赤ちゃんの「向き癖」はどうすればいい? 生後3カ月までの寝かせ方が大切な理由とは
「赤ちゃんの寝る向きは小まめに変えた方がいい」という説がある一方、「寝返りを打てるようになれば自然に解決する」という説もあります。赤ちゃんの頭の形に対して、保護者はどう介入していくべきなのでしょうか。今回は「0歳からの頭のかたちクリニック」の田中先生を取材しました。
監修医師:
田中 一郎(0歳からの頭のかたちクリニック)
寝返りを打てない時期の「左右差」に注意
編集部
赤ちゃんが寝ているとき、頭を色々な方向へ変えた方がいいと聞きます。
田中先生
そうですね。赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかいので、同じ方向からの外圧を受け続けると、全体の形が歪んでいきます。他方で、外圧によらない“病的な頭蓋骨の歪み”も存在します。本当に外圧によるものなのか、隠れた病気によるものなのかは、慎重に診ていく必要があるでしょう。
編集部
頻度として多いのは寝方、つまり外圧によるものですよね?
田中先生
頭蓋変形の原因はほとんどが外圧によるものですが、さらに外圧の要因をみていくと、じつは寝方に限りません。また、難産では産道の通過時に圧迫を受けるかもしれません。そして、出産後の寝方も要因として考えられます。保護者が比較的コントロールしやすいのは、寝方になるでしょう。早産や未熟児の場合、より頭蓋骨が柔らかいので、外圧の影響を受けやすくなります。
編集部
仰向けが続くと絶壁頭になりそうですが、それ以外の歪みもあるのですか?
田中先生
もちろんです。横向き寝が続けば、前後方向に伸びた頭蓋骨になるでしょう。さらに怖いのは、「斜めの寝方」です。向き癖などによって左右いずれかの後方から圧迫を受け続けると、頭蓋骨・顔面骨全体の構造が歪んで、耳や前額、頬といった顔のパーツが“押される形”で歪んでしまいかねません。ただし、同じ斜め寝でも、左右均等なら不具合は起きにくいです。ところが、片方に偏ってしまうと、顔や額の左右不均等を生じさせてしまいます。
編集部
そうならないように、赤ちゃんの寝ている向きを小まめに変える必要があるのですね?
田中先生
ぜひ、そうしてください。とくに、自分では寝返りを打てない「生後3カ月までの間」は要注意です。この間に頭蓋変形が顕著になってしまうと、例えば「おまんじゅうの底」のように、頭蓋がつぶれて平坦になった位置でしか安定しなくなってきます。すると寝る向きを変えても、戻ってしまうのです。そして、頸部や背部にある筋肉の左右の発達バランスが崩れ、いずれは首や背部の傾きを生み、さらには傾きを是正しようとして肩や腰が歪むといった、身体にも悪影響を与える可能性があります。
稀に病的な変形も起こり得る
編集部
他方で、隠れた病気による変形もあるということでした。
田中先生
はい。胎児の頭蓋骨は、お母さんの産道から出てきやすくするために「折りたたみ可能」な状態になっています。つまり、頭蓋骨のパーツがいくつかに分かれていて、“ゆるやかにつながっている”わけです。
編集部
「病的」な頭蓋骨だと、どうなっているのでしょうか?
田中先生
頭蓋骨のパーツのいくつかが、しっかり癒着している症例が稀にあります。確率としては「1万人に数人」程度です。例えば、風船の一部をセロテープで固定して膨らませてみてください。仕組みとしては同様なことが、頭蓋骨の成長に起こり得ます。
編集部
「見た目」の範囲を超えた不具合が起きそうですね。
田中先生
頭蓋骨が癒着した部分は正常に大きくなっていかないので変形を生じ、癒着箇所が多いと脳圧を高めるリスクがあります。なぜなら、頭蓋骨全体の容量が小さくなるからです。全症例ではありませんが、脳の圧迫によって脳機能障害をも招きかねません。
編集部
病的な頭蓋骨の変形は、寝かせ方の工夫で解決できないのでしょうか?
田中先生
病的変形と外圧の影響は、全く別の話ですね。ですが、両者の鑑別は医師でも難しいのです。そこで、当院のような「赤ちゃんの頭蓋骨専門クリニック」や頭蓋変形の専門外来がいくつか存在しているので、お気軽にご相談ください。
寝る向きに限らず、普段からできること
編集部
なんだかタイマーでもセットして、30分ごとに赤ちゃんの頭の位置を変えたくなってきました。
田中先生
寝方に限らず、授乳の向きも左右均等にしたいですよね。ベッドに寝かせる位置も足側と頭側を交互に入れ替えたり、向き癖とは反対方向に興味のあるものを置いて同じ向きだけにさせないようにしたりします。赤ちゃんが起きている時は、抱っこして頭に外圧がかからない時間を設けるようにします。ですから、「何分ごと」というより、日常生活を通して「常に」留意してあげましょう。
編集部
赤ちゃんが大きくなると、自分で向きを変えますよね?
田中先生
はい。自分で向きを変え始める生後3~4カ月までは、ご両親が向かせた寝方から動かないと思います。かつ、この時期は頭が柔らかいため、冒頭でお話しした斜め寝による頭蓋変形が軽度で済むのか重度になってしまうのかを分けるのは、この時期と言えるでしょう。まんべんなく寝る方向を変えて、頭の同じ部分に外圧がかかるのを防げば重度には至らないはずです。一方、いったん重度の変形になってしまうと、つぶれて平坦になった部分を下にした方が安定していて、反対方向へ向くのが難しくなり、変形はますます強くなってしまいます。
編集部
すでに生後3カ月を過ぎていたら、手遅れなのでしょうか?
田中先生
軽症ならば小まめに向きを変えることに注意すれば、「軽症のまま」に抑えることができるでしょう。また、赤ちゃん自身も両方向に向きを変えられるようになります。しかし重症では、小まめに向きを変えたとしても赤ちゃんは結局、頭の座りの良い方向に向いてしまいます。注意は徹底できず、かつ寝返りを打つことができるようになっても頭蓋変形により向き癖と反対方向に向くのが難しいため、変形部に外圧がかかり続け自然に変形が治ることは難しくなります。したがって、「赤ちゃんが寝返りを打てるようになれば、自然に頭蓋変形は治る」という考え方は大きな誤解です。
編集部
赤ちゃんの頭の向きについて、どれくらいまで親が介入すべきなのですか?
田中先生
頭が固くなってくる生後8カ月まで、そのなかでも生後3カ月くらいまでは、ご両親が積極的に介入してください。そして3カ月を過ぎて変形が重度の場合は、ヘルメット治療を検討するのがいいと思います。自然に治ると待っていて6~8カ月を過ぎてしまうと、ヘルメット治療をおこなっても効果が低かったり、あるいはヘルメット治療が不適応となってしまったりすることがあります。
編集部まとめ
頭蓋変形は、程度が強くなると寝返りを打つようになっても自然解決しないということでした。頭蓋骨にクセを通り越した「物理的に安定する形」ができてしまうからです。そして、仰向け寝、横向き寝、斜め寝の中で最も怖いのが、顔の見た目や機能に影響する「斜め寝」とのことです。とにもかくにも、同じ向きで寝続けることを避けましょう。とくに、生後3カ月までの“柔らかい頭蓋骨”は要注意です。
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