【闘病記】「私の胃がんは初期症状全くなし」胃カメラで発見できた
自らの闘病体験を振り返り、「がんの早期発見が大切」と訴える、胃がんサバイバーの大場さん。今回の記事で、がん発覚に至った経緯から、告知を受けたときの心境、その後の治療経過など、生々しい過去を語っていただきました。医師の発言と異なり、患者の側に立った“想い”が込められています。読者自身の身に置きかえて受けとめてみてください。
※本記事で記載している個人名や会社名などは、それぞれ了承を得たうえで公表しています。また、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。
体験者プロフィール:
大場 正恭さん(プルデンシャル生命保険株式会社 東京第一支社 エグゼクティブ・ライフプランナー/部長)
東京都在住、1972年生まれ。現職に就任したばかりの2017年、企業内定期健診をきっかけに胃がんが発覚。診断の翌月、胃のほぼ8割に及ぶ摘出手術を受け、その約2週間後に退院・復職を果たした。現在、抗がん剤などは服用せず、栄養補助剤と消化を促す薬の処方とともに、術後は3カ月に1回の血液検査のみで経過観察中。極端な体重変化や食事制限もなく、診断前と同様の生活を送っている。
監修医師プロフィール:
寒河江 三太郎先生(厚木胃腸科医院 院長)
北里大学医学部卒業後、国際親善総合病院での研修を経て慶應義塾大学一般・消化器外科教室に入室。その後、稲城市立病院、平塚市民病院、慶應義塾大学病院で消化器疾患を中心に幅広くキャリアを積み、2015年に父が院長を務める「厚木胃腸科医院」を継承。地域のかかりつけとして一般外来をおこないながら、「厚木から胃や腸のがん患者をゼロにしたい」という思いのもと、専門分野である内視鏡による胃がんや大腸がんの早期発見・早期治療に尽力している。日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本禁煙学会認定指導医。
※寒河江先生は監修医師であり、大場さんの担当医ではありません。
目次 -INDEX-
初期症状はなく、内視鏡検査で発覚した胃がん
編集部
最初に、胃がんと診断された経緯から伺わせてください。
大場さん
私の勤めている会社では、35歳以上の社員は全員、人間ドックの受診が義務づけられています。そこで毎年、誕生日月の10月に、胃の内視鏡も含めた検査をしてもらっていたのです。検査の1週間後、病院から「すぐに来てほしい」と電話がかかってきたのは2017年の仕事中のことで、漠然とした不安に襲われました。業務を中断して駆けつけたところ、胃がんと診断されました。
編集部
胃の内視鏡検査は「会社の決まり」だったのですか?
大場さん
会社の費用負担が得られるのは、バリウム造影検査までです。がん診断時のさらに4年ほど前から「胃が少し荒れている」との指摘を受け、また、ピロリ菌への感染が判明したため、除菌治療に入っていました。そんな経緯もあって、バリウム造影検査から胃の内視鏡検査へ切り替え、差額を自己負担していたのです。
編集部
ピロリ菌の感染は、胃がんの主要な原因として知られていますよね?
大場さん
除菌治療の当時、医師から受けた説明としては、「ピロリ菌のせいで胃炎が治まりにくい。だから、がんへ発展しないうちに除菌を」というものでした。なお、1回目の治療では除菌しきれなかったのですが、仕事の忙しさもあって数年がたち、やっと2回目の除菌治療を受けていたなかでの「胃がん発覚」という流れですね。
編集部
胃腸や消化器の調子って、普段はどうだったのですか?
大場さん
正直、自覚症状は“全く”ありませんでしたね。むしろ「大食い・早食い」なのに体重が60kg前後で変わらず、それを自慢していたところもあります。身長が178cmなので、元々痩せ気味といえるのでしょうか。ちなみに、現在の体重は55kg前後で安定しています。
ショックはやがて、「早く治療を終えたい」という希望に
編集部
がんの発覚時、医師からはどのような説明を?
