。「もう症状が改善された」からといって、自己判断で飲むのを中断しまうと、細菌を完全に死滅させることができませんし、かえって細菌の薬剤耐性を強めてしまうことがあります。
編集部
抗生物質の副作用はありますか?
水野先生
下痢などの症状がみられたり、皮膚に赤みやブツブツができたり、アレルギー反応を起こすこともあります。子どもの場合、そうした症状が見られることもあるのですが、抗生物質を飲み終えると症状がおさまっていきます。しかし、念のため、抗生物質による異変が見られたら、早めに医師へ相談しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
水野先生
たしかに、抗生物質は強力な効き目を持つ薬ですが、その反面、使い方を間違えると健康を損なうリスクもあります。けっして抗生物質は万能薬というわけではなく、効き目を発揮するのは細菌による感染症のみということを理解しておきましょう。とくに、子どもへ抗生物質をすぐに与えるのは好ましくないので、正確な診断のもとで適正な使用を心がけてください。
編集部まとめ
抗生物質の処方については、医師によって考え方の違いがあるそうですが、患者側も正しい知識を持ち、抗生物質の特性を理解しておくことが重要とのことでした。とくに、子どもが病気にかかったときは親の判断が重要となってきます。いざというときに適切な行動ができるよう、正しい知識を身につけておきましょう。
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