「赤ちゃんの頭の形が歪んでいるかも…」そんなときに検討したいヘルメット治療とは
赤ちゃんの頭蓋変形が進むと、耳や目などの位置も変わってくるそうです。そして、1歳を過ぎると、頭蓋骨の形はおおむね決まってしまいます。したがって、「生後2~8カ月」の頭蓋変形に有効とされているのが、矯正用のヘルメットを利用した治療方法です。詳しい話を、「0歳からの頭のかたちクリニック」の田中先生に伺いました。
監修医師:
田中 一郎(0歳からの頭のかたちクリニック)
頭蓋骨が成長している間しか用いられない
編集部
赤ちゃんの頭は柔らかく、変形しやすいと聞きます。
田中先生
そのとおりです。骨そのものが柔らかいため、寝た時に寝具との間でかかる自身の頭の重さによる外圧で変形します。外圧を同じ方向から受け続けると、赤ちゃんの頭蓋骨の形は歪んできます。
編集部
寝る向きを変えるにしても、「うつぶせ寝はよくない」と教わりました。
田中先生
はい。窒息死の恐れがあるので、うつぶせ寝をさせないことは「周知の事実」となっていますよね。とはいえ、その反動で「あおむけ寝」ばかり続けていると、頭蓋骨がいわゆる「絶壁頭」になりかねません。向き癖などにより左右いずれかに偏った「斜め寝」が続くと、頭蓋顔面骨の構造自体が歪むため、耳、前額、頬部などの顔のパーツが歪んだり、それにより機能障害を起こしたりすることもあります。
編集部
注意していたはずなのに、赤ちゃんの頭蓋骨の歪みが生じてしまった場合は?
田中先生
今では、頭蓋骨の歪みを矯正するための「赤ちゃん用のヘルメット」があります。ヘルメットは外側の硬いヘルメットシェルと内側の柔らかいクッションの2層構造となっています。外側の硬いヘルメットシェルにより、寝た時にも頭蓋骨に直接に外圧がかからないようになります。そして、内側のクッションの位置や厚みを工夫することで、頭蓋骨のつぶれてしまった部分では本来の成長を促し、歪んで突出した部分では過剰な成長を抑制もできる仕組みです。例えば、クッション圧の少ない方向には、頭蓋骨が育ちやすいですよね。
編集部
ということは、「赤ちゃん用のヘルメット」をオーダーメイドでつくるのですか?
田中先生
はい。ヘルメットの製作は、赤ちゃんの症例や形によってオーダーメイドしていきます。外側のヘルメットシェルは頭蓋成長した半年後の大きさとしますが、内側のクッションは取り外しができます。クッションの厚みや柔らかさは、頭蓋成長や変形の改善と共に調整をおこない、通常は6カ月程度の治療期間です。
編集部
頭蓋骨の成長を前提にしているのですね。だとすると、治療の時期が問われそうです。
田中先生
ヘルメット治療の開始時期として有効なのは、一般に生後6カ月までとされています。個人差を考慮したとしても、最大で生後8カ月まででしょうか。もちろん、早ければ早いほど有効ですが、1歳を過ぎたら適応外となります。
治療の流れや費用体系は医療機関による
編集部
医師はヘルメット治療の必要性を、どのように見極めているのですか?
田中先生
まずは変形が外圧によるものか、病的なものかの鑑別をおこないます。そして外圧によるものと診断がつけば、次に重症か否か、つまり見た目の問題に限らず「機能障害や発達障害が起きそうなのか」で判断します。単なる見た目の範囲であれば、保護者とご相談のうえで進めます。また、頭蓋変形に至らないうちの予防的な治療の場合も同様です。ヘルメットをかぶっていれば、赤ちゃんは外圧から守られます。つまり、寝る向きの小まめな調整が不要になるということです。
編集部
重症はやむを得ないにしても、予防目的だと費用が気になります。
田中先生
国内のヘルメット治療は、大きく3タイプあります。そして、それぞれ進め方や費用体系が異なっています。全体の流れとしては、「3Dスキャン撮影と画像解析などによる診断・頭蓋骨の計測→ヘルメットの製作→ヘルメットの着用・経過観察」なのですが、医師がどこまで関わるかですよね。病的な変形との鑑別だけを医師がおこない、製作以降をすべてメーカーがおこなうタイプもあります。
編集部
先生が取り入れているのは、どのタイプでしょうか?
