長い歴史がある東洋医学、いったい何がすごいの?
その発祥が2000年ほど前の中国に遡る東洋医学。西洋医学が定着してきた現代でも脈々と受け継がれているのは、どうしてなのでしょう。「全人的医療」と言われる理由について、東西医学ビルクリニックの齋藤先生を取材しました。
監修医師:
齋藤 竜太郎(東西医学ビルクリニック 院長)
帝京大学医学部卒業。川崎幸病院での勤務を経た1999年、東西医学ビルクリニック副院長就任。現職は2005年から。東洋医学と西洋医学の結合による、心と身体にやさしい医療の提供と研究をおこなっている。日本整形外科学会専門医。日本東洋医学会、日本整形外科学会、日本統合医療学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本バイ・ディジタルオーリングテスト協会の各会員。
人に寄り添うことで、症状の緩和を図る
編集部
ズバリ、東洋医学のすごいところはどこでしょう?
齋藤先生
西洋医学では臓器の不調を治療していくのに対し、東洋医学は身体全体を治療していきます。なおかつ、その仕組みが、約2000年の歴史の中で積み上げられてきた実践ベースの学問体系に裏付けられているといったところでしょうか。
編集部
もう少し、詳しくお願いします。
齋藤先生
つまりは人全体を対象とするのです。同じ風邪でも、熱の出方も違うし、頭痛など症状の有無も違う。さらにその方の体質も違いますよね。であれば、それぞれ異なるアプローチが必要という考え方をします。また、原因の特定できない場合や未病の状態でも、症状を和らげることができます。つまり、東洋医学には、不定愁訴(ふていしゅうそ)という概念がないのです。
編集部
「不定愁訴」とは何ですか?
齋藤先生
原因が良くわからないのに、体のだるさや眠気、食欲低下などの様々な症状が現れることです。症状が出ているなら、それをなんとかしましょうと。こうした、一人ひとりの体質や特徴に着目した手法を、「全人的医療」といいます。
編集部
対する、西洋医学の考え方とは?
齋藤先生
検査で異常が見つかり病気と診断されて、初めて治療を行います。つまり、「病気の原因」に着目することですね。インフルエンザならウイルスが原因だろうといった感じですね。ですから、せきの場合でも体の痛みの場合でも、基本的に同じ抗インフルエンザ薬が出されます。他方、原因のわからない不定愁訴には、手の出しようがありません。また、異常の起きている患部を「取り除こう」とすることも、西洋医学の特徴です。
編集部
その他、東洋医学と西洋医学の違いはありますか?
齋藤先生
東洋医学では、患者の訴えや患者さんを直接「見る」「触る」といった四診で診察を行い、検査で異常がなくても不調があれば、治療の対象となります。また、症状がある場合、病気による前段階である「未病」と考えて治療を行います。
アレルギー、婦人科疾患、心療内科に強い東洋医学
編集部
東洋医学が最も得意とする分野・症例について教えてください。
齋藤先生
慢性疾患の治療に適していると考えています。たとえばアトピー性皮膚炎の場合、西洋医学なら、ステロイド剤と保湿剤の処方が一般的でしょう。他方の東洋医学は、漢方薬によって体の内から改善を図ります。ステロイド剤のような「長期服用による副作用」はほとんどありませんので、安心して治療に取り組んでいただけるでしょう。
編集部
ほかにもあったらお願いします。
齋藤先生
自律神経が関係している病気・病態も、漢方の得意とするところです。月経周期に伴う婦人科の疾患などですね。月経前症候群(PMS)や更年期障害、不妊治療などにも試してもらいたいですね。
編集部
心療内科の疾患についてはどうですか?
齋藤先生
向精神薬や抗うつ病薬の「強い効き目」を嫌がる方がいらっしゃいますよね。漢方薬だけでは限界があるものの、向精神薬や抗うつ病薬の服用量を減らすことは可能です。漢方薬だけでコントロールできる方もいますし、抗うつ病薬と併用することで、全体量を減らす方もいらっしゃいます。
編集部
これらを西洋医学でアプローチすると、どんなことが起きるのでしょう?
