下肢静脈瘤の日帰り手術って、どの範囲まで可能なの!? リスクはない?
足の表面がデコボコしてきたり、ひどいときには湿疹を伴ったりする「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」。どの範囲までなら手術で治せるのか、禁忌などの制限はないのか、考えられるリスクは何か。さまざまに湧く疑問を、「横浜血管クリニック」の林先生に投げかけてみました。
監修医師:
林 忍(横浜血管クリニック 院長)
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院で臨床を積み重ねつつ、慶應義塾大学医化学教室にて細胞防御関連の研究で医学博士号を取得。その知見を済生会神奈川県病院、済生会横浜市東部病院勤務などでの血管外科臨床へ生かす。2016年には、横浜駅西口に血管疾患に特化した「横浜血管クリニック」開院。これまで、下肢静脈瘤の治療件数は1万例以上に上る。医学博士。慶應義塾大学外科学非常勤講師。日本外科学会指導医・専門医、日本脈管学会脈管専門医、下肢静脈瘤血管内焼灼術(レーザー治療)指導医・実施医ほか。
足の静脈には、1本の本流と2本の支流がある
編集部
まず、「下肢静脈瘤」という病気について教えてください。
林先生
足の静脈にある「弁」が機能しなくなり、血液の逆流を起こしてしまう病気です。血管の蛇行やこぶなどを伴うことが多いものの、見た目に現れない場合もあります。
編集部
さらに詳しくお願いします。
林先生
わかりました。足の静脈は主に3系統あり、ふくらはぎに「小伏在静脈」が、太ももからすねの横にかけては「大伏在静脈」が、足の奥には「深部静脈」が、それぞれ走っています。蛇行やこぶは、皮膚の近くを走る「小伏在静脈」と「大伏在静脈」にのみ起こります。
編集部
下肢静脈瘤の治療は、小伏在静脈と大伏在静脈に対しておこなわれるのですね?
林先生
そういうことになります。足に走る血液のうち約90%は、「深部静脈」を経て心臓に帰ってきます。ざっくり言うなら、大伏在静脈と小伏在静脈には、残り5%ずつの血液しか流れていません。だったら、逆流を放置するより、なくしてしまったほうがいいのではないか。それが、下肢静脈瘤手術の基本的な考え方です。
編集部
「なくすこと」による弊害はないのですか?
林先生
ありません。むしろ逆流を放置していることのほうが弊害でしょう。蛇行やこぶ、血栓などを生じさせかねないですからね。ただし、大前提になるのは「深部静脈」がきちんと機能していることです。
日帰りが可能なレーザー手術のフロー
編集部
治療方法にはどのようなものがあるのでしょう?
林先生
切開を伴う手術で静脈を抜く「ストリッピング手術」と、レーザーファイバーを血管の中に通して血管内を焼く「レーザー手術」があります。両者の成功率や再発率はほぼ変わらないものの、安全性に勝り、痛みが少なく、日帰りでできるレーザー手術に分があるといえるでしょう。
編集部
日帰り可能なのは、レーザー手術だけなのですか?
林先生
そうなります。ストリッピング手術の場合、傷の痛みや麻酔などの影響もあり、入院でおこなうことが多いです。レーザー治療の傷跡は、膝の横に空けたファイバーを通す小さな穴だけです。そのため痛みが少なく、日帰りが可能なのです。
編集部
日帰りレーザー手術の流れを教えてください。
林先生
初診時に問診と超音波検査をして、「深部静脈」がきちんと機能しているかどうかを確認します。機能していれば、手術日の予約をしていただきます。なお、手術後当日はお風呂に入れないので、必要に応じて、前日あるいは当日来院される前に入浴してください。それ以外の準備は、とくにありません。基本は予約制ですが、遠方の方で初診当日に手術をしたケースもありました。
編集部
続けて、手術当日についてもお願いします。
林先生
当日はまず、採血や心電図といった一般的な術前検査をおこないます。問題がなければ手術です。必要な時間は、症状が片足だけに出ている場合と両足の場合で異なり、片足ならだいたい15分から20分、両足なら30分から40分といったところでしょう。
編集部
術後の再受診は必要ですか?
林先生
経過観察のために必要です。術後1週間以内に予後の確認をし、その後は3カ月ごとに2、3回受診してください。また、手術後は約3カ月から半年間、「弾性ストッキング」を着用していただきます。
編集部
弾性ストッキングとは?
林先生
治療用のストッキングのことです。足の静脈を流れる血液は、重力に逆らって登っていくわけですよね。このとき不可欠なのが、静脈内の「弁」です。血液は、弁で仕切られた血管の中を、1段ずつ移動していきます。さらにこの移動を助けてくれるのが、血液をギュっと押しだしてくれる“ふくらはぎの筋肉”です。弾性ストッキングは、ふくらはぎの筋肉の収縮をサポートしてくれます。
手術で対応できる範囲とリスクについて
編集部
レーザー手術で治せない下肢静脈瘤はありますか?
林先生
「深部静脈」が機能していない場合を除けば、ほとんどの症例に対応できます。そして、健全な状態まで戻すことが可能です。ご高齢者でも、血液をサラサラにするお薬をのんでいる方でも、遠慮なくご相談ください。ただし、エコノミークラス症候群の後遺症による二次性の下肢静脈瘤が疑われる方は、適応外になります。
編集部
ストリッピング手術とレーザー手術、それぞれのリスクを教えてください。
林先生
ストリッピング手術のリスクは、全身麻酔や腰椎麻酔の合併症と、膝下におこなうケースの約1割で起こるとされる神経損傷などです。レーザー手術のリスクは、ほとんどありません。現在のところ、レーザー手術による死亡例は1例もありません。血管外科の専門医がおこなえば、まず大丈夫と言っていいでしょう。
編集部
蛇行とこぶ以外の症状はあるのでしょうか?
林先生
足に皮膚炎や湿疹などを伴うことがあります。このような場合、皮膚科を受診されることがほとんどだと思いますが、もしかしたら下肢静脈瘤によるものかもしれません。改善がみられないようなら、一度、血管外科を受診されてはいかがでしょうか。原因が下肢静脈瘤であれば、健全な状態まで治すことができます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
林先生
下肢静脈瘤により色素沈着が起きるとなかなか取れません。色素沈着に限らず、見た目や生活の質にも関わってきますから、なるべく早めの治療開始をお勧めします。レーザー手術の費用は、3割負担として片足4万5000円程度です。完治が望める安全な治療ですので、心身ともに健康を取り戻しましょう。
編集部まとめ
下肢静脈瘤の治療は、ストリッピング手術とレーザー手術があり、レーザー手術は日帰りが可能とのことでした。基本的に「深部静脈」が健全であれば、安全な治療を受けられ、完治も望めるとのこと。なるべく早めの治療がお勧めとのことですので、心当たりがありましたら、まず受診してみることが大切です。
医院情報
所在地 | 〒220-0073 横浜市西区岡野1-14-1 横浜メディカルセンタービル2階 |
アクセス | 横浜駅西口から徒歩約7分 |
診療科目 | 血管外科・外科・循環器内科・下肢静脈瘤日帰り治療センター |