「黄斑前膜手術」で後悔しないための基礎知識 眼科医が治療効果やリスクを解説
黄斑前膜が疑われる症状が出たとき、その手術(硝子体手術)内容について気になる人は多いでしょう。そもそも「手術は必須なのか?」「術後に一定期間うつ伏せで過ごすという話は本当なのか?」など、手術に関する多くの疑問に、この分野を専門とする新横浜かとう眼科院長・加藤徹朗先生が答えてくれました。
監修医師:
加藤 徹朗(新横浜かとう眼科 院長/日本眼科学会認定眼科専門医)
横浜市立大学医学部卒業。複数の関連病院で手術治療の修練を経た後、同大附属病院眼科 助教を6年務める。以後、横浜労災病院眼科 副部長(眼科責任者)、横浜労災病院眼科 部長などを歴任。横浜労災病院では、27ゲージ&広角眼底観察システム硝子体手術、先進医療による多焦点眼内レンズ白内障手術を立ち上げた。2020年に新横浜かとう眼科を開院。横浜市立大学医学部眼科非常勤講師として、後進の指導にも務める。専門分野は硝子体・白内障・緑内障手術。日本眼科学会認定眼科専門医、PDT認定医・ボツリヌス注射認定医など、多数の専門医・認定医の資格ももつ。
黄斑前膜には手術が必要? 後悔しないために知っておきたい基礎知識
編集部
まず、黄斑前膜とはなんですか?
加藤先生
文字どおり「黄斑」の「前」に「膜」ができる病気です。この膜は、「硝子体」(しょうしたい)の一部です。硝子体が網膜から剥がれたときに、綺麗に剥がれず「網膜に貼りついて残る」ことがあり、その場所が網膜の中心部だと、黄斑前膜になってしまいます。
編集部
黄斑前膜は手術が必要でしょうか?
加藤先生
手術が必要かどうかは、患者さんの症状によります。視力が良好、自覚症状も少ない、日常生活や仕事に支障がない、という場合は経過観察で良いこともあります。
編集部
手術以外の治療法はあるのですか?
加藤先生
黄斑前膜の治療法は手術のみで、薬物療法などはありません。「硝子体手術」というものを行います。
編集部
硝子体手術とは、どんな手術でしょうか?
加藤先生
眼球の中にある透明なゼリー状の硝子体と呼ばれる組織の中で、悪くなっている部分を除去する手術です。たとえば、混濁した部分、増殖した網膜硝子体の組織、貯留した血液、病原菌などを除去します。
編集部
手術を行うべきタイミングはいつでしょうか?
加藤先生
これは難しいところで、症状によって日常生活に支障をきたすようになったら手術をおすすめする、というのが1つの基準です。
編集部
「早期に手術をするほど良い」のでしょうか?
加藤先生
「治療成績」だけを考えれば、確かに早期手術をする方が有利です。たとえば、視力が0.7程度の段階で手術をすると、術後の視力が1.0~1.2などに向上することもあります。しかし、0.3程度で手術をしても、ここまでは上がりません。では「早い方がいいのか」というと、手術にはリスクもあります。そのリスクと、治療成績が良くなることを天秤にかけ、どちらを取るべきかを考える必要があります。
黄斑前膜手術のリスクや手術後の日常生活への影響
編集部
黄斑前膜の手術の成功率はどの程度でしょうか?
加藤先生
「失敗せずに手術が無事に終わる」という意味でしたら、ほとんどの手術は「成功」します。ただ、手術によってどの程度症状が改善されるかは、患者さんの目の状態によって大きく異なります。たとえば歪みの程度でいうなら、手術前に比べて2分の1や3分の1程度になることが多いとされています。大きく改善されるものの、歪みがゼロになることはありません。
編集部
手術のリスクはどのようなものでしょうか?