田中先生
診断から経過観察を含め、一貫して医師が介入するタイプです。そのために、10台のカメラで瞬時に撮影できる最新の3Dスキャン撮影機器や専用の画像解析システムなど、ヘルメット治療専用の機器もそろえています。また、日本人の赤ちゃんの体格や日本の気候などに配慮した、国内メーカーのヘルメットを導入しています。費用に関しては、ヘルメット治療自体は健康保険の適用外です。当院では、初診および治療開始後はヘルメット製作・再診を含めて一括の自費診療としています。
編集部
先生の医院以外では、異なった進め方や費用体系もあるということですよね?
田中先生
そうなります。同じメーカーのヘルメットで治療するにしても、診断だけ保険診療でおこなって、製作以降は自費にしている医療機関もあります。なお、メーカーに全て任せる場合は、自費や保険というより「実費負担」ですよね。医師が全く介在しません。
変形を“見極められる”医療機関は少ない
編集部
赤ちゃん用のヘルメットは、歪みの全症例に有効でしょうか?
田中先生
いいえ。外圧によらない「病的な歪み」に対して、“単独で”ヘルメットを用いることはありません。赤ちゃんの頭はもともと幾つかの部分に分かれており、成長と共にこれらがくっついていきますが、「病的な歪み」とは本来よりも早い時期に頭蓋骨の一部が固くくっついて正常に大きくなっていかない状態のことです。このような場合はまず、手術の適応を検討します。仮にヘルメットを用いるにしても、手術後の話です。
編集部
「病的な歪みかどうか」は、素人にわかりませんよね?
田中先生
その見極めは、医師でも難しいと思います。頭蓋変形が疑われたら、「気のせい」でも全く構いませんので、専門の医療機関を受診してください。先述したように、早ければ早いほど功を奏します。
編集部
一般に、赤ちゃんの頭蓋変形は「寝返りができるようになったら自然解決」と思われていませんか?
田中先生
そうかもしれませんが、大きな誤解です。赤ちゃんの外圧による頭蓋変形は、現状では医師が受ける医療教育プログラムに含まれていません。医療従事者の理解が少ないので、漠然と「自然解決するのではないか」と考えているだけです。実際、「自然解決する」という追跡調査などもわずかです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田中先生
赤ちゃんが寝返りをできる時期になると、頭蓋骨の形はほぼ固まってきます。この段階で治療をしたくても、できないことの方が多いのです。ですから、寝返りができる前に診察を受け、医療介入の要・不要を付けるべきです。理想的なのは、生後1カ月健診で受診した医療機関の全てで頭蓋変形が診られることでしょう。我々も「日本頭蓋健診治療研究会」を設立し、医療横断的な啓蒙に努めているところです。
編集部まとめ
一般に、生後6カ月くらいまでの頭蓋変形なら、ヘルメット治療で治すことが可能ということでした。田中先生が目指しているのは、専門の医院に限らず、新生児・乳児を扱う小児科や産科など多くの医療機関で、赤ちゃんの頭蓋変形に気づける環境とのこと。それだけ、早期発見が問われるということです。いまだ環境の整わない現状であれば、自主的に専門の医療機関へ出向き、赤ちゃんの頭の形を確認してもらいましょう。
医院情報
所在地 | 〒103-0027 東京都中央区日本橋2-2-2 マルヒロ日本橋ビル9F |
アクセス | JR「東京駅」 徒歩3分 東京メトロ「日本橋駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 小児形成外科、小児脳神経外科、小児科、小児外科 |