悪天候で頭痛がする理由を専門医に聞く「これからは先回りで予防していく時代」
通称として定着しつつある「天気痛」には、台風の接近など、悪天候によって感じる頭痛も含まれます。天候の変化と痛みの発生メカニズムに相互関係はあるのでしょうか。それとも、ストレスを感じた事による心因的な反応なのでしょうか。「仙台頭痛脳神経クリニック」の松森保彦先生が、対処法も含めた最新事情を解説します。
監修医師:
松森 保彦(仙台頭痛脳神経クリニック 院長)
山形大学医学部卒業。国内外の大学病院や脳神経外科病院で診療経験を積んだ後の2015年、宮城県仙台市に「仙台頭痛脳神経クリニック」開院。受診の敷居を低くし、頭痛のチーム医療にも取り組んでいる。医学博士。日本頭痛学会認定専門医・指導医・代議員、日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本認知症学会認定専門医。仙台市医師会理事。
気候の変化が、片頭痛のハードルを下げる
編集部
台風の接近や雨によって頭痛がするのですが。
松森先生
頭痛に限らず、天候の変化によって、腰痛や関節痛が起きる方がいます。しかし、こうした天気痛は、十分なメカニズムまで解明に至っておらず、治療方法も確立されていません。そのため、基本的には「起きた痛みを抑える」対症療法が治療の主体となります。
編集部
台風のさなかでは、むしろ頭痛がしません。
松森先生
気圧や気温の“変化”が関係しているのでしょう。環境の変化を感じるセンサーが体内には備わっていますが、気圧や気温の“変化”という刺激を受けて「痛みに関連する物質を放出する」と考えられています。一方で、台風のさなかにいると気圧や気温が一定して低いままですから、刺激を受けにくくなるのです。
編集部
もしかしたら「気分的な話」なのでしょうか?
松森先生
一般に、自分にとって嫌なこと、つまりストレスが加わると、片頭痛になりやすいといわれています。ストレスによってセロトニンレベルが変化するためです。仮に「痛みに関連する物質」が発生しても、平気なときは平気です。しかし、ストレスが加わると痛みに対して敏感になってしまうのです。
編集部
台風そのものが頭痛を起こしているわけではないと?
松森先生
総じて“変化”ですね。気圧に限らず、温度や湿度の変化も関係しているのでしょう。「こうなったら痛みを感じる」というハードルのようなものを「閾値(いきち)」というのですが、「気候の変化が閾値を下げている」と言っていいと思います。
自己対処法には落とし穴がある
編集部
天気痛がすると、いままではもっぱら市販薬に頼っていました。
松森先生
効き目があれば構わないと思いますが、痛み止めの使い過ぎになると怖いですね。なぜなら、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)が新たに発生してしまう可能性があるからです。頭痛が起きないようにと予防的に服用していた市販薬によって、逆に頭痛が悪化してしまうことがあるのです。
編集部
漢方薬なら副作用は少ないと聞きます。
松森先生
そうですね、漢方薬が効く方もいらっしゃいます。特に、複数の自覚症状、つまり、頭痛やめまい、吐き気、ほてりなどに対応したそれぞれの薬を処方すると、結構な種類になってしまいますよね。そのような方に「単剤」で済む漢方薬は向いています。
編集部
薬ではなく、耳の周辺を暖めるとイイという説があります。
松森先生
考えられるとしたら、耳の中にある「内耳」の血流を促進させるためでしょう。その一方で、片頭痛は暖めてしまうと悪化します。一口に天気痛といっても、元々の頭痛によってその対応の仕方はさまざまです。ご自身の天気痛がどのタイプの頭痛によって生じているのかを知っておかないと、一概に「○○がイイ」とは言えません。
編集部
受診してもいいのですが、頭痛がしないときもあるんですよね。
松森先生
「症状が起きていないと、診断もできないのではないか?」という疑問ですよね。お医者さんによってはそうお話しする方も少なくありません。しかし、それは間違いです。頭痛の診断には問診が一番大切なのですが、頭痛のない時に受診しても十分お話を聞いて正しく診断することができます。また、片頭痛の治療も「痛い時に対応する時代から予防する時代」へと変わってきています。そもそも、頭痛で苦しいときに受診すること自体が難しいですよね。ぜひ、痛くないときにご相談いただいて、正しい対策を立てましょう。
天気痛アプリと新薬を組み合わせる
編集部
インターネットなどで「天気痛予報」を見かけるようになってきました。
松森先生
予報精度は“かなり”正確なようですね。大事なのは、「注意・警戒レベルだったら、我慢しないで早めに痛み止めを服用する」ような活用の仕方です。あるいは、「閾値」が下がっても大丈夫なように、生活上の工夫をするとかですね。音や光、臭いといった刺激を受けにくい場所で安静にしているだけでも違ってくるはずです。
編集部
単に「安心レベル」だから良かった、「警戒レベル」だから残念ということではないと?
松森先生
アプリの有用性は、あらかじめ頭痛への対策が取れることだと思います。加えて、2021年の春から片頭痛にかなり有効な“予防薬”が処方できるようになりました。この恩恵により、天気痛の一つと考えられる片頭痛への向き合い方が様変わりした印象です。
編集部
天気痛を事前に封じ込めることが可能になったのですか?
松森先生
100%の封じ込めは難しいとしても、新たな予防治療への期待は大きいです。そのときにキーアイテムとなってくれるのがアプリです。予防薬や痛み止め薬の服用、「閾値」が下がっても問題なく過ごせるような工夫などを、医師と相談しながらおこなってみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
松森先生
天気痛を「もともとの頭痛が起きるきっかけ」と捉えてみてください。そして、もともとの頭痛がどういう性質のものなのかを、事前に受診して明らかにしておきましょう。頭痛によって対策や治療は変わってきますし、適切な対応により快適な日常を取り戻せると信じています。
編集部まとめ
痛みには個人ごとの「閾値」があり、天候の変化は、この閾値を下げてしまうとのことでした。台風そのものが頭痛のタネなのではなく、元からもっている頭痛を感じやすくしてしまうのだとすれば、知っておくべきは「元からもっている頭痛の正体」です。頭痛の性質により個人に合った対策を準備し、天気痛アプリで「作戦の開始時期を判断する」。そう考えただけで、すでに天気痛が軽くなったような気がしませんか?
医院情報
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診療科目 | 神経内科、脳神経外科 |