リハビリの通院中にストレッチなどの運動をしても大丈夫?
監修理学療法士:
吉川 信人(理学療法士)
関西医療学園専門学校理学療法学科卒業。卒業後、京都の病院に就職。病院でのリハビリテーションを行う傍ら、女子サッカーチームのチーフトレーナーとしても活動。その後、ホッケー女子日本代表とホッケー男子日本代表のトレーナーとして海外遠征の帯同を歴任。現在は理学療法士やトレーナーとしての経験を活かして医療ライターとして活動中。
リハビリ期間中にストレッチはしてもOK
編集部
リハビリ期間中ですが、ヨガや健康体操などのストレッチをしても大丈夫でしょうか?
吉川さん
身体や筋肉を伸ばすような、いわゆるストレッチ運動というものでしたら、リハビリ期間中でもしていただいて問題ありません。ヨガや健康体操のような動きを伴うものに関しては、患者さんの身体の状態や行なっている運動のレベルにもよりますので一概には言えませんが、リハビリで治療を行なっている部位へ負担がかからない程度であれば問題ありません。ただし、その際にはいくつか注意点がありますので、それらを守って行ってもらうことが大切です。
編集部
リハビリ期間中は何に注意しながらストレッチを行えばいいのでしょうか?
吉川さん
リハビリ期間中にストレッチをする際には、リハビリで治療をしている部位へ負担がかからないよう注意してください。例えば、骨折している骨に付いている筋肉を伸ばす、もしくは使うようなストレッチは骨折部へ負担を与え、治りを遅くさせてしまいます。これはギプスをしていても同じです。
編集部
リハビリ期間中は避けた方がいいストレッチはありますか?
吉川さん
痛みを伴うような強度の強いストレッチは避けてください。また、ヨガなどはレベルを下げるなどして、リハビリ期間中は一時的に調整してもらい、無理をしないことが大切です。実際に手を骨折した方で足は関係ないだろうと考え、足や体幹を使うピラティスをしていたら、手の骨折部分がずれてしまったということがありました。自分にとって難しいレベルの動作は無駄な動きが多くなり、余計な力が入ることで思わぬ負担がかかってしまうこともあるので注意が必要です。
リハビリ期間中にストレッチをする際は、必ず専門家に相談を
編集部
リハビリとストレッチ、どちらを優先すべきでしょうか?
吉川さん
現在、治療で通院中の方は、身体を治すために必要なリハビリを優先してください。リハビリは身体の基本となる関節の動きや身体の運動能力を上げるために行うものになります。個別で患者さんを診ているため、一人ひとりに合わせた治療内容を提供していますので、その中で行ってもいいストレッチ運動を医師や理学療法士に確認しながら行うようにしてください。
編集部
これらの注意点に気をつければ、自分でストレッチしても大丈夫でしょうか?
吉川さん
症状によって対応も異なりますので、自己判断で進めてしまうのは危険です。例えば、ケガをしたばかりの急性期であれば、何もせずに安静にしていることが大切ですし、腰痛には反らして痛みがでる場合と前屈で痛みがでる場合があり、それぞれやってはいけない動きも変わってきます。単純に腰痛というだけでは判断できないので、腰痛の原因が何なのか、医師や理学療法士などに診てもらう必要があります。リハビリは患者さん自身にも治そうという意識を持って取り組んでもらうことがとても大切です。そのため、ストレッチを自ら行うというのは素晴らしいことですが、リスク管理ができていないと逆効果になってしまうため、必ず専門家に診断してもらってから行うようにしてください。
編集部
ヨガなどの先生にはリハビリ期間中であることを伝えた方がいいのでしょうか?
吉川さん
ヨガやピラティスの先生にも、必ず伝えた方がいいでしょう。専門の先生であれば、解剖学なども熟知していて、リハビリ治療中の部位へ負担がかかる動きは避けてレッスン内容を組んでくれるはずです。
ストレッチには大きく分けて2種類あり、使い分けが大切
編集部
ストレッチにはいくつか種類があるのですか?
吉川さん
ストレッチには大きく分けて、静的ストレッチと動的ストレッチの2種類があります。静的ストレッチは勢いをつけず、ゆっくり20秒から30秒ほど筋肉を伸ばします。動的ストレッチは身体を動かしながら筋肉を伸ばすもので、ヨガや健康体操はどちらかというとこちらに該当します。もちろん、ヨガや健康体操の中には静的ストレッチも含まれます
編集部
静的ストレッチと動的ストレッチの効果の違いは何でしょうか?
吉川さん
静的ストレッチは伸ばしたい筋肉を引っ張ることで、筋肉と骨を繋ぐ腱が切れてしまわないように神経的(Ib抑制)に働いて筋肉を緩める効果があります。例えば、脚を前後に開いてふくらはぎのストレッチをする時に、ふくらはぎの筋肉が硬いと筋肉が伸びないので、アキレス腱が切れてしまいそうなくらいの負荷がかかります。そこでアキレス腱が切れないように神経に働きかけることで、ふくらはぎの筋肉が緩み、アキレス腱への負荷が少なくなるという仕組みです。一方の動的ストレッチは身体を動かしながら行うため、筋肉を温めながら伸ばすことができたり、複数の筋肉の動かしやすさを高めたりすることができます。
編集部
静的ストレッチが活用されるのはどのような場面ですか?
吉川さん
静的ストレッチはどのような場面でも活用できますが、特に1日の終わりやリハビリ終わりの疲れた時に行うと効果的です。静的ストレッチは、疲労回復やリラックス効果があるため、使いすぎて硬くなった筋肉を緩め、深い睡眠が取れるように助けてくれます。そのため、日々の身体の調整として行なっていくといいでしょう。
編集部
では、動的ストレッチが活用されるのはどのような場面でしょうか?
吉川さん
動的ストレッチ(ヨガ・ピラティス・太極拳・健康体操など)は動きを伴うため、ストレス解消や身体の上手な動かし方を覚えたい時に有効な方法です。人は意外に自分の身体を思うように動かすことができていないのです。例えば、目を閉じて両手を水平に上げようとしても、目を開けてみたら水平でなかったり、どちらかの手が上がっていたりと左右で差が見られたりします。身体を上手に動かすことはケガや慢性障害(四十肩や腰痛)を防ぐことにもつながります。また、ウォーミングアップとしてスポーツの前に行うのも効果的です。
編集部まとめ
リハビリ期間中でも注意点を守れば、ストレッチなどをしても大丈夫ということがわかりました。静的ストレッチの場合はほとんど問題ありませんが、治療中の部位に負担がかからないか確認する必要があります。また、動的ストレッチはケガの状態や運動のレベルによって判断が変わるため、必ず医師や理学療法士に相談しましょう。そして、許可が出てもヨガやピラティスを行う場合は、必ず先生にリハビリ期間中であることを伝え、注意しながら行うことをおすすめします。