特例承認された新型コロナ治療薬「レムデシビル」とは? 「アビガン」見送りはどうして?
厚生労働省は5月7日、米国の大手製薬会社ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を薬事承認。4日に申請されてから、わずか3日での特例承認となりました。日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象にした初めての承認医薬品となりましたが、どのような薬なのでしょうか。また、国内では「アビガン」が先に話題になっていましたが、なぜレムデシビルのほうが先に承認されたのでしょうか。両薬の違いとは。日本感染症学会専門医の加藤先生に伺いました。
監修医師:
加藤 哲朗(日比谷クリニック 副院長、日本感染症学会感染症専門医)
編集部
日本では「レムデシビル」が特例承認となりましたが、どんな薬なのでしょうか?
加藤先生
レムデシビルはもともとはエボラウイルス病(エボラ出血熱)に対して治療するために研究開発がすすめられたが、結果的にはあまり効果が認められなかった薬剤です。作用機序は、ウイルスのRNA合成にかかわるRNAポリメラーゼの機能を阻害するとされていますが、不明な部分も多い薬剤です。エボラウイルス病に効果が認められなかったものの、安全性についてはエボラウイルス病での試験投与である程度確認できたという事実もあります。今回の新型コロナウイルスはエボラウイルスと同じくRNAウイルスであり、これに対して、試験管のなかでの抗ウイルス効果が認められたため、ヒトでの治験が行われ、限定的ではあるがいくつかのデータが発表され、承認となったという流れになります。
編集部
RNAの増幅を阻害するという点では「アビガン」と同じだと思いますが、違いは何でしょう?
加藤先生
アビガン®(一般名:ファビピラビル)も、RNAポリメラーゼ阻害という作用機序ですので、似ているところもありそうです。異なる点としては、投与経路の違い(レムデシビルは点滴、アビガン®は内服薬)、副作用プロファイル(レムデシビルは肝障害や腎障害、アビガン®は催奇形性)などが挙げられます。ちなみにですが、レムデシビルとアビガン®を比較したデータもありませんので、作用機序が似ていてもどちらが優れているということは言えません。
編集部
なぜ世界中から求められている「アビガン」は承認見送りになったのでしょう?
加藤先生
一番大きな差は、レムデシビルで報告されているエビデンスが、アビガン®にはまだないことです。「~さんに使って効果があった」という報告だけでは、有効性が確認されたことにはなりません。極端なことを申し上げると、効果があった報告はその薬が本当に効いたのかわからないこと(薬が無くてもよくなった可能性)、その薬剤を使ってもよくならなかった方もいる可能性があること、などもありえますので、やはり承認されるためにはそれなりの客観性のあるエビデンスが必要になります。恐らくアビガン®についても治験が進んでいるはずで、そのエビデンスが出次第、承認されるものと思われます。
編集部
これまではウイルスの増殖を抑える薬の話題が多かったように思いますが、ウイルスによって引き起こされる炎症を抑制する薬や、ダメージを受けた肺組織を修復する薬などの状況はどうなっているのでしょうか?
加藤先生
レムデシビルやアビガン®以外にも、クロロキンやヒドロキシクロロキン(※)、イベルメクチン、シクレソニドなど抗ウイルス活性をもつ薬剤、ナファモスタットやカモスタットのように新型コロナウイルスが細胞に入り込む部分を阻害するとされる薬剤、新型コロナウイルス感染によって引き起こされる炎症の暴走(サイトカインストーム)の原因の一つと考えられているIL-6(インターロイキン6)を抑えるトシリズマブなどが期待されています。また幹細胞の吸入という治療も試されているそうです。しかし先ほどの質問の回答にもありますが、現時点で標準的な治療が確立されておらず、またどの治療法がより優れるかということもわかっていません。今後さらに研究が進み、どういった患者に、どのタイミングで、どの治療法を選ぶのがよいか、がわかってくること、また1種類の薬剤だけではなく例えば異なる作用機序の薬剤を複数使ってみる(併用してみる)、などの治験もすすんでいき、より効果的な治療方法がでてくることが期待されます。
※6月8日追記