FOLLOW US

目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 思春期早発症の問題を「身長」のみで捉えるのはNG! 「心理社会的」な問題のケアも重要!

思春期早発症の問題を「身長」のみで捉えるのはNG! 「心理社会的」な問題のケアも重要!

 更新日:2023/03/27

早い症例では4歳ではじまるとされる「思春期早発症」。大人の体に向けた変化が、この時期から現れてきます。その一方、早期に大人の体となってしまうため、低身長が心配されるケースもあります。はたして、親は子どもの思春期にどう向き合うべきでしょうか。「オハナこどもクリニック赤羽」の宮川先生が解説します。

宮川 雄一医師

監修医師
宮川 雄一(オハナこどもクリニック赤羽 院長)

プロフィールをもっと見る

日本医科大学医学部卒業。東京医科歯科大学小児科入局。総合病院や大学病院勤務後、川口市立医療センター小児科の医長を務める。2021年、東京都北区に「オハナこどもクリニック赤羽」を開院。子どもたちの「良きかかりつけ医」を目指している。日本小児科学会専門医、日本内分泌学会専門医。日本小児内分泌学会、日本糖尿病学会、日本小児アレルギー学会、日本小児救急医学会の各会員。

思春期早発症の治療の目的は

思春期早発症の治療の目的は

編集部編集部

思春期早発症で「背が低くなる」という説を見かけます。

宮川 雄一医師宮川先生

たしかに、思春期早発症のお子さんにとって最終的に身長が低くならないかということは大切ですが、治療の目的を考えるにあたっては、周りのお子さんよりもかなり早くに心身の変化が現れることをどう捉えるかということも大切だと思います。とくに女児では、「生理が同級生よりも早く訪れることをどう思うか」が鍵となることが多いですね。早く訪れても構わないというお子さんには、治療をおこなわないこともあります。

編集部編集部

だとすると、なぜ身長に関する意見が散見されるのでしょうか?

宮川 雄一医師宮川先生

子どもが心身ともに大人へと変化する思春期には、お子さんの身長の伸びもよくなります。しかし、思春期の後半になると伸びが緩やかになり、やがて止まります。思春期早発症では、早期に大人の身体になるため、「背の伸びが早く止まる」傾向があることは事実です。では、治療によってこの問題が解決できるかというと、必ずしもそうではありません。早い年齢、例えば4~5歳頃に発症するケースでは、治療によって最終的な身長を改善できると思います。しかし、すべてのお子さんで「思春期早発症の治療で背を高くできる」わけではありません。

編集部編集部

その一方で早くはじまった「生理」に関しては、治療で遅らせることができるわけですか?

宮川 雄一医師宮川先生

はい。「LH–RHアナログ」という薬を定期的に注射すると、性ホルモンの働きが弱まり、生理はほぼ止められます。ただし、性ホルモンの働きが弱まると、骨の伸びもゆっくりになります。一方、治療中も骨は少しずつ成熟します。骨が充分に成熟すると、骨端線が閉じ、骨が伸びなくなります。骨を樹木に例えるとしたら、年輪は刻まれるけれども、高さが十分に伸びないようなイメージでしょうか。治療中の骨の伸びと骨の成熟とのバランスには個人差がありますが、少なくともすべてのお子さんにとって「背を高くする治療」とは言えないことになります。

編集部編集部

男児だと、そもそも思春期早発症を治す理由が思い浮かびません。

宮川 雄一医師宮川先生

非常に早い年齢で発症したお子さん以外では、陰毛や声変わりなどをどこまで気にされるかにもよりますが、女児に比べると治療をするお子さんの割合は少ないですね。ただし、女児を含め、「腫瘍」などのそれ自体に治療が必要な原因が見つかることもあるので、見逃さないことが大切です。原因を探すための頭部MRIなどの検査の必要性は、性別、年齢、他の症状もふまえて判断します。

思春期早発症の診断について

思春期早発症の診断について

編集部編集部

思春期早発症の診断は、どうやってつけていくのでしょうか?

宮川 雄一医師宮川先生

「男児の声変わり」や「女児の生理」といった「思春期による変化」のそれぞれについて、「この年齢から起こりはじめると早い」といった基準が設けられています。その基準を満たすお子さんでは、成長の仕方や血液検査での性ホルモンの数値、レントゲンでの骨の成熟度を確認し、診断をつけていきます。ただし、思春期早発症の診断では「進行の早さ」も重要だと考えています。

編集部編集部

単なる項目のチェックではなく、変化の中身を問うということですか?