大場さん
第一声は、「胃の中に悪いモノが見つかった」でした。ただし、がんの初期ということで、胃の約8割程度を摘出すれば大事に至らないとの説明もありましたね。とりあえず安心したものの、食べることが好きでしたから、「胃が8割も摘出されたら、どうなっちゃうんだろう」というショックと大きな不安を覚えました。
編集部
摘出手術以外に、治療の選択肢はあったのですか?
大場さん
かつて腰のヘルニアの治療で背中を切開し、そのときの術後の痛みが今でも忘れられず、医師に「開腹せずに、内視鏡や腹腔鏡では手術できないんですか」とお聞きしたのですが、「まだ若いから開腹のほうが確実だよ」と言われ、最終的に納得しました。「ある程度再発も防げる」点も、開腹手術を選んだ大きな理由です。
編集部
告知を受け、最初に頭をよぎったことはなんでしょう?
大場さん
手術まで約1カ月で検査して、その後の退院まで約2週間かかるとのことで、まず仕事のことが心配でした。加えて、「入社10年目の社員に与えられる特別休暇」を取得できておらず、近々、妻と旅行する予定があったのです。もちろんキャンセルせざるを得ませんでした。一方で、生命保険の営業という仕事柄、「これは、自分自身の貴重な経験になるかもしれない」とも思いました。我ながら、割と冷静でしたね。
編集部
「余命」という言葉が頭をよぎったりしましたか?
大場さん
どうしても、インターネットなどで、いろいろと調べたくなりますよね。その中には、落ち込むような情報も、勇気づけられる情報も、たくさんありました。素人考えですが、その差は「がんを早期発見できたかどうか」だった気がします。自分は早期発見のケースなんだから大丈夫だろうと。そう、自分を励ますしかなかったですね。むしろ、「早く摘出してしまいたい」という気持ちが芽生えてきました。
胃の全摘になるかどうかは、がんの出現部位による
編集部
その後、どのような治療を受けることになったのですか?
大場さん
がん治療そのものは、胃の約8割の摘出をもって“終わり”ということになりました。胃が2割しか残っていない状態でしたから、術後は固形物などは食べられず、流動食などを1日数回に分けてとっていましたね。私自身、料理ができませんので、妻の支えなしには生活できませんでした。胃を摘出した人向けの「料理レシピ本」なども出版されていて、妻は何冊も買って参考にしていました。感謝で一生、頭が上がりません。
編集部
先ほど、体重もあまり落ちていないとのことでしたね。
大場さん
医師によっても異なるのでしょうが、私の担当医は「とにかくお腹一杯食べなさい」という方針でした。その通りに実践していたら、術後3カ月ほどして、固形物や通常の食事量に「胃がなじんで」きました。今では、消化補助剤の処方を受けているものの、普通に食事できます。
編集部
「元のように食べられなくなるのでは」という不安は、払拭されたわけですね。
大場さん
はい、私の場合、がんが胃の下の方にできていたため、胃の上部を部分的に「残せた」そうです。もし、上のほうにできていたら、胃を全く残せない「全摘」になっていたのだとか。そう考えると、2割でも、あるとなしでは大違いですよね。本当にラッキーでした。胃を少しでも残せたおかげで、今ではちゃんと食欲もあります。
編集部
ちなみに、セカンドオピニオンは受けられましたか?
大場さん
最初に聞いた時は、開腹手術には抵抗を感じたんですけどね。一方で「早く摘出してしまいたい」という気持ちもあったので、考える時間をかけず、すぐに手術を受けました。セカンドオピニオンで時間を取られたくなかったからです。
編集部
転機となる手術を終えて、心境の変化をお聞かせください。
大場さん
これからの時代、3人に1人や、2人に1人ではなくて、「がんは全ての人がかかる病気」になる気がします。少なくとも、何らかのがん発症リスクは、皆さんそれぞれが抱えているのでしょう。だからこそ、定期的なチェックによる早期発見が大事だと思います。実際、私の担当しているお客さまにもそう伝えるようにしています。自覚症状があってから検査なのではなく、“定期検査を続けながらがんと向き合っていく”。そんな心境です。
今だから言えること、伝えたいこと
編集部
勤めている職場も、がんへの理解がありましたか?