加藤先生
たとえば、手術後に出血が起きる「術後出血」、術後に網膜が剥がれる「術後網膜剥離」、術後に感染症が起きる「術後眼内炎」などがあります。
編集部
手術後、いつ頃から仕事に復帰できますか?
加藤先生
目の状態や施設の方針、お仕事の内容によって大きく異なりますが、目安としては台所仕事や掃除などの基本的な家事は「手術の翌日」から、数時間程度の事務仕事は「術後3日程度」から、力仕事やほこりの多い職場での作業は「術後10日程度」から可能です。
編集部
力仕事で復帰が遅くなるのはなぜですか?
加藤先生
菌が眼に入って感染症を起こす危険性があるためです。こうした感染症は術後1週間程度で起こることがほとんどです。このため、10日程度経ったらおおむね復帰できると考えられます。
編集部
車の運転はいつからできるのでしょうか?
加藤先生
個人差がありますが、運転には両目で見た視力が0.7以上必要であるため、その視力まで回復していれば可能です。
編集部
費用はどのくらいでしょうか?
加藤先生
たとえば日帰り手術の場合、保険の3割負担で片目「約10~18万円程度」になることが多いと思います。白内障手術を同時に行うなど、追加的な条件で変わります。保険治療であるため、手術の内容が同じであれば金額はどの病院でも共通です。
編集部
術後の見え方は、どのように変わっていくのでしょうか?
加藤先生
まず視力については、約1~2週間ほどで徐々に改善されていきます。歪みについては、術後すぐには良くなりません。症状が完全に落ち着くまでには、3カ月から半年など、長い時間がかかります。
手術後にうつ伏せにならないといけない?
編集部
手術後はうつ伏せにならないといけないと聞きました。
加藤先生
“空気やガスを注入した場合”、うつ伏せの姿勢を一定期間保つ必要があります。注入しなかった場合、うつ伏せの必要はありません。
編集部
一定期間とはどのくらいでしょうか?
加藤先生
目の状態や施設の方針、注入した物質などの諸条件で大きく変わるため、一概に「このくらい」とはいえません。最短なら1日ですが、2週間などかなり長くなることもあります。
編集部
空気やガスとはどのようなものでしょうか?
加藤先生
空気は普通の空気です。呼吸で体内に入る空気と同じです。ガスは膨張性ガスというもので、これも当然安全なものです。
編集部
どのようなとき、空気やガスを入れるのですか?
加藤先生
たとえば、「①網膜剥離」があるとき、「②硝子体と黄斑の癒着が強い」ときといったケースです。①ではすでに網膜が剥がれています。②は強い癒着を取るときに、網膜が剥がれてしまうことがあります。その剥がれた網膜を「戻す」のに、気体が必要なのです。しかし、通常の黄斑前膜の手術では、空気やガスは必要ありません。
編集部
気体で網膜が戻る仕組みは、どのようなものでしょうか?
加藤先生
網膜が剥がれている状態というのは、下の図のようなものです。青いビラビラが、剥がれた網膜です。
ここにガスを充填することで、網膜を押さえつけることができます。
押さえている間に「グリア細胞」の働きで、網膜が元通り固定されます。黄斑前膜の手術で、網膜に穴が空いてしまった場合などに、こうした治療を行います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
加藤先生
硝子体手術の安全性は、昔よりも高くなっています。このため、気になる症状がある場合は主治医とよく相談し、手術を受けるべきかを考えていただくと良いかと思います。最近は早めに手術を受ける方が増えていますが、手術のリスクとメリットの双方をよく比較した上で、決めていただきたいです。
編集部まとめ
特に視界が歪む症状が出ている場合、手術を受けても歪みがゼロになることはありません。だからこそ早めの手術が有効ですが、手術のリスクも考えると「必ずしも早ければいいとは限らない」ようです。視界の歪みや霞みなど、黄斑前膜を疑われる症状がある場合は、まず眼科の専門医に相談するようにしてください。
医院情報
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