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統合失調症の治療薬はいつまで飲み続ければいい? 脳への影響は大丈夫?

 更新日:2023/03/27

現在、日本では約100人に1人が発症すると言われている「統合失調症」。考えがまとまらなくなったり、幻覚や妄想に悩まされたりするといった症状が出るようです。また、再発を防ぐために、長期にわたる服薬が推奨されています。はたして、薬による脳への影響はないのでしょうか。「駒沢メンタルクリニック」の李先生にお聞きしました。

李 一奉

監修医師
李 一奉(駒沢メンタルクリニック 院長)

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帝京大学医学部卒業。帝京大学大学院医学研究科医学専攻精神科学修了。帝京大学医学部附属病院、初石病院、愛誠病院などで経験を積む。2005年、東京都世田谷区に「駒沢メンタルクリニック」を開院。現代病とも言えるサラリーマンの心身症やうつ病、不眠症の治療をはじめ、心身の健康をトータルでサポートしている。日本精神神経学会精神科専門医・指導医。精神保健指定医。

自分の気持ちや考えがうまくまとまらなくなる病気

自分の気持ちや考えがうまくまとまらなくなる病気

編集部編集部

まず、統合失調症について教えてください。

李 一奉李先生

統合失調症になると、自分の気持ちや考えがうまくまとまらなくなってしまいます。現在の日本では約100人に1人の割合で発症すると言われており、思春期から40歳くらいまでに症状がみられるケースが目立ちます。なお、以前は「精神分裂病」とも呼ばれていました。

編集部編集部

統合失調症の原因は何ですか?

李 一奉李先生

統合失調症の原因はまだはっきりとわかっていませんが、脳の神経伝達物質のバランスが崩れてしまい、脳が情報を収集できなくなっていることが関係していると考えられています。また、大きなストレスや遺伝なども原因となるとされています。

編集部編集部

統合失調症は、どのように検査・診断するのでしょうか?

李 一奉李先生

まずは、本人やご家族へ、妄想や幻聴などの症状があるかをヒアリングします。ある場合は、継続期間はどれくらいかといった詳細な問診をおこないます。さらに、生育歴や既往歴、家族歴などについても聞き、それらをもとに診断します。ただし、統合失調症に似た症状を示すものとして、脳腫瘍や側頭葉てんかん、甲状腺疾患、自己免疫疾患などもあるので、それらの可能性を排除するために、CT検査やMRI検査をおこなう場合もあります。

統合失調症の主な症状は?

統合失調症の主な症状は?

編集部編集部

統合失調症になると、どんな症状が出ますか?

李 一奉李先生

統合失調症の症状は、健康時にはなかった症状が表れる「陽性症状」と、健康時にあったものが失われる「陰性症状」の2つに分類されます。陽性症状として代表的なものは、幻覚や妄想、幻聴です。とくに多いのは幻聴で、頭の中で誰かが自分の行動に関して意見を述べたり、自分に対して批判的なことや侮辱的なことを言う声が聞こえたりします。また、思考が混乱して考え方に一貫性がなくなります。

編集部編集部

もう一方の「陰性症状」には、どのような症状がありますか?

李 一奉李先生

感情表現が減少したり、言葉が少なくなったり、喜びを感じられなくなったりしてしまいます。また、人と関わることを嫌うようになり、非社交的な傾向に陥りがちです。

編集部編集部

ほかにもありますか?

李 一奉李先生

記憶力が低下したり、注意力や集中力が欠如したりします。また、物事に優先順位をつけてやるべきことを判断したり、計画を立てたりすることが難しくなります。こうした症状は「認知機能障害」と呼ばれ、日常生活に支障をきたしてしまいます。

編集部編集部

どのように治療をおこなうのですか?

