腸が肛門から出てくる「直腸脱」、慢性化すると生活はどう変わる?
高齢者に多いとされる「直腸脱」。ということは、誰でもいつかは起こりえるということです。腸が肛門から出てくると、どのような不具合に見舞われるのでしょうか。今からできる予防法とは。直腸脱の詳細を、「田島外科」の田島先生が解説します。
監修医師:
田島 雄介(田島外科 院長)
埼玉医科大学卒業。埼玉医科大学総合医療センターや肛門疾患の専門病院などを経た2019年、「田島外科」を継承。生活習慣病などの内科疾患から外傷などの外科疾患も扱っている。医学博士。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本臨床肛門病学会技能指導医、難病指定医、日本医師会認定産業医、埼玉医科大学非常勤講師。日本臨床外科学会、日本遺伝性腫瘍学会、日本消化器内視鏡学会の各会員。
便秘と加齢が最たる二要因
編集部
便秘で“いきむ”と「脱腸を起こす」と聞きます。
田島先生
誤解の多い部分なので、まず、言葉の整理をさせてください。「脱腸」が使われるのは、主に「鼠径(そけい)ヘルニア」という足の付け根にできた病気の場合です。足の付け根に膨らみを伴うのですが、その中身が腸というわけです。
編集部
今回、言いたかったのは、肛門から腸が出るケースでした。
田島先生
その場合は、「直腸脱」といいます。肛門部は正常で、直腸だけが反転して体外へはみ出る症状ですね。そこで先ほどのご質問ですが、排便時のいきみで直腸脱になることは、大いにありえることです。
編集部
直腸脱の原因は、いきみだけでしょうか?
田島先生
いきみと平行して、骨盤底筋群という一連の筋肉が衰えることによっても生じます。「肛門括約筋」も骨盤底筋群の1つで、ご高齢の方に直腸脱が多いのはこのためです。直腸脱が起きた方は、子宮脱やぼうこう脱など、さまざまな“筋肉の緩み”を併発しているかもしれません。
編集部
いずれにしても、徐々に進行するのですよね?
田島先生
そうですね。直腸脱の初期では、手で患部を押すと元に戻ります。元に戻るというより、「肛門の内側まで引っ込められた状態が続く」と言ったほうが正確でしょうか。いずれ、症状の進行により、10cmに及ぶような直腸脱を起こしかねません。
生活の質をかなり低下させる汚れや臭い
編集部
直腸脱に、前触れのような傾向はあるのでしょうか?
田島先生
残便感を伴う、トイレットペーパーの汚れが大きい、いつもより「肛門が広くなっている」感覚がある、粘液の漏れによって下着が汚れる、トイレットペーパーに血が付いているなどでしょうか。
編集部
このような前触れの段階では、自然に治らないのですか?
田島先生
骨盤底筋群の衰えが関係しているので、あまり期待しないほうがいいでしょう。一時的に治まったとしても、再発する可能性はあります。やはり、専門の医師から運動の指導や生活・食事・排便のアドバイスなどを受けてください。
編集部
直腸脱が頻繁に起きてくるようになったらどうしたらいいのでしょう?
田島先生
頻度に加え、押しても戻らなくなってくると、手術しない限り治りません。腹腔鏡を肛門から挿入する術式がありますが、やはり開腹手術と比べると、再発率は高くなります。開腹して、広い視野を確保しながら手術を進めたほうが、確実だと思われます。また、直腸の状態を元に戻したとしても、骨盤底筋群の衰えは残ります。別途、運動などの工夫を続けてください。
編集部
どうしても手術が嫌な場合、どうすればいいでしょう?
田島先生
死へ結びつくようなことはありませんが、生活の質が落ちるでしょう。下着の汚れ、出血、臭い、便失禁などですね。ご高齢者の場合、手術リスクそのものが高まるので、難しいところです。基礎疾患の有無も含めて、慎重に検討していきましょう。
便秘の解消と、元気なうちから筋トレを
編集部
予防方法としては、とにかく便秘の解消ですよね?
田島先生
便秘の解消と、いきみぐせを治すことですね。水分や食物繊維の積極摂取など、できるところから始めてください。また、便意がなくとも、「同じ時間に便器へ座る習慣」を付けましょう。ほか、朝食を忘れずに取るなど、1日のリズムづくりも大切です。
編集部
次のステップとして、骨盤底筋群の筋トレを試みるのですね。
田島先生
肛門外科や直腸外来、泌尿器科などへご相談ください。ご自身でやるとしたら、「骨盤底筋群 筋トレ」などで検索してみるといいでしょう。このとき、医師が監修している記事を選んでくださいね。医師と相談せずに通販グッズなどを頼るのは、あまりお勧めできない方策です。
編集部
最後の手段は手術ですが、どのような内容なのでしょう?
田島先生
肛門側からの手術では、はみ出ている直腸の複数箇所を、ねじるようにして縫い縮めます。すると、全体の尺が短くなりますので、肛門の中へ自然と吸い込まれていきます。加えて、伸縮性のある輪のようなひもで、肛門括約筋を補強することもあります。ただし、この方法は再発リスクが高いですし、異物を入れることによる感染リスクも懸念されます。個人的には、開腹し、直腸をつり上げて固定する方法が確実だと考えています。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
田島先生
とにかく、便秘にならないことですね。便秘を放置していいことは、なにもありません。直腸脱の手術をすると入院しなくてはいけないので、かなり生活や仕事に制限が加わります。前触れの段階から、予防や加療に努めてください。加齢要因には、運動が効果的です。
編集部まとめ
腸が肛門から出てくるのは確かで、「骨盤底筋群の衰え」という観点を忘れないようにしてください。この筋肉によって、いろいろな内臓の位置が保たれているということです。加えて大腸の場合、便秘がバランスの崩れを加速させます。補足ですが、「脱腸」という言葉の混同にも気をつけましょう。
医院情報
所在地 | 〒243-0212 神奈川県厚木市及川1-12-15 |
アクセス | 小田急線「本厚木駅」よりバス20分 |
診療科目 | 外科・胃腸内科・肛門外科・整形外科・乳腺外科・内科 |