【闘病】「コンタクトの傷?」 見え辛さは難病が原因だった《多発性硬化症》(1/2ページ)

もしも突然「難病」と診断されたら、あなたはどうしますか? インタビューに答えてくれたえみ(仮名)さんは、難病に指定されている多発性硬化症を発症しました。完治することのない難病についてと「共に生きていく」と決心したその経緯などについて話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。

体験者プロフィール:
えみさん(仮称)
1983年生まれ。夫と子どもの3人暮らし。職業はソーシャルワーカー。2009年原因不明のめまいを発症し、その後2019年に脳に病変が見つかり、多発性硬化症と診断される。入院し治療を開始するが薬の副作用で肝機能障害も併発し、一時は肝移植を検討するほどであった。現在は多発性硬化症の症状と向き合いながらも、仕事・家事・リハビリ・折り紙ボランティア活動などに取り組んでいる。

記事監修医師:
出口 誠(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
病名がわかってホッとした

編集部
さっそくですが、多発性硬化症とはどのような病気なのでしょうか?
えみさん
多発性硬化症は脳や脊髄、視神経のあちこちに病変ができ、さまざまな症状が現れる難病です。本来は自分の身体を守る働きをする免疫細胞が暴走し、神経を攻撃することが原因なのだそうです。なぜ免疫細胞が神経を傷つけてしまうのか、はっきりとした理由はわかっていません。症状はさまざまですが、視界がぼやける、しびれ感、手足の運動障害、思考や感情にまで影響を及ぼします。
編集部
病院を受診したきっかけを教えてください。
えみさん
今から10年以上前にめまいの症状が出て、耳鼻科を受診したのですが、結局原因は分からず、心療内科でもらった薬を飲んでしのいでいました。それが最近になって、左目が中心から見えなくなってきたので、地元の眼科を受診しました。「コンタクトレンズで傷ついちゃったのかな?」と軽く考えていたのですが、眼科のお医者さんから大学病院の受診を勧められました。
編集部
大学病院ではどのような検査をしましたか?
えみさん
最初は神経眼科を受診し、視神経炎と言われました。原因を調べるためMRIを撮ったところ、脳に病変があることがわかり、神経内科へ転科しました。その後、視野検査、髄液検査、誘発電位検査などの精密検査を受けて、やっと多発性硬化症と診断されました。
編集部
多発性硬化症と診断された時の気持ちは?
えみさん
ショックというよりは、病名がきちんと分かってホッとしました。「これで治療がスタートできる!」という想いが強かったです。医学書を読めば読むほど、自分の症状と当てはまっていてびっくりしました。左目が見えなくなったことはもちろん切なかったけど、「もっと敵(病気)を知らないと」という前向きな気持ちでした。逆に、夫と当時小学校2年生だった子どもの方がショックを受けていましたね。
編集部
医師からは、多発性硬化症についてどのような説明を受けたのですか?
えみさん
多発性硬化症は難病なので、完治することはなく、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気。だけど、海外では研究が進んでいて再発予防薬も開発されているから、そんなに悲観的にならなくても良いと言われました。
「病は気から」と前向きに向き合う

編集部
治療中に辛かったことはありますか?
えみさん
コパキソンというお薬を自分で毎日注射しないといけなくて、その注射の後ズキズキと痛むのが辛かったです。毎日の注射なので、注射器も結構なスピードで溜まってしまって、それがいっぱいになったら病院に行くのですが、その帰りにちょっと高級なスイーツを買って、頑張って治療している自分のご褒美にしていました。
編集部
自分でモチベーションをあげるのは大切ですね。
えみさん
はい、本当に。実は治療中に肝障害が起きて、一時はあと少し肝臓のデータが悪くなれば、意識がなくなってしまう状態にまで悪化したのです。肝臓や脾臓が腫れて食事が取れなくて辛かったのですが、「退院したらあれもこれも食べたい!」と考えていました。結局、ステロイドの治療が効いたこともあり、危険な状態は免れましたが、「病は気から」と、前向きな姿勢がよかったのかもしれません。
編集部
現在の体調や生活はいかがですか?
えみさん
多発性硬化症は、さまざまな症状があります。私の場合は、歩くのが不安定になりました。転んだり、平らな地面でもつまずいたりすることが増えたので、外出する時は杖を使っています。左目の霞んだ感じもまだありますね。あと、すぐに疲れてしまうので、仕事から帰ってきたら一旦休憩してから家事をしています。最近は夫や子どもが家事を手伝ってくれるので、すごく助かっています。実は最近、脳に新たな病変が見つかり、入院してステロイド治療を受けていました。その後新薬であるケシンプタという薬を使ってみる予定です。
編集部
お仕事を続けられているのですね。
えみさん
はい。無理しないように時短にしています。同時に2つ以上のことをするマルチタスクが苦手になりました。これも脳に病変ができる多発性硬化症の症状のひとつなのです。日々脳トレをしてリハビリをしています。
編集部
脳に病変ができたことの影響はありますか?
えみさん
その影響で手先がうまく動かなくなりました。お皿をたくさん割ってしまったり、お箸が持ちにくくなったりしています。ですから、お皿はプラスチックの物に変え、スプーンやフォークを使って食事するようになりました。小銭の出し入れも時間がかかるので、電子マネー決済などを積極的に取り入れて、少しでも快適に毎日を送れるように工夫しています。難しいこともあるけれど、「これなら出来る」という方法を探して、試行錯誤しています。またリハビリのために簡単な手芸や「消しゴムはんこ」作り、折り紙ボランティアの活動もしています。