李 一奉李先生

統合失調症は、「急性期、慢性期、維持期」の3期に分けられます。急性期は抗精神病薬などを用いて、症状を抑える薬物療法が中心となります。その次のステップである慢性期では、社会生活に復帰できるよう、薬物療法に並行して心理的なリハビリテーションをおこないます。これにはデイケアや作業療法、SST(生活技能訓練)、心理教育などのプログラムがあり、医師や看護師のほか、精神保健福祉士や作業療法士、臨床心理士などの専門職と連携して治療を進めます。症状が治まると維持期に入りますが、統合失調症は再発しやすいのが特徴です。そのため、維持期に入っても、再発を予防するために薬を飲み続ける必要があります。

長期間の服用は必要だが、以前よりも薬の副作用は少なくなった

以前よりも薬の副作用は少なくなった

編集部編集部

長期間にわたって、薬を飲むのですね。

李 一奉李先生

はい。抗精神病薬を用いて脳の働きを整え、発症前の状態を目指していくのが一般的です。抗精神病薬は、主に脳内のドーパミン神経の活動を抑えるものを服用してもらいます。幻覚・妄想の軽減効果以外に、思考のバラつきや感情表現の乏しさ、やる気の欠如などの症状を改善して再発防止を目指します。

編集部編集部

ドーパミン神経とは何ですか?

李 一奉李先生

脳の情報伝達は、神経伝達物質と呼ばれる化学物質を介しておこなわれます。神経伝達物質には様々な種類がありますが、その中で向上心やモチベーション、記憶や学習能力、運動機能に関与するのがドーパミンです。つまり、私たちが何かに対して意欲や向上心を持つと、脳内ではドーパミンが分泌されるのです。

編集部編集部

なぜ、脳内のドーパミン神経の活動を抑えると、統合失調症の症状が改善されるのでしょうか?

李 一奉李先生

ドーパミンが過剰に分泌されて暴走すると、脳の情報処理能力が失われてしまいます。これが、統合失調症というわけです。そのため、統合失調症の治療では、ドーパミンの活動を抑える必要があるのです。

編集部編集部

薬による副作用はないのですか?

李 一奉李先生

抗精神病薬は近年、非常に進化が進んでいて、現在用いられているのは第二世代が中心です。従来の抗精神病薬には、眠気や筋肉のこわばり、ふるえ、体重増加などの副作用がありました。しかし、第二世代の抗精神病薬は、従来の薬に比べて、副作用のリスクがだいぶ少なくなりました。

編集部編集部

維持期になっても、薬を続ける必要があるのですよね。いつまで飲み続ければいいのですか?

李 一奉李先生

薬をいつまで続けるべきかは、患者さんの状態によるので一概には言えません。患者さんの症状に応じて薬の量を調整しますが、その判断は専門医でなければ困難です。また、統合失調症は再発を繰り返すことが多いため、症状が安定しているからといって、自己判断で服用をやめるのはとても危険です。かえって再発を招いたり、重症化の危険を高めたりしてしまいます。もし、「副作用がつらい」、「薬をやめたい」などの悩みがあれば、医師に相談してください。

編集部編集部

先ほど、統合失調症を発症するのは約100人に1人、というお話がありましたが、発症リスクが高いイメージです。

李 一奉李先生

たしかに事実なのですが、その一方で統合失調症が重症化して、入院する患者さんの数は減少しています。つまり、統合失調症を発症する人の数は多くても、軽症で治癒できる人も多いということです。これには、メンタルクリニックや精神病院の受診ハードルが、以前に比べて下がったことが関係していると思われます。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

李 一奉李先生

メンタルクリニックや心療内科に足を運ぶのは、勇気がいるかもしれません。しかし、医師の意見を聞いてみて、「この人は話しやすそうだ」と感じる医師を選べば、通院するのが苦ではなくなるのではないでしょうか。メンタルクリニックや心療内科は、長い付き合いになることが多いので、遠慮せずにセカンドオピニオンやサードオピニオンを求めてみると、ご自分と相性の良さそうな医師に出会えると思います。

編集部まとめ

統合失調症治療の向精神薬は、昔と比べると副作用は少なくなっているとのことでした。精神的な不調は、「心が風邪を引いたようなもの」とよく言われます。不調を感じたら、遠慮なくメンタルクリニックや心療内科を頼りましょう。また、いざという時の「かかりつけ医」を見つけておくと、早めの対処が可能ですね。

医院情報

駒沢メンタルクリニック

駒沢メンタルクリニック
所在地 〒154-0012 東京都世田谷区駒沢2丁目31番1号 駒沢そらビル2F
アクセス 東急田園都市線「駒沢大学駅」 徒歩5分
診療科目 心療内科、精神科

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