「つわりがあると流産しにくい」、この真相を産婦人科医が明らかに
多くの妊婦さんたちを悩ませている「つわり」。しかし、その一方で「つわりがあると流産しにくい」という話もあります。もし、つわりがメリットをもたらしているのなら、受け取り方も変わってくると思います。今回は、つわりと流産の関係について、「竹下レディスクリニック」の竹下先生に解説していただきました。
監修医師:
竹下 俊行(竹下レディスクリニック 院長)
日本医科大学医学部卒業、日本医科大学大学院医学研究科修了。その後、日本医科大学付属病院産婦人科医局長、日本医科大学産婦人科学教室助教授を経て、2003年に日本医科大学産婦人科学教授就任。2021年、日本医科大学名誉教授。東京都新宿区に「竹下レディスクリニック」を開院。日本医科大学での30年以上にわたる診療・研究の経験を活かし、不育症治療の第一人者として、最新の不育症知見に基づいた専門的な医療を提供する。日本不育症学会理事、日本受精着床学会理事、日本産科婦人科内視鏡学会監事、日本生殖免疫学会監事ほか。
「つわりがあると流産しにくい」の真相は?
編集部
「つわりがあると流産しにくい」と聞いたことがあります。本当ですか?
竹下先生
はい、本当です。実際、アメリカの国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)でおこなわれた研究では「つわりを経験する妊婦は、経験しない妊婦に比べ、流産のリスクが50~75%も減る」という結果が報告されています。
編集部
そんなに流産のリスクが減るのですね!
竹下先生
これまで「つわりは健康的な妊娠の証拠である」と言われてきましたが、その真相はわかっていませんでした。しかし、近年おこなわれている様々な研究により、つわりがあると流産しにくいということが明らかになってきています。言い換えるのなら、「妊娠が正常に継続しているからこそ、つわりが起こる」ということです。
編集部
反対に、つわりがないと流産しやすいということですか?
竹下先生
いいえ、必ずしもそういうわけではありません。実際、つわりが起きにくい人もいますし、つわりが起きていても気づいていないという人もいます。
編集部
「つわりがないから流産の確率が高い」というわけではないのですね。
竹下先生
そうです。妊娠中、体に起こる変化に適応力がある人は、つわりが起きにくいと一般的には言われています。また、つわりは精神的な影響も受けやすいので、個人差がとても大きいのです。その一方で、つわりがなくても順調に赤ちゃんが育っていることもあるので、そこまで過度に心配する必要はありません。
つわりが起きるメカニズムとは?
編集部
なぜ、つわりが起きるのでしょうか?
竹下先生
つわりが起きる原因は、はっきりとわかっていませんが、考えられることとしては、妊娠によって起こる体の変化です。つわりの時期は、「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンの分泌がピークを迎える時期と重なるため、このホルモンが深く関わっているのではないかと言われています。
編集部
つわりは妊娠したことによって起こる体内の変化が原因なのですね。
竹下先生
そうです。そのほかには、妊娠したことによる責任やストレス、環境の変化などもつわりに影響していると考えられています。
編集部
つわりはいつ頃から起こるのですか?
竹下先生
個人差はありますが、だいたい妊娠5週頃に始まって、妊娠12~13週には落ち着きます。ただし、なかには妊娠4週頃から始まる人もいますし、妊娠後期に入ってもつわりが治まらない人もいます。
編集部
具体的には、どのような症状がみられるのですか?
竹下先生
つわりは妊娠に伴う様々な消化器症状です。その内容は多岐にわたり個人差がとても大きいのですが、代表的な症状としては、吐き気、嘔吐、唾液の増加、全身倦怠感などが挙げられます。また、人によっては、匂いに敏感になったり、食べ物の好みが急に変わったりします。
編集部
つわりはどのように終わるのですか?
竹下先生
終わり方も様々で、徐々に症状がおさまっていたという人もいますし、ある日突然消えていたという人もいます。ほとんどの人が妊娠後期に入る前にはつわりが終わるので、つわりが起きても安心してほしいと思っています。
つわりがひどいときはどうしたらいい?
編集部
妊娠が順調とはいっても、つわりが苦しいのに変わりはありません。
竹下先生
食べ方や飲み方を工夫することで、つわりの症状を軽減することができます。具体的には、「1回の食事量を減らして食事の回数を多くする」、「食べ物を冷やして匂いを軽減する」などの対策が挙げられます。
編集部
つわりで食事ができなくても、胎児に影響はないのですか?
竹下先生
まだ胎児は非常に小さく、それほど多くの栄養を必要とする段階ではありません。また、必要な栄養は母体から摂取することもできますから、それほど心配しなくても大丈夫です。ただし、通常のつわりを超えて「妊娠悪阻(おそ)」になると、医学的な介入が必要になります。
編集部
妊娠悪阻について説明をお願いします。
竹下先生
妊娠悪阻は、つわりが重症化して食事が全く摂れなくなったり、脱水症状を起こしたり、めまいや体重減少を引き起こしたりする状態のことです。胎児よりも母体に影響が出てしまいます。また、症状が悪化すると命の危険を招くこともあるので、この場合は病院で治療をおこなう必要があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹下先生
通常のつわりは病気ではないのでほとんど心配ないですが、上述した妊娠悪阻の場合は注意が必要です。母体の健康状態に著しく影響しますし、ときには命の危険に及ぶこともあります。「つわりがつらいな」と思ったら、無理をしたり我慢をしたりせず医師に診てもらいましょう。具体的には、「毎日嘔吐があって食事や水分がほとんどとれない」、「妊娠前と比べて体重が5%以上減少してしまった」、「倦怠感がひどく起き上がれない」などの症状は受診のサインです。
編集部まとめ
「つわりがあると流産しにくくなる」という説は正しいとのことでした。たしかに、つわりはつらい症状ですが、「妊娠が健康的に続いている証拠」とポジティブに捉えれば乗り切ることができるのではないでしょうか。しかし、その一方で「妊娠悪阻」には要注意です。場合によっては命の危険もあるので、普段と違う症状が出たら放置せず、すぐに受診するようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 婦人科 |