宮川 雄一医師宮川先生

そのとおりです。ある項目が早かったとしても、ゆっくりと進行すれば、結果的には治療が必要ない場合もあります。また、女児では「早発乳房」という、治療が不要な状態があることも知られています。逆に、今のところ「治療が不要」と判断したとしても、その後の進行が早ければ考え直す必要があります。実際、3カ月に一度の定期受診を交えつつ、都度、検討していくケースもあります。その際、思春期の進み方や身長の伸び方に加え、必要に応じて血液検査での性ホルモンの数値やレントゲンでの骨の成熟度も繰り返し確認します。

編集部編集部

身長以外の、例えば「胸の大きさ」は、思春期早発症の影響を受けるのでしょうか?

宮川 雄一医師宮川先生

全くの別問題です。思春期早発症になったからといって、胸が小さくなるわけでも大きくなるわけでもなく、元からある体質のようなものだと思っていただいてかまいません。逆に言うと、思春期早発症の治療で胸を大きくすることはできません。胸の大きさ以外の「思春期による体の変化」も同様で、あくまでも治療は進行を遅らせるためのものです。

編集部編集部

治療のはじめ時、やめ時の判断が難しそうですね。

宮川 雄一医師宮川先生

まず、経過観察だけで治療をおこなわなかった場合ですが、とくに女児で「いつ、生理がはじまるか」は、注意していく必要があります。生理が早くはじまることで、ご本人や周囲が戸惑う心理社会的な問題になりやすいからです。次に治療をおこなった場合ですが、やめ時は骨の成熟度などを参考にしながら、ご本人やご家族とも相談して決めます。ただし、必要以上にやめ時を遅らせると、骨粗しょう症のリスクが高まってしまいます。治療によって、骨密度を上昇させる性ホルモンの分泌が抑えられることが原因です。逆に、医師の想定より早く治療をやめることによって、新たな病気が発症するリスクが高まることはありません。

親の行動は思春期早発症とは無関係

親の行動は思春期早発症とは無関係

編集部編集部

そもそも、思春期は何歳くらいで訪れるのでしょうか?

宮川 雄一医師宮川先生

「思春期」というと反抗期や性の悩みといったイメージがあると思いますが、医学的には「性差がよりはっきりしてくる」ことをもって思春期のはじまりとしています。平均的に、女児は10歳頃男児は12歳頃に思春期がはじまります。

編集部編集部

もともと、思春期の訪れは人によってバラバラですよね。

宮川 雄一医師宮川先生

はい。ちなみに一部を除いて、なぜ思春期早発症が生じるのかについては、はっきり究明されていません。1つ言えるとしたら、ご家庭での育て方や食事内容などは“関係していない”ということです。そのため、ご両親がご自分を責める必要はありません。

編集部編集部

仮に相談するとしたら、受診先は小児科ですか?

宮川 雄一医師宮川先生

はい。年齢的にも小児科を推奨します。脳神経外科医や内分泌代謝科専門医に紹介することもありますが、まずはいつでも相談できる「かかりつけの小児科医」をもっていただきたいですね。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

宮川 雄一医師宮川先生

思春期早発症で通常おこなわれる治療は、病院での月1回の注射です。この「1カ月に一度」の間隔が開き過ぎてしまうと逆効果になり、むしろ思春期を更に進めてしまいます。間隔を守って繰り返し注射をおこなうことで、思春期の進行を抑えられるのです。したがって、治療中の定期的な受診をお願いしたいと思います。また、今回詳しくはお話しませんでしたが、LH-RHアナログによる治療の対象にならない特殊な思春期早発症も稀にあり、血液検査で区別がつけられます。お子さんの思春期が早くきているのではないかとご心配でしたら、母子手帳や計測の記録をご持参のうえ、ぜひ一度ご相談ください。

編集部まとめ

思春期早発症の治療目的を考える際は「器質的な問題」、つまり身長以上に、「心理社会的な問題」に焦点を当てる必要があるとのことでした。大人になった時の身長をより伸ばす治療効果は限られていることが多いようです。「心理社会的な問題」が主軸なので、お子さんの感じ方によって、同じ程度の思春期早発症でも治療開始の判断が分かれる場合があります。加えて、治療の必要性を検討する際はお子さんの思春期の進み方を総合的に判断することが大切です。

医院情報

オハナこどもクリニック赤羽

オハナこどもクリニック赤羽
所在地 〒〒115-0055 東京都北区赤羽西1-36-11 2F
アクセス JR「赤羽駅」 徒歩3分
診療科目 小児科、新生児内科、アレルギー科

この記事の監修医師