下肢の血流が滞る「下肢静脈瘤」には2つの種類が! それぞれの特徴や治療法を医師が解説
下肢の静脈に逆流が起こる「下肢静脈瘤」。「瘤(こぶ)」という字からすると、相当な“うっ血状態”を思い浮かべてしまいますが、見た目以外には特段の不具合がない症例もあるとのことです。今回は、両タイプの見極め方と各治療方法の違いについて、「さいたま静脈瘤クリニック」の橋本先生を取材しました。
監修医師:
橋本 千尋(さいたま静脈瘤クリニック)
下肢静脈瘤とは?
編集部
一般に、立ち仕事の多い人は「下肢静脈瘤」になりやすいと聞きます。
橋本先生
はい。立ち仕事のなかでも立ちながら動き回る人よりも、立ちっぱなしの人が下肢静脈瘤になりやすい傾向にあります。足を動かすことにより足のふくらはぎの筋肉が「第2の心臓」の代わりになって、血液を心臓に押し戻しているからです。
編集部
問題は、第2の心臓が動かない「立ちっぱなし」の姿勢なのですね?
橋本先生
そうですね。患者さんで多いのは、板前さんや理美容師さんといった職業の人です。ほか、デスクワークで「座りっぱなし」で足の筋肉を動かしていない人もいらっしゃいます。総じて、心臓から足へ送られた血液がうまく戻ってこない人に顕著な症状です。
編集部
血液が戻れないから、行き場を失ってコブになってしまうのですか?
橋本先生
下肢静脈瘤発祥のメカニズムは、明らかになっていません。しかし、一般的なイメージとしては、そういう理解で構わないと思います。ただし、「コブが目立たないタイプ」の静脈瘤もあります。また、コブにもならず、足にも負担をかけてこないタイプの静脈瘤もあります。このタイプは、細かな血管が赤や紫色の網目のような模様となって現れます。「網の目・クモの巣静脈瘤」と呼ばれています。
編集部
しかし、足全体が膨らんだり、皮膚潰瘍を起こしたりすると聞きます。
橋本先生
それは、「コブになるタイプ」が重篤化した場合の話です。他方、「コブにならないタイプ」は、網目状やクモの巣状の見た目が広がったとしても、むくみなどの身体症状は現れません。後者の場合は、ご本人が気にされないなら、無理して治療する必要もありません。
生活の質を下げている場合の治療方法
編集部
続けて治療方法も教えてください。まずは「コブになるタイプ」からお願いします。
橋本先生
その前に、「コブになるタイプ」を「身体症状が伴うタイプ」に言い換えましょう。まだコブが目立たない段階からむくみなどを自覚しているパターンや、コブが目立たない人も含まれるからです。足の血流の状態は、エコー検査で容易に調べることができます。血流の逆流があり、その結果として血管径が拡大していたら、コブの有無にかかわらず、下肢静脈瘤と診断されます。ただし、どの血管で起きているかによって、その後の治療方法は変わってきます。
編集部
足の静脈の種類を問うわけですね?
橋本先生
はい。「身体症状が伴うタイプ」の治療では、逆流が生じている静脈をふさぎます。このとき、例えるなら「国道クラス」、つまり足の深部を流れる太い静脈は「ふさいではならない」ことになっています。国道を通行止めにしたら、とんでもないことが起こりますよね。よって、「深部静脈」が逆流を起こしている場合は外科的処置をせず、「医療用弾性ストッキング」の着用などで対処していきます。なお、「医療用弾性ストッキング」は処方ではなく販売という位置づけなので実費負担となり、価格は5000円程度になります。ただし、膝下タイプやパンストタイプなど長さにより、費用は多少異なります。
編集部
他方の「脇道クラス」であれば、封鎖しても構わないわけですか?
橋本先生
はい。血液にほかの逃げ道がありますから、通行止めにできます。保険適用のある治療方法としては、カテーテルを血管内に通して熱で固める方法や「医療用接着剤」で封鎖してしまう方法などがあります。保険適用ですから、同じ手術内容・同じ箇所数なら、クリニックによる価格差はあまりありません。
編集部
封鎖する場合、日帰り手術が可能なのですよね?
橋本先生
可能です。ただし、「身体症状が伴うタイプ」だとしても、命に直接関わる病気ではないですから、「ただちに手術」ということでもないでしょう。検査と診断だけはしておいて、「医療用弾性ストッキング」で様子見でも構いません。職場などの環境が変われば、それだけで症状が落ち着くかもしれませんので、ケース・バイ・ケースです。
見た目だけを問う場合の治療方法
編集部
今度は「身体症状の伴わないタイプ」の治療方法です。
橋本先生
保険適用があるのは、注射で「血管を固める薬」を投与する治療方法です。自費も含めるとしたら、YAGレーザー熱で毛細血管を破壊する方法もあります。身体症状の伴わないタイプの下肢静脈瘤は見た目の問題なので、保険、つまり公費負担に疑問を感じるドクターもいらっしゃるようです。「身体症状の伴わないタイプ」の治療を扱っていない医療機関もあります。
編集部
固めるにしても焼かれるにしても、治療後の血管はどうなるのですか?
橋本先生
血管として機能していないので、いずれ体に吸収されていきます。「血管を固める薬」を使う方法だと、綺麗に消えるまで1~2年くらいかかることが多いですね。また、注射後の色素沈着を起こす可能性が高いです。他方のYAGレーザー術では、消えるまでの期間も数カ月と短いですし、色素沈着が起きにくいです。ただし、1回のレーザー照射では、なかなか血管が消えません。3~4回の施術が標準的です。
編集部
念のため、自分で治す方法があれば知りたいです。
橋本先生
ご自身では難しいかもしれません。網の目・クモの巣状は、加齢によって皮膚が薄くなり、張りが落ちてくることとも関係しています。ですから、医療用弾性ストッキングやマッサージでは、完全に治らないでしょう。むしろ、年齢と共に増えてくることすらあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
橋本先生
当院では、自費のYAGレーザーを、保険の硬化療法での自己負担分と遜色ない費用体系でご提供しています。患部の様子を診ながら最小限のレーザー照射で対応しているため、どうしても複数回に分かれます。しかし、色素沈着のリスクを考えると、「身体症状の伴わないタイプ」の下肢静脈瘤に限られますが、レーザー術に分がある印象です。詳しくは、医療機関へお問合わせください。治療にそのまま進むとは限らないので、診断と情報整理だけでもしておくのもよいかもしれません。
編集部まとめ
下肢静脈瘤には、「下肢の静脈血液が逆流してむくみなどを起こすタイプ」と「薄くなった皮膚によって静脈が見えてくるタイプ」があります。そして、むくみなどを伴わない後者の治療は、どちらかというと審美目的としてみなされることもあるようです。色素沈着のリスクを考えたら、割り切って「最初から自費のレーザー術で」という発想もアリでしょう。他方で、むくみといった「生活の質の低下」が起きているなら、その治療は保険適用になります。
医院情報
所在地 | 〒332-0017 埼玉県川口市栄町3丁目8-18 凮月栄町ビル2階 |
アクセス | JR「川口駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 循環器内科 |