知っておきたい乳がんのタイプ、分類によって異なる治療法
年々、発症する人が増加している「乳がん」。実は、ひとくちに乳がんといっても、様々なタイプがあることをご存知でしょうか。また、治療方法や予後も、乳がんのタイプによって異なるようです。はたして、乳がんにはどのようなタイプがあるのか、「目白乳腺クリニック」の緒方先生に教えていただきました。
監修医師:
緒方 晴樹(目白乳腺クリニック 院長)
東京医科大学卒業後、聖マリアンナ医科大学大学院卒業。聖マリアンナ医科大学病院乳腺・内分泌外科部長などを経た2019年、東京都豊島区に「目白乳腺クリニック」を開院。女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、東京逓信病院乳腺センターと密に連携しながら、地域に密着した医療活動をおこなっている。日本外科学会外科専門医・指導医、日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。日本乳癌検診学会、日本臨床外科学会、日本癌治療学会、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の各会員。聖マリアンナ医科大学 乳腺・内分泌外科非常勤講師。
乳がんのタイプとは?
編集部
乳がんには、様々なタイプがあると聞きました。
緒方先生
はい。乳がんといっても、おとなしい性格のタイプもあれば、進行の早い厄介な性格のタイプもあるため、ひと括りにはできません。それぞれ性質がまったく異なるため、治療法や治療薬も異なります。乳がんの状態や特徴、患者さんの希望などに合わせた治療をおこなうためには、まず乳がんのタイプを把握することが必要です。
編集部
どのようにして、タイプ分けされるのですか?
緒方先生
がん細胞が持つ性質によって、いくつか大まかに分類します。本来は遺伝子検査をおこなう必要があります。ただし、煩雑で時間がかかりすぎるので、遺伝子検査の代わりに手術や針生検などで採取した乳がんの組織を詳細に調べて、どのタイプのがんかを便宜的に分類しています。
編集部
具体的に、どのようなタイプがあるのですか?
緒方先生
編集部
なるほど。3つの軸を掛け合わせて分類するのですね。
緒方先生
そうです。これらを掛け合わせることにより、大きく分けて5つのタイプに分類していきます。まず「ホルモン受容体陽性乳がん」ですが、これはがん細胞の内部にホルモン受容体と呼ばれるタンパク質が存在しているタイプです。上の図では「サブタイプ分類」欄の「ルミナルA型」や「ルミナルB型」という名称で示されています。
編集部
次の「HER2型」とは、どのようなものですか?
緒方先生
これは図の通り、HER2が陽性のタイプです。HER2タンパクは、がん細胞の増殖を促す役割をしています。このHER2タンパクが、がん細胞の表面に過剰に出現しているタイプは「HER2陽性乳がん」もしくは「HER2タイプ」と呼ばれます。
編集部
最後の「トリプルネガティブ」とは、どのようなものですか?
緒方先生
これは、がん細胞の内部または表面に、ホルモン受容体の発現もHER2タンパクの過剰発現もみられないタイプです。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の3つが陰性であるため、トリプルネガティブと呼ばれています。
タイプ別の治療法は?
編集部
これらの中で、最も患者数が多いタイプはどれなのでしょうか?
緒方先生
乳がんの約70%は、ホルモン受容体が陽性のがんです。ホルモン受容体陽性乳がんは、女性ホルモン(エストロゲン)がスイッチとなって増殖します。そのため、「エストロゲン受容体陽性乳がん」と呼ぶこともあります。なお、HER2型とトリプルネガティブは、同じくらいの比率です。どちらも乳がん全体の10%を占めると言われています。
編集部
タイプによって治療法は異なるのですか?
緒方先生
もちろん、タイプによって治療法は変わります。例えば、ホルモン受容体が陽性の場合、がん細胞は女性ホルモンに反応して増殖するため、女性ホルモンを抑制する抗ホルモン療法をおこないます。もっと細かく言えば、同じようにホルモン受容体が陽性のタイプでも、がん細胞が増殖するスピードを示すKi67が高いか低いか、さらに、HER2が陽性か陰性かによっても治療法は分かれます。
編集部
そうなると同じホルモン受容体が陽性のタイプでも、上の図のように「ルミナルA型とルミナルB型では治療法が違う」ということですね。
緒方先生
その通りです。ルミナルA型はホルモン療法単独での効果が期待されます。その一方、ルミナルB型は、ホルモン療法に加えて化学療法をおこなうことも検討されます。
タイプによってがんの性質や予後も異なる
編集部
HER2型は、どのような治療がおこなわれるのですか?
緒方先生
HER2タンパクに対する薬である、抗HER2治療薬の効果(分子標的療法)が期待できます。それに加えて、化学療法も併せて用いられます。また、ルミナルB型でもHER2が陽性の場合には、HER2型と同じ治療をします。
編集部
トリプルネガティブの治療法は?
緒方先生
トリプルネガティブは、ホルモン受容体とHER2がいずれも存在しません。そのため、治療ではホルモン剤や抗HER2薬は使わずに、化学療法が適応されます。
編集部
それぞれ、サブタイプによって治療法が異なるのですね。
緒方先生
はい。一般的にルミナルA型は、予後が比較的良好でホルモン療法単独での効果が期待されると考えられています。一方、HER2型やトリプルネガティブは、転移や再発の危険性が高かったのですが、最近では必ずしもそうとは限らなくなっています。特にHER2型は、化学療法と分子標的療法が功を奏する場合が多く、治療法の進歩がめざましいタイプです。また、トリプルネガティブは、化学療法の感受性が高いといわれています。総じて、治療法は確立されつつあるので、偏った情報に振り回されず、冷静に治療へ臨んでいただきたいですね。
編集部
そのほかにも、治療するにあたって知っておくべきことはありますか?
緒方先生
治療方法はこうした分類だけではなく、がん細胞の悪性度(転移や再発の危険性)や、全身の状態、患者さんのご希望などを考慮して決定されます。そのため、まずはじっくり担当医と話し合うことが大切です。しっかりと納得したうえで、治療に臨むようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
緒方先生
今回ご紹介したように、乳がんのタイプ分けや治療法は非常に複雑です。治療に際して理解できないことがあったり、不安なことがあったりする場合は、必ず納得いくまで医師に質問しましょう。大事なのは、患者さんご自身が納得して治療に臨むことです。その方が、その後の治療もすんなりと受け入れられますし、心理面でも不安が解消されるでしょう。わからないことがあったら放置せず、とことん医師と話してほしいと思います。
編集部まとめ
乳がんはタイプ分けされており、その分類によっても治療法は異なるとのことでした。医師に治療を任せっきりにせず主体的に臨むためにも、病気の性質を正しく理解して治療の内容や目的を把握しておくことはとても大切です。そのためにも医師と積極的にコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことが重要です。
医院情報
所在地 | 〒171-0031 東京都豊島区目白3-4-11 ヒューリック目白3階 |
アクセス | JR「目白駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 乳腺外科 |