【体験談】「また私ががんに?」 30年越しの腎細胞がんとオプジーボによる治療
闘病者の林さんは幼いころに小児がんを発症し、がんは完治したものの、車イス生活となった。やがて、大人になり、今度は腎細胞がんを発症。発症初期には、背中や腰の痛み、血尿、食欲不振、吐き気、腹部のしこりなどがあったといいます。そんな腎細胞がんと闘う林さんに、これまでと現在についての話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
林 美穂
大阪府在住。1988年生まれ。未婚、実家暮らし。職業は会社員兼車イスダンサー。生後5ヶ月の時に小児がん(神経芽腫)が発覚し、摘出手術を行う。抗がん剤治療を経てがんは完治した。しかし脊髄に腫瘍があったため足に障害が残り、幼少期から車イスで生活をしている。その後、障害を持ちながらも30数年間をすごすも、2020年5月、腎細胞がん(リンパ節転移)が見つかり摘出手術を受ける。経過観測となるも2021年4月に再発と骨への転移が見つかる。手術、放射線治療の実施は難しく、現在は免疫チェックポイント阻害剤オプジーボ治療を続けている。
記事監修医師:
石川 智啓
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
30年の時を経て再びがんを発症
編集部
一昨年、腎細胞がんだと判明した経緯を教えてください。
林さん
就寝時、急に左の腰辺りに痛みを感じたのがきっかけでした。「ただの腰痛とはなにか違うな」と思いながらも、激しい痛みではなかったので痛み止めを飲んでその日は寝ました。翌朝、痛みはなくなっていましたが、真っ赤な血尿が出たのですぐに病院へ行きました。しかし原因は分からず、念のためにCT検査を受けたところ、腎臓の下に大きな腫瘍が見つかったのです。女性ということや、年齢的に見て「悪性の可能性は低い」と言われました。しかしその後、紹介された大学病院では「大きさ的に悪性だと思う」と言われました。結局、検査で腎細胞がんであること、リンパ節にも転移していることがわかりました。
編集部
腎細胞がんと判明したときの心境を聞かせてください。
林さん
私はがん経験者ではありますが、まさかまたがんになるとは全く思っていなかったので「また私!?」と、ただただ驚きました。「まさか私が」という言葉をよく聞きますが、本当にその気持ちでいっぱいでした。でも摘出手術をするしかなかったので「とにかく早く取り除けるだけ取り除いてほしい」と強く思いましたね。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
林さん
最初は、腫瘍が大きいため取り除くしかなく、手術してみないとどのくらい取り除けるかわからないこと、そして治療がどれくらい必要かも、全て手術次第という説明がありました。その後、手術を受けましたが、残念ながら腎細胞がんが再発してしまいました。そこからは手術、放射線治療が場所的に難しいということで、「抗がん剤治療を行って、効果がある限りはしばらく続けることになる」と説明されました。
編集部
抗がん剤の副作用などはありましたか?
林さん
現在、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボを投薬中ですが、最初の4クールはオプジーボと並行してヤーボイという薬を投薬しました。1回目の投薬後は全身に湿疹ができ、2回目の投薬後は肝機能障害が起きましたね。その後2クール休薬した後、オプジーボだけになったのですが、そこからは特にこれといった副作用はありません。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
林さん
母や友人の存在に支えられましたね。入院していたときはコロナ禍で面会が一切できなかったため、すごく心細かったです。術後はなかなか起き上がれず、人との繋がりがSNSや LINEしかなかったので辛かったです。母は私のやり方を尊重し、ずっと支えてくれています。笑うことはすごく体にいいとよく聞きますが、どんな時でも何気なく笑い合える、笑わせてくれる友人達がいます。それが私の支えです。
腎細胞がんになったあとの生活
編集部
腎細胞がんの発症後、生活にどのような変化がありましたか?
林さん
手術後は腎臓が1つになったため、食事に少し変化がありました。塩分には気をつけるようにしているのと、水分も出来るだけ多く取るように心がけています。
編集部
症状の改善、悪化を予防するために気をつけていることはありますか?
林さん
がんの場合、生活面で何をしたら良くなる、悪くなる、ということはあまり関係ないと私は思っています。でも、できる限り規則正しい生活をし、バランスのとれた食生活をするよう気をつけています。あまり色々と過剰に気にするとストレスになり、それも良くないと言われるので、その辺のバランスが難しいですね。
編集部
現在の体調や生活の様子について教えてください。
林さん
現在はオプジーボの効果により、痛みも副作用もなく、落ち着いた生活を送れています。念のため、まだ休職中ですが「もう少ししたら復職しようかな」と思えるくらいになりました。
小さな異変を見逃してはいけない
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
林さん
「がんを一度克服したからといって油断しないで」と言いたいです。他の病気にかかることはあってもがんだけはないだろうと思い込んでいたので。
編集部
林さんの病気を意識していない人に一言お願いします。
林さん
がんは女性の場合、3人に1人はなると言われていますが「なるのは年老いてからだろう」と思っている方がほとんどだと思います。腎細胞がんになりやすい人の傾向は男性、喫煙する方、肥満気味の方、というデータもあります。しかし、私はどれにも当てはまらないのに、発症しました。だからネットで調べて「私は違うだろう」と解釈するのは危険だと思います。どんなに小さな異変でもすぐに病院に行ってほしいです。あとは「健康診断を受けてください」と言いたいです。まあ、私は会社の健康診断を受けていたけど見つけられなかったので、説得力がないかもしれませんが「自分は大丈夫」という思い込みはやめてほしいです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
林さん
忙しい業務の中で一人の患者さんに時間をかけることは、もしかすると難しいのかもしれませんが 「もう少し寄り添ってくれる医師や看護師さんに出会いたかったな」と正直思っています。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
林さん
「明日は我が身」という言葉のとおり、いつ何が起こるかわかりません。特にがんは初期症状がない場合が多いため、最低限健康診断を受けてほしいです。また規則正しい生活を心がけ、異変があればすぐに病院に行くこと。そして1日1日を大切に生きていきましょう。
編集部まとめ
たしかに病気には「このような性別、生活スタイル、年齢の方に発症しやすい」という疾患特有の傾向があります。しかし林さんが語るとおり「その傾向には当てはまっていないから自分は大丈夫」という考えは非常に危険です。身体に異変を感じるということは、身体がSOSを出しているサイン。すぐに病院を受診するようにしましょう。早期発見がその後の人生を大きく左右することになりますので。