大場さん
生命保険の営業ですからね。私のお客さまで、がんに罹患された方もいらっしゃいますし、そんな方々の不安な気持ちを共有できて、これからは他のお客さまにもお伝えできると思ったら、むしろ前向きになりました。そういえば、入院中、同室の高齢のがん患者さんがいまして、改めて実感したことがあります。
編集部
どのようなことでしょう?
大場さん
ご高齢でのがんの症状がつらかったのでしょう。どうしても治療に前向きになれないようで、お薬を飲み忘れたり、食事をとらなかったりと、医師や看護師から何度も注意されていました。それを見て自分は若いうちに早期発見してもらい、本当にラッキーだったなと実感しています。
編集部
もし、病気にかかる前の自分にメッセージを伝えられるとしたら?
大場さん
「バリウム検査から胃カメラ検査に切り替えておいて正解!」ですね。それと、これは半ば笑い話ですが、「住宅ローンのがん保障特約付き団体信用生命保険(がん団信)に入っておいて!」です。これは、住宅ローンの返済中にがんを発症すると残債が「0円」になるという特約です。私は残念ながら入っていなかったので、これからもあと30年ローンを払い続けていきます……。
編集部
がんを意識していない人にも一言お願いします。
大場さん
「胃の内視鏡検査を、一度でいいから受けてみてください」ということでしょうか。胃の中で凹凸のあるような腫瘍だったら、おそらくバリウム造影検査でも発見できるのでしょう。一方で、胃の細胞組織の中に“染みこんでいくような浸潤性のがん”は、造影に出ません。がんの摘出手術前になぜか再度バリウム造影検査も受けたのですが、その画像に私のがんは映っていませんでした。あるはずのがんが見つからないって、怖くないですか?
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
大場さん
もし、発見が遅れ、がんが他に転移していたら、放射線治療などの長期的な治療に取り組んでいたでしょう。私自身、今、ここにいなかったかもしれません。これからは、がんの発症は誰にでも起き、避けられない運命という気がしています。ぜひ、内視鏡検査による直接的な早期発見に努めてください。それにより、その後の皆さんの人生が左右されますよ!
監修医師からのコメント:
寒河江 三太郎先生(厚木胃腸科医院 院長)
大場さんがお元気になられて、本当に良かったです。
通常、日本国内での胃がん治療は、「胃癌治療ガイドライン」に沿って行われますが、がんの進展具合により、治療法は大きく異なってきます。 ごく早期のがんでは、胃カメラで取れる場合もあります。その場合入院期間も1週間程度です。がんが進んでしまっている場合は、大場さんのように開腹手術や腹腔鏡手術などで、胃とその周りのリンパ節・臓器を一緒にとります。進行の具合によっては術前もしくは術後に化学療法を行う場合もあります。少しでも早期発見・早期治療することが有効なのは、間違いありません。
特に胃がんは、早期発見が有効で、早期胃がんでは治癒率が9割を超えています。大場さんのおっしゃるとおり、多くのがんには症状がありませんので、定期的ながん検診、特に胃に関しては、胃カメラ検査と早めのピロリ菌除菌をおすすめします。
編集部まとめ
定期的な健診が受けられる環境だったこと、胃の内視鏡検査へ切り替えていたこと、早期発見により摘出手術だけで済んだこと。がんを克服できた要因として、この3点が大きいようです。加えて、家族と職場の協力が得られたこと、たまたま生命保険の営業という仕事もあって、冷静にがんと向き合えたことなどが、以前と変わらない生活を取り戻せたのでしょう。「胃の内視鏡検査を、一度でいいから受けてください」。それが、インタビューを受けてくださった大場さんからの、切なるメッセージでした。
監修医師からのコメント:
寒河江 三太郎先生(厚木胃腸科医院 院長)
最近の研究により、腹腔鏡下胃切除と開腹胃切除を比較すると、早期胃がん(ステージ1)の場合は、短期的(手術したあとの合併症など)にも長期的(がんが再発しないかどうか、長生きできるかどうか)にも同等という評価になっています。進行胃がんの場合は、短期的には同等、長期的には現在研究中となっています。
治療の際は、医師からメリット・デメリットを伺った上で、治療法を選択するようにしましょう。