中高年の女性に多い「変形性股関節症」、ストレッチや筋トレで改善しなければ手術を

中村先生

関節の経年による摩耗は、腰や膝に限らず、股関節でも起こり得ます。今回は、この股関節の摩耗に絞りこんでお話させていただきます。股関節の形が変わるほど軟骨が減ってしまった疾患を、「変形性股関節症」といいます。中高年の女性が抱える股関節の悩みの9割以上は、この変形性股関節症です。なおかつ、日本人の場合、元から股関節の形に異常を伴う割合が多いとされています。

中村先生

太ももの骨である大腿骨の上端の丸くなっている箇所と、それを骨盤側で受け止める位置の両方です。通常なら、これらの骨の間にはそれぞれの骨の表面に厚い軟骨があり、足を自由に動かすことができます。ところが、両者の間の軟骨がすり減ってくると、部分的に骨同士が接触するようなことも起こりかねないのです。また、股関節の変形は軟骨のすり減りに限らず、リウマチや骨の壊死（えし）などでも生じ得ます。さらに、長い間に変形が進み、元々の原因がわからなくなっている症例もありますね。

中村先生

あります。股関節が緩い赤ちゃんを下肢を伸ばした状態でオムツをあてたり抱っこをしたりしていると、亜脱臼や脱臼を引き起こし、形の異常となるのです。そのため通常は、生後4カ月目の健診で股関節の脱臼があるかどうかを調べます。健診ではレントゲンやCTスキャンなどはおこなわず、下肢の長さや動きを観察します。そして、異常かあれば専門の整形外科で精密検査をします。

中村先生

生後4カ月時点での脱臼の約8割は、手術を伴わない保存的治療だけで治ります。赤ちゃんに手術をするとしたら、よほど重篤な場合に限られると思います。その反対に、1歳を超えてから治療を開始すると、治療成績はかなり落ちます。したがって、4カ月健診の果たす役割は大きいということです。

中村先生

股関節の形が正常ではなく、なおかつ痛みもあるということなら手術を検討します。このとき、年齢によって人工関節を用いるか自分の骨を使うかの差が生じてきます。一般に若い人には、自分の骨を使う「骨切り術」を勧めることが多いですね。他方、痛みや変形の程度が少なければ、杖や薬を上手に活用していきます。なお、薬に変性した股関節を治す効果は望めません。あくまで、周辺組織の痛みや緊張の緩和が目的です。

中村先生

必要です。片足で立つと、股関節には体重の3倍以上の力がかかります。なぜ2倍ではなく3倍以上かというと、バランスを取るための力が加わるからです。シーソーを思い浮かべてみればわかると思いますが、水平に近い状態では、釣り合いを取るために少しの力しか使いません。ところが、一方へ思いっきり振れてしまうと、戻すのにそれなりの力が必要ですよね。歩行という動作は片足ずつ体重を載せ替えますから、シーソーがフル稼働しているようなものです。

中村先生

そうですね。リハビリを無理に頑張ると、症状を悪化させかねません。変形性股関節症に限って言えば、やればやるほど早く治るという類いではないのです。やはり、専門家の指導の下、適切な運動量と時間を守っておこなってください。

中村先生

変形性股関節症の発症機序と相反した考えですよね。できるなら、ウォーキングよりも自転車漕ぎやプールなどでの水中歩行を推奨します。サドルに座ったり浮力を受けたりしていれば、それだけで股関節にかかる体重が減るからです。将来的な不安がある人は、運動の仕方を工夫してみてはいかがでしょうか。

中村先生

「効果のある人が一定数認められた」という報告がなされていますが、あくまで個人の感想と表示されています。「なぜ効いたのか、ほかの要因によって効果が生じたわけではないのか」という科学的根拠に乏しい印象です。とくに、“口から飲む”市販品やサプリメントは、個人的には眉唾に感じています。

中村先生

ジムなどのトレーナーから「関節が固いので軟らかくしましょう」と言われたことはありませんか。このとき、筋肉の凝りなどではなく、関節の形が変わっていて固いのだとしたら、運動は要注意です。ヨガやストレッチを否定はしませんが、変形性股関節症の可能性を診断してからでも遅くありません。ヨガやストレッチで、いつまでも固さが取れないようなら、整形外科を受診してみてください。