自然分娩より帝王切開のほうが「楽」?
監修医師:
柴田 浩之(柴田産婦人科医院 院長)
日本人は傷跡が残りやすい体質
編集部
自然分娩より帝王切開のほうが「楽」というウワサは本当でしょうか?
柴田先生
一概にそうとは言えません。確かに予定で帝王切開を受ければ陣痛の痛みは体験しないことにはなりますが、お腹を切る手術なので入院は長くなりますし、術後の痛みもあります。また合併症になる可能性もあります。ただし中には「初産の自然分娩が大変だったので今回は帝王切開にして下さい」という妊婦さんもいらっしゃいます。
編集部
なぜ帝王切開を繰り返すのでしょう?
柴田先生
次に妊娠したとき、傷跡から子宮破裂を起こすリスクが高くなるからです。すべてのケースで該当するとは限らないものの、万が一を考えると、2度め以降の出産も帝王切開にしておいたほうが安全でしょう。
編集部
以前の傷跡が完全には癒えていないと?
柴田先生
必ずしもそういう訳ではないのですが、子宮を切って縫合した部分は完全に癒えていたとしてもその部分の壁が薄くなってしまっていることも少なくなく、次の妊娠時の陣痛で子宮破裂を起こすリスクがあります。
編集部
子宮破裂以外のリスクはありますか?
柴田先生
術後血栓症、子宮周囲の臓器損傷、創部離解などの他、皮膚の傷跡がケロイド(やけど跡のように皮膚が盛り上がってミミズ腫れのようになった状態)として残る場合があります。皮下組織や皮膚を細かく丁寧に縫って術後のケアをしっかりすれば予防出来る場合もあるのですが、皮膚の色素量など体質的な要素も関係してくるため、手を尽くしても人によっては発症してしまいます。
編集部
ケロイドが起こる起こらないは、個人の体質なのですか?
柴田先生
はい、それもあります。例えばケロイドは皮膚の色素が多い人ほど発症しやすい傾向があります。ですから人種とも関係しているんです。一般に白人種には起こりにくく有色人種には起こりやすいとされています。傷跡がほとんど目立たなくなる方もいらっしゃいますが、日本人
編集部
それでも帝王切開を望むとしたら、保険は適用されるのでしょうか?
柴田先生
「産道が硬い」「児頭に比べて骨盤が狭い」など何かしらの病名、病態が付けば保険適用は可能です。しかし医学上の理由が見当たらなければ原則として全額自費になります。それでもご希望されるなら、保険適用のある帝王切開と同様にリスク、ベネフィットなどを説明し、同意書にサインをいただいた上で帝王切開施行、ということになります。
母体だけでなく、子どもへの影響も考慮
編集部
麻酔が胎児へ与える影響はあるのですか?
柴田先生
脊椎麻酔による胎児への影響はないと考えていただいてもよろしいかと思います。ただし、一刻を争うような超緊急性の帝王切開では静脈麻酔などの全身麻酔を用いることがあります。脊椎麻酔では、背中の注射部位を確認したり消毒したり、また脊椎麻酔の効果発現を待つなどして手術可能な状態までどんなに急いでも10分から15分くらいはかかってしまうためです。全身麻酔ですと赤ちゃんに移行する麻酔薬の量が場合によっては多くなってしまうので、産まれても泣いてくれないケースもあります。そうすると赤ちゃんの状態が悪くて泣かないのか、それとも一時的に麻酔の影響で眠っているだけなのか判断が難しくなります。
編集部
麻酔以外の影響はどうでしょう?
柴田先生
経膣自然分娩であれば赤ちゃんは自らのタイミングで狭い産道を長時間かけて通過してくるので、ある種のストレスを受けて自発的な呼吸が確立しやすいといえますが、陣痛が無い状態の場合は、こちらで決めたタイミングでいきなり外界へ取り出されることになるわけですから、過呼吸や努力性の呼吸を起こす赤ちゃんもいます。
編集部
緊急性のある帝王切開とは、どのようなケースでしょうか?
柴田先生
「胎児心拍の低下」、最終的に胎児が降りてこない「分娩停止」などが主なものでしょうか。胎盤が胎児娩出前に子宮内ではがれる「常位胎盤早期剥離」に代表されるような超緊急の場合は全身麻酔により一刻を争って胎児を娩出させなくてはならないケースもあります。
語源について
編集部
ところで、なぜ「帝王」切開と呼ばれるのでしょう?
柴田先生
いわれには諸説ありますが、確かなものはないようです。良く言われていることとしては、古代ローマ時代の帝王「シーザー」がこの方法で出産したという説でしょうか。しかし、この説は現実的でないように思います。シーザーの母親はシーザーが40歳近くなるまで生きていたとされていますが、紀元前に子宮切開をして赤ちゃんを取り上げることはできたとしても、母体を生かすほどの医療技術があったとはとても考えられないからです。
編集部
にもかかわらず「シーザー」説は有力ですよね?
柴田先生
古代ローマには、妊婦が亡くなったとき胎児を取り出して別に埋葬する「遺児法」という法律がありました。また、そのときの切開術を「セクティオ・カエサレア」と呼んでいました。この「切る」という意味の「カエサレア(caesarea)」が、誤って「カエサル(Caesar・英語読みシーザー)」に訳されてしまった、と考えるのが最も自然ではないでしょうか。諸説あるなかでこれが最もわかりやすく、人々の興味を引きやすい話なので最も有名な説となったと思われます。
編集部
帝王切開は世界共通の言葉なのですか?
柴田先生
英語圏では一般にC-section、あるいはCSと呼んでいてこれはCesarean section(アメリカ英語、読み方はシザリアンセクション。イギリス英語ではCaesarean sectionと綴る)の省略形です。このCesarean は帝王カエサルの、という形容詞形です。英語以外でも多くの言語で帝王切開にはこの「カエサルの」を意味する語が使われており、ラテン語からこの意味で訳されたことがうかがえます。
編集部まとめ
日本人はケロイドになりやすいという話はびっくりでした。今回は帝王切開のリスクについて詳しくお伺いしました。どうやら、「帝王切開は自然分娩よりも楽」というのは偏見のようです。「自然分娩の痛みは耐えられなそうだから」と短絡的には考えてはいけませんね。
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