【漫画付き】プールの水が耳に入ると中耳炎になるってウソ? ホント?
子どもに多い耳の病気の典型が中耳炎です。鼓膜の内側に膿や水がたまる病気で、このことから、「プールの危険性」が一部で取り沙汰されていますが、その真偽はどうなのでしょうか。インターネットで調べてみても、是非の両論が展開されているようです。この点について、はたのクリニックの波多野先生に解説をお願いしました。
監修医師:
波多野 篤(はたのクリニック 院長)
1984年岡山大学医学部医学科卒業、同大学院博士課程終了。岡山大学、東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科などにて勤務。2011年からは東京慈恵会医科大学附属第三病院に勤務、その後診療部長、准教授を経て2018年はたのクリニックを開院し同病院非常勤診療医長を務める。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科 専門研修指導医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医制度暫定指導医、日本耳鼻咽喉科学会認定 騒音性難聴担当医、身体障害者福祉法15条指導医、難病指定医
中耳炎で問題になるのは、むしろ鼻という事実
編集部
プールの水が耳に入ると、中耳炎になるのでしょうか?
波多野先生
編集部
なぜ、一部でプールの危険性が取り上げられているとお考えですか?
波多野先生
中耳(鼓膜の奥)は「耳管」という管で鼻の奥とつながっており、唾をのみこんだりした時にこの耳管が開くことで中耳の圧調節と換気を行っています。子供によくみられる中耳炎には風邪症状の後に耳が痛くなる「急性中耳炎」と、中耳に水がたまる「滲出性中耳炎」があります。急性中耳炎では、風邪や副鼻腔炎といった鼻やのどの炎症を起こしたときに、この耳管を経由した感染により中耳内に炎症が起きることで発症します。まだ泳ぎが上手でない子供さんではプールの水を誤って飲み込んでしまうことがあり、その際に鼻の奥から耳管を経由して中耳へ細菌やウイルスが侵入して、その結果として中耳炎を起こすことは考えられます。また、消毒のためにプールへ入れている塩素は、時に目や鼻の粘膜を刺激する傾向があります。プールの後に、鼻水や鼻つまりがある場合には片方ずつゆっくりと鼻をかむようにしてください。鼻をすするのは耳にはよくありません。
編集部
すでに中耳炎の場合、プールは可能でしょうか?
波多野先生
前述したように、中耳炎には、風邪をきっかけに発症する「急性中耳炎」と、耳の中に水がたまる「滲出性中耳炎」があります。急性中耳炎では、耳痛や耳漏がある間や、副鼻腔炎などのために膿性の鼻水がある間はプールに入らないほうがいいでしょう。また、滲出性中耳炎の場合は耳痛などの症状はあまりなく、耳管による換気障害が主体です。治療中は、鼻の治療や鼓膜換気チューブ挿入などを含めて水泳を控える意見もありますが、一方では、感染に注意しながら病院での管理をしっかりした上で、状態が悪化した場合には休むのであれば、プールを良しとする意見もあります。個人的には、健康増進を含めたプールの良い点を考慮して、お母さんにこういったことを十分ご説明したうえで、ご希望する方には通院していただき鼓膜の状態を見ながらプールを良しとしています。
編集部
急性と慢性は、どう見わけるのですか?
波多野先生
風邪の症状に伴い、耳の痛みや発熱などの急性症状を伴って受診された場合は、急性中耳炎が疑われます。滲出性中耳炎では、耳痛は少なくお母さんの呼びかけに反応しにくく聞こえの悪い感じで気づいたり、少し大きくなると自分で耳がつまった感じなどを訴えます。高い所に登ったり飛行機に乗ったときなどに、耳がつまる感じがありますよね。あれに近い感覚なのですが、小さなお子さんの場合、症状をうまく伝えられないことが多いので、聞こえ具合に関してお母さんが注意してみてあげてください。
子どもが中耳炎になりやすいのは、「免疫力の谷間」にあるから
編集部
中耳炎の治療方法について、教えてください。
波多野先生
急性中耳炎では重症度により治療内容が異なります。熱や鼓膜の色合い、腫れ具合などを総合して重症度分類をして、軽症であれば、風邪など鼻やのどの炎症の治療を行い、耳については経過観察を行う場合もあります。中耳炎は鼻やのどの炎症を契機に起きる病気なので、鼻やのどの処置も重要なのです。
編集部
重度の場合は、どうするのですか?
波多野先生
先にお話しした重症度が中等度以上であれば、抗菌薬(俗にいう抗生物質)の治療をします。薬の治療でも治りにくかったりさらに鼓膜の奥に膿が貯まり全体が腫れるような重度な場合には鼓膜切開と言って鼓膜に小さな穴をあけて中耳にたまったウミを出します。そうすることで中耳の中の細菌の量を減らすことができ、その際に細菌検査を行うことでより効果的なお薬の選択が可能となります。
編集部
なぜ子どもは、中耳炎にかかりやすいのでしょう?
波多野先生
子供は大人に比べて耳管が太く短く水平なために、鼻の炎症が中耳により及びやすいことがあります。また、乳幼児の免疫力は未発達であり胎盤を介した母親由来の免疫が生後6カ月前後で最低値となり生後24カ月まで低免疫状態が続きます。またこの頃、離乳もはじまり母乳を介した免疫も低くなります。原因菌の要因でも2歳未満の子供さんでは薬が効きにくい耐性菌が多くみられます。これらの要因のために2歳未満の子供では中耳炎を繰り返しやすく治りづらいと考えられます。また、保育園のような集団保育が始まるのもこのころ。風邪をお子さんの間でキャッチボールのようにやりとりしますから、細菌やウイルスといった病原体にさらされやすいのです。
編集部
大人も中耳炎にかかるのですか?
波多野先生
もちろんです。大人では子供に比べて急性中耳炎は少ないのですが、子供のころに中耳炎を繰り返し鼓膜に穴が残った状態である慢性中耳炎や、耳を繰り返し触ることで起こる外耳炎や外耳道湿疹もみられます。急性中耳炎になった場合には、大人は自覚症状(耳痛など)があるので受診していただけますが、小さなお子さんは、症状をうまく口に出せないので機嫌が悪かったり熱を出してぐずったりするだけのこともあります。自分で言えない分、親が注意してあげてほしいですね。
家庭環境も中耳炎を悪化させる一因
編集部
中耳炎のほか、子どもに多い耳の病気には何がありますか?
波多野先生
耳垢が耳の穴の中で固くなってしまい鼓膜が見えない場合(耳垢栓塞)があります。ピンセットや鉗子(鉗子)を使って取り出します。固い場合には薬を使って柔らかくします。その他、外耳炎や外耳道湿疹も子供で見られる耳の病気です。
編集部
その他、耳の病気について気をつけたいことはありますか?
波多野先生
家族の方の喫煙ですね。反復性中耳炎や滲出性中耳炎では、家族の喫煙により治りにくくなるとした報告があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
波多野先生
急性中耳炎の治療では、原因となる細菌に対する抗菌薬などの薬の治療と風邪や副鼻腔炎などの鼻の治療も同時に行います。最初に処方したお薬で、耳の痛みや発熱といった症状はよくなっても鼓膜の奥の炎症はすぐに治るとは限りません。初めの段階での重症度に応じて薬の調整をしますが、数日後必ず受診していただいて鼓膜の腫れや色合いがよくなっているか確認する必要があります。その際に、薬の効果が十分に見られない場合は薬の増量、変更、さらに鼓膜切開が必要な場合もあります。担当の先生の指示に従って、しっかり治るまで治療を続けてください。また、お薬が苦くてはき出す姿を見ると、かわいそうに思ってしまうかもしれません。しかし、薬によっては1日2回でなく、3回飲むことでしっかり効果が得られるものもあります。お子さんのためだと思って、処方上の注意を守っていただけると助かります。
編集部まとめ
中耳炎は鼻の奥にいる細菌やウイルスが、鼓膜の奥の「中耳」へ達することによって生じるのでした。耳と鼻をセットで考えておいたほうが良さそうですね。一方、プールの水は鼓膜というフタで遮られるため、直接的な関係となりえないようです。また、受診の指示やお薬の注意点を守らないと、症状を悪化させてしまうかもしれません。これは親の務めです。医師の言うことをよく聴くようにしましょう。
耳が痛い症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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