齋藤先生
西洋医学が得意とするのは、数値的なコントロールです。ホルモン量や血圧などを、標準的な数値へ変化させるのです。このため、予期していない変化、つまり好ましくない副作用を起こすことがあります。標準的な数値へ収まったとしても、頭痛やイライラ感などの症状を起こす方がいます。
編集部
東洋医学は、対症療法なのですか?
齋藤先生
そのような見方もできるかもしれません。しかし、「原因に働きかける西洋医学と組み合わせやすい」というメリットもあります。西洋と東洋で、入口と出口それぞれにアプローチするような治療も成り立つでしょう。
編集部
東洋医学と西洋医学を組み合わせることでどのようなことが起こるのでしょう?
齋藤先生
お互いに得意とする分野を組み合わせることによって、より良い効果に期待できます。最近ではこれを「統合医療」と言い、注目されております。
診断を付ける代わりに、「証」を見立てる
編集部
東洋医学の場合、対話を重視すると伺いました。詳しく教えてください。
齋藤先生
東洋医学では、前述のように、患者さんの訴えを聴きます。また、五感を使った四診(望診、問診、聞診、切診)にて診察を行います。簡単に言うと、「この患者さんはどんな人なのか、どんな生活をしているのか」ということを、明確にしていくのです。
編集部
その後の処置についても教えてください。
齋藤先生
問診や触診などを重ねたうえで、その人なりの「証」を見立てます。「証」というのは、訴え、四診からみた病態の特定といったところでしょうか。「診断」は、原因からみた病気の特定なので、アプローチは異なります。「証」は、その人の症状ごとに異なりますから、治療は手技や鍼(はり)・灸(きゅう)、漢方薬などを個人ごとに組み合わせていきます。
編集部
その場合の方法は、患者が選べるのですか?
齋藤先生
漢方薬がメインとなるものの、「鍼灸が効果的だと判断した方にはお話する」などして、おすすめしています。
編集部
西洋医学を否定しているわけではないですよね?
齋藤先生
もちろんです。感染症や急性疾患、外科的治療を優先する場合、西洋医学が適しているでしょう。重度の生活習慣病で、血糖値や血圧が異常なほど高い場合なども、西洋医学の手法が求められます。
編集部
東洋医学中心に進められるケースはあるのですか?
齋藤先生
ありますね。免疫を上げるということは、漢方の得意とするところです。昨今、薬への耐性を持ったウイルスが登場してきています。こうなると、ご自身の免疫力を上げることが一番です。また、ワクチンの作られていない新たな感染症が起きた場合なども有効です。以前、中国でも猛威をふるったSARS(重症急性呼吸器症候群)、現・新型コロナウイルスが流行したとき、中国では漢方が多く使用されたと言われております。
編集部
ちなみに、漢方には保険が効くのでしょうか?
齋藤先生
適用されます。漢方の場合、特定の治療方法に対してではなく、漢方薬の種類ごとに保険の適用が認められていて、現在、140種類以上の漢方薬が保険の適用を受けています。これらの漢方を組み合わせた場合も同様です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
齋藤先生
困っているのに、現在の西洋医学では解決できない場合、ぜひ、漢方によるアプローチをご検討ください。西洋医学の治療を終えた後の予後回復にも効果的です。組み合わせや選択肢がより多く持てるということを、この機に知っておいていただきたいですね。
編集部まとめ
原因はともあれ、「まず、症状を緩和しましょう」というのが、東洋医学の特徴であるようです。その効能は、約2000年にわたって積み重ねられてきた経験則に、裏付けられています。症状に合わせた処方ができるということは、症状さえ起きていれば「人を選ばない」ということ。「全人的医療」と言われる理由が、ご理解いただけたでしょうか。
医院情報
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診療科目 | 内科、皮膚科、アレルギー科、整形外科、心療内科、婦人科 |