加齢黄斑変性に有効な抗VEGF硝子体注射とは? 治療の流れや合併症リスクも解説
「黄斑部」と呼ばれる物を見るうえで重要な部分に異常な血管が発生するなど、視力低下をきたすことがある加齢黄斑変性。完治は難しいとされる一方で、異常な血管による症状に対しては「抗VEGF注射」が有効とされるケースもあります。そこで今回は、抗VEGF硝子体注射はどんな注射なのか、治療の流れ、合併症のリスクなどについて、うえだ眼科クリニックの上田至亮先生に聞きました。
監修医師:
上田 至亮(うえだ眼科クリニック 院長)
防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院眼科医員、自衛隊中央病院眼科医長、荻窪病院眼科部長などを勤めた後の2018年、東京都杉並区内に「うえだ眼科クリニック」を開院。「患者さんを自分の家族だと思う」スタンスの元、日々の診療にあたっている。医学博士。日本眼科学会認定眼科専門医、日本医師会認定産業医、厚労省認定臨床研修指導医、身体障害者認定医。
加齢黄斑変性とは? どんな症状?
編集部
加齢黄斑変性とはどんな病気なのですか?
上田先生
その名の通り、加齢によって黄斑部に変性が生じる病気です。黄斑部とは、網膜の中心に存在し、物を見る上で重要な働きをする部分です。加齢黄斑変性では、この黄斑部にもろい血管(脈絡膜新生血管)ができることがあります。脈絡膜新生血管は破裂しやすく、出血を起こすと視力が低下するなどの症状をきたすことがあるのです。一方、単に黄斑が萎縮するタイプのものもあります。脈絡膜新生血管が生えてくるタイプは「滲出型」、黄斑が萎縮するタイプは「萎縮型」と分類されています。加齢黄斑変性は、米国で失明の主な原因となっている疾患で、近年、日本国内でも発症例が増加しており、失明原因の4位とされています。
編集部
加齢黄斑変性は、どんな症状が見られるのでしょうか?
上田先生
先ほどもお話ししたように、新生血管が破れて出血を起こすと視力の低下をきたしますが、網膜内に大きな出血を起こすと、真ん中だけ欠けて見えなくなる(中心暗点)こともあります。また、網膜の下に血液が溜まることで、網膜に歪みが生じ、物が歪んでみえるようになります(変視症)。症状が進行すると、色がわからなくなる色覚異常も生じることがあります。さらに、出血が眼球内に広がると全体が見えなくなってしまうこともあるのです。
編集部
加齢黄斑変性の発症原因は何ですか?
上田先生
はっきりとは分かっていませんが、遺伝的に加齢黄斑変性を発症しやすい人がいらっしゃるようです。このような方が、喫煙やストレス、偏った食生活、酸化ストレスなどの、発症に影響を及ぼす環境下で長年過ごすことは、発症のきっかけとなると言われています。また、年齢を重ねるごとに発症頻度が徐々に高くなるほか、片目に発症した場合には、反対の目にも40%以上の確率で発症するとも言われています。
編集部
加齢黄斑変性は治らないのでしょうか?
上田先生
網膜が萎縮してしまう萎縮型加齢黄斑変性には、今のところ有効な治療がありません。しかし、滲出型加齢黄斑変性に対しては、異常な血管や網膜のむくみ(黄斑浮腫)に対する治療が有効な場合があります。治療法にはいくつかありますが、以前から実施されてきたレーザーによる光線力学的療法(PDT)や、近年主流となっている薬物療法である「抗VEGF硝子体注射」などが挙げられます。
抗VEGF硝子体注射とは
編集部
VEGFとは何を指す言葉ですか?
上田先生
VEGFとは、体内で新しい血管が作られるときに放出される成長因子の一種です。「Vascular Endothelial Growth Factor(血管内皮増殖因子)」の頭文字をとってVEGFと呼ばれています。加齢黄斑変性などを発症した際には、VEGFが放出されることで網膜下に新生血管といわれるもろい血管が増殖し、網膜内の毛細血管から血液が漏れ出すことで網膜がむくみ、視力低下を引き起こします。
編集部
では、抗VEGF硝子体注射とはどんな注射になるのですか?
上田先生
VEGFを抑えるために開発された薬剤です。眼球内(硝子体内)に注射することでVEGFを抑え、新生血管を抑制したり黄斑浮腫を改善したりする効果が期待できます。
編集部
眼球に注射をするのは怖いですね。ほかの治療法で代用したり、治療せず様子を見たりするケースもありますか?
上田先生
ほかの治療法には、前述した「光線力学的療法(PDT)」や「網膜光凝固治療」などがあります。抗VEGF硝子体注射に同意が得られない場合でも、眼科では可能な限り視力を維持出来るように対応をしてくれるでしょう。しかし、治療を行わず症状が持続した場合には、病状が悪化することも懸念されます。これらを踏まえて主治医とよく相談することが大切です。
治療の流れと合併症リスク
編集部
抗VEGF硝子体注射を受ける際の流れについて教えてください。
上田先生
点眼麻酔をし、眼の周囲と眼球をしっかり消毒します。次に顕微鏡を使用して強膜(白目)に針を刺し、眼球内(硝子体内)に薬剤を0.05cc注入します。一般的に、加齢黄斑変性はなかなか治りにくいため、複数回の治療が必要になることがあります。その際、1か月ごとに3回注射を行い、相談しながら注射期間を延長していく「トリートアンドエクステンド」という治療法や、症状が悪化した際に注射する「PRN法」があります。治療のスケジュールなどは、クリニックによっても異なるでしょう。一例として、当院では各患者さんに対して個別医療化を目指し、注射予定表を作成しています。どの程度で再発するのか予想しながら抗VEGF硝子体注射を実施し、精度を向上させています。
編集部
この注射による合併症などはありますか?
上田先生
合併症として、眼内炎、水晶体損傷、眼圧上昇、眼感染症、網膜裂孔、網膜剥離などが考えられます。ほかにも、注射後に眼球内へ薬剤が入ることによって浮遊物が増えたように感じる症状(飛蚊症)や、結膜下出血(白眼の出血)が一時的に起こる場合もあります。また、抗VEGF剤自体が血管を作るのを抑制する効果があるため、非常にまれではあるものの0.3%程度、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や心筋梗塞などを発症する可能性もあるといわれています。いずれの場合にも、合併症が発生した際は最善の治療を行い、場合によっては大学病院への紹介などによる入院手術の処置が必要になることがあります。
編集部
治療後の注意点などがあれば教えてください。
上田先生
感染症を防ぐため、注射前後の3日間は抗菌の点眼薬を使用していただきます。また、注射後3日間は眼の中に水道水やお風呂の湯、プールの水などが入らないように注意が必要です。
編集部
治療費はどの程度かかるのでしょうか?
上田先生
この治療は薬剤費が高価なため、比較的高額になる傾向にあります。近年、さまざまな薬剤が開発され、費用は抑制されつつありますが、それでも高額になってしまうことがあるため、主治医とよく相談してください。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
上田先生
この治療は、組織の老化に伴う変性などによる病気であるため、なかなか綺麗に回復する病気ではありません。複数回の治療や通院が必要で大変かもしれませんが、病状や治療法について主治医とよく相談することが大切になります。
編集部まとめ
滲出型の加齢黄斑変性による症状に対しては、抗VEGF硝子体注射が有効なケースもあるということでした。しかし、眼球に注射を打つことに抵抗がある方や、治療回数や費用などを懸念される方もいらっしゃることでしょう。主治医とよく相談し、検討してみましょう。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |